上杉隆氏の華麗なる弁論テクニック

 以前より注目を集めていた町山智浩氏と上杉隆氏の公開討論「ニコ生×BLOGOS番外編「3.14頂上決戦 上杉隆 VS 町山智浩 徹底討論」 - ニコニコ生放送」がとても面白かった。上杉隆氏については今までTwitterでの断片的な発言や彼の周辺をめぐる言説を見て、単純に不誠実な人だなという印象しかなかったのだが、生で彼の弁論術を見て、なるほどこれは一種の才能であると敬服せざるを得なかった。なかなか貴重な体験だったので、せっかくだから彼の弁論術について私が感じいった部分を少し要約してみたいと思う。

1を聞かれたら10答える

 彼の弁論術を支える基本は、その言葉数の多さである。ごくごくシンプルな質問であっても、一見無関係なディテールから描き出し、質問の核心に触れることを巧妙に避けつつ、全体としてみればその質問に対する回答として推論可能な形に落としこむ手口は鮮やかの一言。

 この戦術の効果は非常に大きく、まずながら見で見ている聴衆にはその意図を読み取ることが極めて困難であるということ。そして、その意図を理解するために非常な集中力を要するため、対論者の体力を効果的に奪う事が出来る。また細かな事実を大量に羅列することで、彼が事実に基づいて発言していること、そしてとても頭の回転の早い人間であるという印象を与えるのにも一役買っている。事実彼は相当に頭の回転の早い人物なのだろうことは間違いない。このように立板に水で言葉を紡ぐのは自らの体力の消耗も激しいはずで、そのスタミナの高さもまた特筆すべき点だろう。

自分の意見は言わず相手に要約させる

 上記戦術と並んで上杉氏の弁論術の根幹をなすのが「直接自分の意見をまとめることはせず、対論者に要約させる」ということ。前述した通り上杉氏の発言は一見無関係なディテールが膨大で聴衆がその意図を理解するのが極めて難しい。要約するよう求めても更に言葉数を増やしますます難解となっていくので対論者が上杉氏の意図を推論し、要約するしかない。その要約が正しいのかどうか意見を求めてもまた言葉数を増やし合っているのか間違っているのかわからないが全体としては合っているように思われる返答しか返ってこない。ダメージを与えているはずなのにいつまでたっても倒しきる事が出来ない。まるでドラクエで無限に増えるマドハンドを相手に戦っているようなものである。

 またここで、相手の質問の意図を正確に理解していないかもしれないというアピールをすることも欠かさない。私も間違える、だからあなたも間違えるかもしれない。そう印象付けることで退路を確保するのもその場しのぎではない、長期的な戦略を感じさせ恐れ入らざるを得ない。

過去の発言の矛盾は要約者のミス

 上記の相手に要約させるという戦術は過去の矛盾を指摘された時にその効力を最大限に発揮する。特に文字原稿に要約する際は上杉氏の膨大な言葉の中から文意が伝わるようにセンテンスを構築せざるを得ない。映像ソースを持ちだしてみても上杉氏の言葉は全体を見てようやくおぼろげに意図がつかめるといったものなので、一部分を抜き出して決定的な言質を取ることが極めて難しい。

 それは相手が意図を取り違えただけである。あるいはひょっとしたら意図的にそうしたのかもしれないが、というさりげないアピールも忘れない。記事製作者になんらかの悪意があったのではないかと匂わせることで自身を被害者であるように印象付け、自らのペルソナである「権力に立ち向かう正義の人」というスタンスをけして崩さない。なるほど「正義の人」を求める人達の熱い支持を受けるのも納得するところである。

事実は深く追求しない

 そもそもこの討論は、町山智浩氏がTwitterで「上杉隆氏がTBSラジオ キラ☆キラを降板させられたのは東電批判のためではなく官房機密費問題で失言をしたから」といった主旨の発言をし、それに対して上杉隆氏が訂正を求めたことに端を発します。

 番組途中及び事前の公開質問状町山智浩氏が上杉隆氏に謝罪をしている意図を図りかねている人も多いのではないかと思いますが、これはその後町山氏が当時の状況を整理し、改めて関係者に取材をすることで「上杉隆氏が降板させられた真の理由は失言ではなく、その後に上杉隆氏が名指しでTBSを非難する文章が週刊ポスト誌上に掲載されたからである」という新たな事実に行き当たったからなんですね。町山氏は当初のTweetの誤りを認め、新たに判明した事実を上杉氏にぶつけたわけです。

 これはさすがに決定打だろうと思ってみていたわけなのですが、上杉氏はそこで思っても見なかった奇策に打って出ます。町山氏はその事実に行き当たった根拠を番組共演者である小島慶子氏の発言に求めたわけですが上杉隆氏は「それはあくまで小島慶子さんの推測であって事実であるとは限らない。そしてその件は私にとっては重要事項でないのでもう事実を追求するつもりはない」と返したんです。必殺ブローがまさかのノーダメージ。こう返されてはもはや打つ手はありません。

 そして更に恐ろしいことに上杉氏は事ここにいたってもいまだに「TBSラジオ キラ☆キラ降板理由は東電批判のせいかもしれない」という可能性を否定していないんです。そもそも上杉氏は様々なメディアを通じて「東電批判のせいで降板させられた」といった印象を与える表現をしていますが、よくよく聞いてみるとあくまで「東電批判をしたその日に突然降板を言い渡された」という事実を述べているだけでその因果関係については直接触れていないんですね。

 町山氏が労力を重ねて検証しほぼ確実であろう事実に行きあたっても、自らは深く追求しない事で別の可能性を残し続ける。ここにまさに上杉隆氏の弁論テクニックの粋を見た思いです。おそらく彼は周囲から矛盾を指摘されても今後もこのロジックを用い続けることでしょう。


 私はジャーナリストとは「推論を元に仮説を打ちたて、その仮説を実証するために証拠を積み重ね事実を詳らかにする」科学的な職業であると考えています。その点で上杉隆氏が自らを「元ジャーナリスト」と名乗りジャーナリストの看板を降ろしていることはとても正しい態度であると認めています。彼の行なっていることは「推論を元に様々な仮説を打ちたて、それが事実であった場合に大々的に公表をする」といったもので、これは非常に伝統的なある職業の行動様式と一致します。予言者と呼ばれる人達ですね。予言者の言う言葉は常に正しく、それ故に毀誉褒貶ありながらも一定の人々から熱烈な支持を得ます。

 一見論が噛み合わず退屈な討論に見えますが、Twitterの断片的な発言からは窺い知ることの出来なかった上杉隆氏の人気の理由をはっきりと知ることが出来たこの番組は大変に面白いものでした。もっとも、もう二度と上杉隆氏の出演する番組を見たいとは思いませんが。

関連リンク
ニコ生×BLOGOS番外編「3.14頂上決戦 上杉隆 VS 町山智浩 徹底討論」 - 2012/03/14 23:00開始 - ニコニコ生放送
上杉隆氏への公開質問状 - 映画評論家町山智浩アメリカ日記
キラ☆キラ降板問題 - 上杉隆 wiki - アットウィキ

ソーシャルゲームのRMT対策を改めて考える

 前回の記事で国内におけるRMTの変遷について軽くまとめてみましたが、それを踏まえてソーシャルゲーム上のRMTの問題点およびその具体的対策について検討してみたいと思います。

 まず改めてRMTの発生のメカニズムについてまとめてみます。

  1. RMTは時間と引き換えに無料で手に入る交換可能なアイテムの存在によって引き起こされる
  2. 運営会社によって無償で配布されるアイテムおよびゲーム引退者が残置するアイテムによってRMTは加速される
  3. 一度RMTが定着すると、より高効率にアイテムを収集するため他のプレイヤーの通常のプレイを阻害する破壊的RMT業者が横行し始める

 以上がネットゲーム上でRMTが問題として表面化するメカニズムであると私は理解しています。それを踏まえたうえでソーシャルゲームで悪質なRMT行為に対抗するにはどうしたらよいか改めて考えて見ましょう。

トレードの禁止

 まずはもっとも根本的かつ消極的なRMT対策です。ユーザー間でのアイテムの取引を禁止してしまえばRMTはそもそも成立しないわけですね。乱暴なと思われるかもしれませんが、実際人気タイトルでも最初からユーザー間のアイテムの取引機能を備えていないものはいくつもあります。代表的なところで言うとモバゲーの「ファイナルファンタジーブリゲイド」、GREEの「ビックリマン」「ドラゴンリーグ」といったタイトルは主要なアイテムをユーザー間で取引することは出来ません。ユーザー間での取引はゲームを面白くする一要素であることは間違いないのですが、今後RMTの問題が今以上に深刻になればこの方向に舵を切るタイトルは増えていくものと思われます。

アイテムの販売価格を下げる

 ではトレードの禁止以外で有効な対策方法はないのか、ということで次に考えられるのは「アイテム販売価格の大幅な値下げ」ですね。極端な話をすればRMT業者が販売する価格と同等かそれ以下で商品を提供してしまえばユーザーはわざわざリスクのあるRMTに手を出す動機はなくなるわけです。RMT業者も仕入れに一定のコストがかかっている以上、ある程度以上の値下げをされてしまえば利益を出すことがかなわず撤退せざるを得ません。

 とはいえこれはRMT業者にダメージを与えるという意味ではもっとも強力な手段ですが諸刃の剣でもあります。仮に全アイテムを半額にしてその時に存在するRMT業者を壊滅に追いやったとしても、新しい価格を前提としたRMT業者が出てきていたちごっこになることは想像に難くなく、この方法がとれるのは売り上げに明らかな影響が出るほどRMT業者が横行し始めたときくらいでしょうか。

 現状でも定期的なアイテムの安売りバーゲンセールを行っているタイトルは数多くありますが、セール後に元の価格に戻ることを考えるとRMT対策としてはむしろ逆効果になっている側面もあり扱いの難しいところですね。

無償アイテムの配布をやめる

 もうひとつの抜本的対策法は「有償アイテムと交換可能な価値のあるアイテムの無償配布をやめる」ことです。これはいわばドラゴンコレクション以前のソーシャルゲームのあり方に立ち戻るやり方と言えますね。基本無料を謳いながら有料アイテムを買わなければゲームの進行がままならないというのは強く批判の対象とされてきましたが、ことRMT対策ということだけを考えればとても有効な手段であると言わざるを得ません。

 とはいえこれも同業他社のサービスとの競争力を考えれば実行に移すのは困難でしょう。今現在のソーシャルゲームは有料アイテムと同等の効力のアイテムを無償で配布して初心者にも快適に遊んでもらい、効力を実感してもらった上で更に有料アイテムを買ってもらうというモデルが主流になっているからです。

ユーザー間の健全なトレードを促進する

 以上はRMT業者を壊滅させるための抜本的な手段を上げてきましたが、ここから先はそれが一定以上の困難を伴うことを前提とした上でもう少し実際的な対策方法について検討していきたいと思います。

 前回の記事でも触れましたが、悪質なRMT業者にとって、主に初心者プレイヤーをターゲットにした詐欺トレードや不当な交換レートによるトレードが大きな収入源となっており、こうしたゲームを破壊する行為の横行がソーシャルゲームユーザーの間で今最も問題視されています。ゲーム運営会社の多くはユーザー間のトラブルには一切関知しないという態度をとっており、ユーザーの不満は日々強くなっているというのが現状です。

 こうしたトラブルについて運営が直接仲裁に入ると言うのは困難が伴いますが、システムの援用と各種の啓蒙活動によってこういったトラブルを未然に防ぎ、ユーザー間の健全な取引を促進することは遠回りではありますが確実にRMT業者にダメージを与える方策のひとつであると考えます。

 例えばモバゲー「神撃のバハムート」で採用されているバザー機能は、他のプレイヤーの出品価格を一覧することが出来、通常のトレードに比べて度をはずして不利なレートで取引する危険性は大きく下げられています。こういった取り組みを更に発展させていき初心者であってもゲーム内での正当なレートを把握しやすく安全性の高い取引が活発になれば外部サイトを利用したトレードと言うのは下火になっていくでしょう。

引退プレイヤーの残置アイテムの価値を保証する

 初心者プレイヤーを狙い撃ちした詐欺トレードと並んでRMT業者の大きな収益源となっているのがゲーム引退者が残置したアイテムの安値での買い取りです。ゲームを完全に引退する決意をしたプレイヤーにとってゲーム内に残されたアイテムと言うのはそれ以前にどれだけ大金を投じていようと価値はゼロとなります。こうしたプレイヤーの「少しでも投じた金銭を取り戻したい」という心理を狙って安値での取引を持ちかける業者というのもまた多く存在します。

 この流通ルートをどう潰すのか、と言うことですが、現状ゲーム引退者といっても、その多くはモバゲーまたはGREEというサービスを完全に断つというよりも、あるゲームに飽きて他のゲームへと移動するケースのほうが多いと理解しています。

 もしそうであれば、アイテムの価値保証をするのに必ずしも現金に戻す必要はなく、他のゲームのアイテムへ安全に交換出来ればそれでよいと言うことになります。実際、ユーザー間およびユーザーと買取業者を介した異種ゲーム間でのアイテム取引というのも盛んに行われており、またこの異種トレードは先述した詐欺トレードの温床ともなっています。この異種ゲーム間トレードを公式にサポートすることが、RMTインセンティブを下げる上で大きな効果があるのではないかと私は考えています。

 異種ゲーム間での取引は収益構造に関わる部分も大きく実現は簡単ではないと思われますが、このままRMT市場が巨大化していけばいずれ外部業者による異種ゲーム間トレードサービスが出現することはほぼ間違いなく、それ以前になんらかの対抗措置を取るのが長期的にみて健全かつ実利的かと考えます。まずは運営会社が同じタイトル同士でのアイテムの交換等が実現することを望みます。

不正プレイヤーの取り締まり強化

 最後にもっとも常識的な対策についても触れておきましょう。RMTが業として成立するようになると先にあげた詐欺トレード等の迷惑行為の他に、自動巡回BOTによるゲーム内リソースの高速回収や仕様上の不備を突いたアイテムの不正取得という、ゲーム全体に影響する破壊的行為を行う業者が横行し始めます。こういった行為に対する毅然とした態度を取ることはRMTの問題を度外視してもユーザー保護の観点からみて強く推し進められるべきなのは言うまでもありません。

 とはいえ、これについては先日の「探検!ドリランド」で発覚したアイテム複製問題を機に言わずとも強化されるものと信じています。RMTはユーザー間でのアイテム取引要素のあるゲームでは必ず発生するものですが、重要なのは現金との取引を完全に撲滅することではなく、それが業として成立してしまうことを防ぐことだと言うことを念頭において、今後の対策が取られることを祈っています。

私考・RMTの歴史

 前回の記事の続きというわけでもないのですが、ネット上でまとまった記事を見つけられなかったので自分なりに理解している範囲でRMTの歴史について少しまとめてみようかと思います。あくまで私見であり、見落とし、勘違いも多々あるかと思いますので突っ込みよろしくお願いします。

RMT黎明期

 このあたりは通説ありますのでざっくりと行きますが、RMTという行為自体はDiabloUltimaOnlineといったネットワークRPGの黎明期からずっとあるものです。この手のゲームでは効率良くゲーム内リソースを得るために膨大な手間と時間を単純作業に費やさなければならないため、その手間隙をお金で買いたいというユーザーが自然に発生し、当初はゲーム運営会社もそれを特別問題視することなくネットゲームの文化のひとつとして広まっていったように思います。

RMT拡大期

 ただし、このやり取りがユーザー個人間で行われているうちはよかったのですが、お金の流れのあるところには必ずそれを業にする人達が現れます。RMT業者の誕生ですね。個人間の取引では詐欺等のトラブルのリスクも大きく、安全を買う意味でも業者による仲介が規模を増していきます。

 そうした中、アルバイトとして中国人等を安い人件費で雇い、ひたすらゲーム内で高効率でアイテムを回収することで儲けを出す自己生産業者と呼ばれる人達が現れます。2000年代前半にリネージュFF11ラグナロクオンラインといった人気ゲームを遊んだ経験のある人は、中華と呼ばれる他のプレイヤーと一切コミュニケーションせずにひたすら作業に没頭するアカウントを目撃したことは多いのではないでしょうか。

 こうした自己生産業者はやがてより高効率を求め、自動巡回BOTやバグを利用したアイテム増殖、果ては不定アクセスによるアイテムの取得にまで発展しゲームを破壊し始めます。多くのプレイヤーがこうした状況に嫌気を指していた中、ラグナロクオンラインで社員が自社アカウントを使ってアイテムを不正取得、RMT業者に横流しするという事件が発生し、RMTに対する嫌悪感は頂点に達します。

RMT衰退期

 時を前後して各ゲームがRMTの全面禁止を強く打ち出し、不正アカウントの取締りを強化したこともあり、自己生産業者自体は下火になっていったと思われます。といっても、従来からあるユーザーからの買取を基本とした仲介業者は今も細々と生き残っていますね。一時期に比べてMMORPGでのRMTが話題にならなくなったのは各運営会社の努力も大きいとは思いますが、もうひとつ決定的だったのは、ネットゲームの中心が基本無料アイテム販売型に変わっていったということも大きいと考えています。

 基本無料アイテム販売型のゲームというのは、言わば公式によるRMTと言えます。先述のラグナロクオンラインの事件では一社員が不正にアイテムを生産、横流ししていたことで問題になりましたが、これを公にゲーム内の窓口から販売してしまえばもはやRMT業者の出る幕はありません。RMT業者の役割は公式販売で売られていないアイテムの売買に限られ、次第にその規模を小さくしていったことは想像に難くありません。事実として2006年ころを境にネット上でRMTの話題が大きく取り上げられることはほとんどなくなっていきます。

ソーシャルゲームRMT

 さて、ここからが私論です。私は、ソーシャルゲームRMTは上記のMMORPGにおけるRMTとはまったく違う文脈から発展していったものだと考えています。ソーシャルゲームは最初から基本無料アイテム販売型のゲームとして発展したこともあり、従来のRMT業者の介入する余地はほとんどなかったのではないかと考えます。実際ネット上で今もサービスを続けているRMT業者を見ても、MMORPGソーシャルゲームの両方を扱っているサイトは皆無と言っていい。では、いったいどのように発展していったのか。

 ソーシャルゲームにおけるRMTが大きく注目を集め始めたのはやはり怪盗ロワイヤルの出現以降です。怪盗ロワイヤルでは有用なアイテムは公式から販売されているため、個人間で売買するメリットは本来薄い。そうした中、重課金者がゲームを引退する際に不要となったアイテムを廉価で販売し始めたんですね。主な舞台となったのはYahooオークション。これも従来のMMORPGRMTとは文脈を異にします。引退者にとってはゲームを離れてしまえばゲーム内アイテムの価値はゼロです。そのため公式での販売価格の5割以下という非常にお買い得な価格が設定されそれを別のユーザーが買うというサイクルが生まれ始めたんですね。

 お金のやりとりがあるところには必ず業者が誕生するということで、この売り手と買い手を仲介することで利益を出すものが現れてきます。これがソーシャルゲームにおけるRMT業者ですね。ゲームを継続しているプレイヤーからではなく引退するプレイヤーからの買取ですので手間は多いですが、ソーシャルゲームはユーザーの回転が早く、またその市場規模がMMORPGと比べてケタ違いであったため十分業として成立する下地が存在したということもあるとは思います。

カードバトルRPGRMT

 怪盗ロワイヤルの登場によって下地が出来たところに登場したのが、ドラゴンコレクション、探検ドリランドに代表されるカードバトルRPGです。今ソーシャルゲームにおけるRMTの中心舞台となっているのはこのジャンルと言って差し支えないでしょう。カードバトルRPGが怪盗ロワイヤルと文脈を異にするのは、ガチャ等のシステムによって初心者であっても価値の高いアイテムを偶然手に入れることが出来る、ということです。基本的に引退者から買取するしかなかった怪盗ロワイヤルと違い、ゲームを継続して遊んでいるプレイヤーから買取ができる分市場規模が更に大きくなったと言うことでしょう。

 ただし、この業者による買取はMMORPGにおける買取と決定的に違う部分がひとつあります。それは、MMORPGにおいては業者は現金でユーザーから買い付けていたのに対し、ソーシャルゲームにおいては、業者はゲーム内の別のアイテムとの交換という形でアイテムを集約しているという点です。特に異種間ゲームでのアイテムの取引において、各ゲームでのアイテムの需要の差を利用してその差分でアイテムを増やしている人達というのがかなりの数存在します。こうして集積されたアイテムの一部がRMTの商品として提供されているんですね。

 ここまでであれば、まだ比較的穏当な話ではあります。しかしこれも歴史は繰り返すという通り、業者の行為は限りなく違法な方向へ加速していきます。そのひとつは今ソーシャルゲーム中で最大のトラブルになっている詐欺トレードと呼ばれるものです。これはゲーム内でのトレードに慣れていない初心者を狙い打つことで、アイテムを受け取って相手には返さない、あるいはゲーム内での価値がまったく不釣り合いなアイテムと交換させることで一方的に利益を得る行為です。現在横行しているこういった行為の背後にRMT業者が存在することは想像に難くありません。

 そこから更に一歩踏み込んで違法に近づいたのが、先般話題になったアイテムの複製事件ですね。このあたりはまったくMMORPGにおけるRMTの歴史の引き写しと言って良いかと思われます。従来型のネットゲームに比べて元々RMTに強い構造をしていただけに対応が後手後手に回ったということもあるかとは思います。

 おそらく今後はこういった不正行為者の取締は厳しくはなっていくとは思いますが、問題は基本無料故にアカウントの取得が非常に容易であるということですね。特にユーザー保護の観点から、今後どのような対応策が取られていくのか注目していこうと思っています。

ソーシャルゲームガチャはパチンコよりも射幸性が高いのか?

http://blogos.com/article/33428/
いろいろと突っ込みどころ満載のこちらの記事ですが、とりあえずこの一文について。

ところが、現在のソーシャルゲームはこの数値以上にはるかに高い射幸心の範囲を設定できてしまう。そのため、RMT行為を通じて、換金できる状態は、パチンコ以上の違法状態と認定されてしまう可能性があるのだ。

 あくまで「設定できてしまう」という可能性の指摘ですので、まあ、できてしまうかもなーと言うことはできますが、果たして本当にソーシャルゲームのガチャはそれほどまでに射幸性が高いのか。実例がないのでこの記事だけではなんとも判断のしようがありませんね。そこで人気のソーシャルゲームであるアイドルマスターシンデレラガールズで、特に射幸性が高いとされるコンプガチャ景品となった「SR双葉杏」を例にとってパチンコと比較を行なってみようと思います。

 まずパチンコについて。BLOGOSの記事で引用されているものをそのまま用います。

・大当たり確率の下限は1/400。また、異なる確率を採用する場合、2種類までの確率(低確率と高確率)を採用できる。
・1回の確率変動で獲得できる平均出玉は8000個以下。
・総出玉のうち、役物による出玉(役物比率)が60%以下。
・打ち込み6000個(1時間)の出玉率の上限は300%、打ち込み60000個(10時間)での出玉率の上限が200%、下限が50%。

 出玉率上限200%というのは、10時間で6万発、4円パチンコなら24万円投資すると、最大48万円、最小12万円になる、という意味合いですね。また1回の確率変動で獲得できる平均出玉というのは、運が良ければ1000円くらいで8000発(等価交換なら3万2000円、2.5円なら2万円)程度のリターンが期待できるということです。

 さてSR双葉杏ですが、検索してみたところYahooオークションではおおよそ2万円程度の値が付いているようです。シンデレラガールズのカードとしては最も高価な部類ですね。コンプガチャは指定された6枚のカードを揃える必要がありますから最小の投入金額は6連ガチャの1500円。もっとも幸運なケースなら1500円で2万円相当のカードが手に入るという寸法です。少なくとも最も幸運なケースを比べた場合、パチンコと比べて「はるかに高い」ようには見えません

 次に24万円投入した場合の戻り率を検討してみましょう。これについては以前お遊びで作成したコンプガチャシミュレーターの数字を使ってみます。実際よりも若干甘めと言われていますが、傾向としてはそんなに外していないかと。

http://www.ani-ban.info/aimas/comp_sim/syuukei.php

 あくまで仮想の数字ではありますが、1枚手に入れる為にかかった金額を1000回分取ってあります。これで24万円で48万円=24枚の双葉杏を手に入れるケースがあるかどうか、ですね。ということで生ログから連続した24回でかかった最小値を取得してみたところ…53万1000円。なんと1000回の試行中最も幸運なケースでも、100%を割り込むんですね。ちなみに最も不運なケースを調べたところ、112万3500円となっていました。戻り率42%ですね。実際には2枚目はコンプ対象のダブりカードがあるのでもう少し期待値は高い可能性はありますが、そもそも平均戻り率が56%と、95〜100%程度の戻り率のあるパチンコと違って最初から収支が当てにできるレベルにはなってないんです。これはより射幸性が高いと言われるドリランドのコンプガチャであっても同様でしょう。

RMTとガチャは関係がない

 そもそも、ゲーム内で平均3万円以上かけないと手に入らないものがどうしてオークションで2万円程度で売られているのか。複製品?そういうケースもあるとは思いますが、実はどのゲームでもゲーム内アイテムのRMT市場での相場は、ゲーム内で正規の手段で手に入れる場合と比べて5割〜6割程度の価格が設定されているんですね。この全てが複製品であるとは考え難い。また、こうしたRMTの対象にされるタイトルというのは必ずしもガチャないしそれに準ずるシステムを備えているわけでもないんです。

 例えば誰もが知る有名タイトルである「怪盗ロワイヤル」にはガチャに相当するシステムはありませんがRMTでのアイテム売買は盛んに行われています。古に遡ってFF11ラグナロクオンラインRMTを考えてみても、当時はガチャに相当するような機能はなかったはずです。仮にガチャがRMTを加速させているという論拠があるのならば話は別ですが、そういった論拠のないままその2つを強引に結びつけている時点で元記事はバランスを欠いていると言わざるを得ない。

 これは私見ですが、RMTの源泉はゲーム内で無償配布される有料アイテムと、ゲーム引退者の存在にあると考えています。多くのタイトルでは通常100円程度で売られている回復剤等のアイテムを事あるごとにサービスとしてユーザーに無償で配っています。こうしたアイテムがゲーム内に滞留することで、ゲーム内アイテムの価値は実際のレートに比べて徐々に薄まっていく。これを加速させるのがゲーム引退者の存在です。ゲームの引退を決めたユーザーにとってゲーム内資産の価値はゼロです。そのため無償で知人に配ったり、他のゲームのアイテムと交換したり、あるいはゲーム内レートよりも大幅に安い値段でRMTを試みたりするんですね。特に組織的にRMTをやっている業者等は、そういったダンピングされたアイテムを集約して公式よりも安い値段で売ることで利ざやを抜いて儲けているんです。

 公式の言い値でギャンブル的な気分でガチャを回して儲けを出すというのは不可能とは言わないものの圧倒的に割が合わない。少なくともそういった動機でガチャを回す人というのを私は一人として知りません。

RMT業者とゲーム運営者は敵対関係にある

 記事中、パチンコの3店方式を例に出して、あたかもゲーム運営会社とRMT業者が相補的な関係にあるような印象を抱かせる記述がありますが、これもまったくナンセンスとしかいいようがない。ゲーム運営会社にとってRMT業者は、本来自分たちが受け取るべき対価を抜き取る商売敵、例えて言うなら書店に対する新古書店のような存在なんです。その是非はさておき、RMT業者がいるからユーザーがガチャを回してくれると考えるゲーム運営者は誰もいないでしょう。ユーザー同士のアイテムの交換はゲームを面白くする一要素ですが、こうした業者の介入を嫌ってトレード機能をあえてつけない人気タイトルも少なくありません。ランキングで名前が上がる範囲でも、GREEドラゴンリーグビックリマンというタイトルはアイテムのトレード機能をつけずにしっかりと収益を上げている例と言えますね。

 RMTもガチャも社会的に様々な問題を抱えていることは間違いありません。特に、錯誤や優良誤認を引き起こしやすいコンプガチャのような仕組みは景品表示法上問題になってくる可能性は非常に高いと思っています。

モバイルSNSゲームが儲かる本当の理由。かーずSPはなぜ15万もつぎ込んだのか? - Togetter

 しかしそれはあくまで個別の問題であって、一口にガチャと言ってもごく常識的な範囲で運用されているものも多数あるわけです。それはRMTも同様で、それぞれ直接的な因果関係のない、個別に解決すべき問題なんです。それを「賭博に似ている」という印象に基づいた推論で無理やり結びつけ危機感を煽ることに強い違和感を感じざるを得ません。

 繰り返しますが、ガチャもRMTも個別に問題はある。しかしそれは個別に解決すべき問題なんです。

追記

いくつかコメントで意見を頂いたので付記を。

id:tatsunop 換金性や高い金額そのものは射幸性の高さに起因する結果だから、ずれてる感じ。当たりの確率の低さと大金を出させる仕組みそのものが「射幸心を煽る」代物。ギャンブルとしての割りの悪さは無関係。

 ここではコンプガチャに限定しますが、コンプガチャが射幸心を煽る仕組みを持っていることは疑いようのない事実かとは思います。買うたびに少しずつ当たりに近づいていくというのが確率の錯誤を引き起こしやすく、想定されるボリュームゾーンを大きくかけ離れた金額を投入するハメになるのは非常に悪質な仕組みだと言わざるを得ません。しかしそれは仕組みそのものの問題で、パチンコと比較してどうこうという話ではないんですよね。元記事にあわせて、パチンコと同様の規制をした場合何か変わるのかという検証をしたまでで、数値による規制が射幸心を下げる効果は疑わしい(むしろパチンコの場合数値による規制が射幸心を煽っている部分もある)と思っています。

id:grizzly1 RMTが儲からないのは判ったけど、パチンコも全然割りに合わないと思うんだけど。まあ割に合うギャンブルなんて俺は知らない。

ここは重要なポイントなので要点をハッキリ言うと「ガチャはRMTインセンティブにならない」ということです。少なくとも組織的なRMT業者は有料ガチャを回すようなことは決してしないと断言してもいい。個人同士のやり取りであればそれはお互いにコレクションアイテムに価値を見出した上での取引なのでそもそもなんら問題はないんです。RMTの問題は、ゲーム内で価値を持つアイテムを公式が提示する価格よりも廉価に入手する方法があり、その転売によって利ざやが出るために大規模化すればするほど儲けが大きくなるということなんです。これはガチャシステムとはまったく無関係に発生する固有の問題で、元記事ではそれを意図してか意図せずか混同しているんですね。

 もしも有料ガチャをアイテムの仕入先とした場合、大規模化すればするほど確率的に収斂していきますから、RMT市場での販売価格も公式のそれに近づいていき、買い手側の需要も消滅してしまいます。そもそもガチャを含むアイテムの有料販売はRMTに対抗する意味合いが強く、それは一時功を奏していたようにも思いますが、市場がかつてのMMORPGとは比べ物にならないほど巨大化しRMT業者が適応してしまって現在に至っているという印象ですね。

ピアピア動画と未知との遭遇

 尻Pこと野尻抱介さんの新作SF小説「南極点のピアピア動画」読了。これは傑作ですね。ニコニコ動画初音ミクをモチーフにした、ピアピア動画とVocaloid小隅レイをめぐる連作4編。今からほんのちょっと未来、今よりもほんのちょっとだけニコニコ動画初音ミクが当たり前になった世界。そこでひょっとしたら起きるかもしれないちょっとした奇跡を描いた物語。そして人類と、異星文明との接触を描いた、ファーストコンタクトものでもあります。

 いったいなにがどうなってニコニコ動画とファースト・コンタクトが繋がっていくのか。ここがまさにこの作品の核なのですが、尻Pは、ニコニコ動画未知との遭遇、自分の理解の及ばない、異なった環境、異なった文化の人達と出会うことの出来る場所であり、Vocaloid初音ミクは、そこで人と人、あるいは人以外の何かであっても結びつけてしまう接着剤のようなものとして捉えているんですね。

 古来より数多く描かれてきた、人類とい成分名との接触。その時に生じるであろう摩擦をどう解決するかという問題に、なるほどこんな答えがあったのかと唸らずにはいられません。

  表題作である「南極点のピアピア動画」では、そのままストレートに、遠くアフリカの地に旅立って連絡のつかない恋人と再会するために、あるいは一度は諦めた夢をもう一度形にするために、それは用いられます。第2編である「コンビニエンスなピアピア動画」は、日常の中で見過ごされてしまいそうなほんのちょっとした気付きが、ピアピア動画を通じて世界へ拡散されることで、気宇壮大な出来事へと発展していくというお伽話。

期待して、待つということ

 両編に、そして全編に共通しているのは、こんなことがあったら、こんなことが実現したら面白いなという想いを、包み隠さずに表に出して、期待して待つという態度。あるいはまたその結果が期待したものとちょっと違っていても、受け入れてしまおうという鷹揚さです。それは両編のヒロインである佐藤美奈、上田美穂の二人の人格にもよく現れていて、未知のもの、よくわからないものを鷹揚と受け入れる態度というのはこんなにも魅力的なのかと思わずにいられません。

 女性たちが魅力的に描かれる一方で、本作の主人公である男たちは、少し胡乱な人物として描かれているところがあります。Vocaloidなんてただのソフトウェアで、なんでそんなものにみんな夢中になるんだかよくわかんないや、というムーブメントの外側にいる人たちの代表として描かれているんですね。知っているけど、それがそんなに凄いものなのかというのはサッパリわからないよ、という立場を取る主人公が次第に懐柔され、篭絡されていくところもまた本作の読みどころのひとつであるように思います。

壁の向こうとどうやってつながるのか

 この物語はまた、オープンソースハードウェアやUCGといった、個人ベースの創作物が世界を変えていく物語でもあります。一方で個人の力凄い、大企業なんていらないといった語りになっていないところも重要イントですね。第1編のプロジェクトもそもそもが大企業のスポンサーがつかなければ成立しない話ですし、第2編も、コンビニエンスストアの徹底的に合理化されたシステムが物語のキーポイントになっています。そもそも、ピアピア動画のモチーフになったニコニコ動画自体が、着メロ配信を足がかりに急成長を遂げた一大企業として作中で大きな役割を果たしているわけです。

 大企業、大組織といっても、その中には人がいて、社会を動かしている。普段は組織の壁で隔てられてその様子を伺うことができないけれども、Vocaloidのような存在がその壁をすり抜けて人と人とを繋いでしまう。その時いったいどんな素敵なことが起きるだろう?というのがこの連作のひとつのテーマなんじゃないかと思っています。

 第3編、第4編については実際に読んでいただくとして、最後に第3編からお気に入りの台詞を一節抜き出しておきましょう。

「人間じゃないものが人気者になると、みんな幸せになる、ってのが、<<小隅レイ>>のヒットでわかったことなんだ」

 この物語は、フィクションです。しかし、この物語で描かれている環境は、もはやフィクションではない。そう考えると、とてもワクワクして来ませんか?

ソーシャルゲームとコンテンツビジネス

 モバゲー「アイドルマスターシンデレラガールズ」の新キャラクターたちがオリジナル曲でCDデビューするということで話題を集めていますね。ソーシャルゲームキャラクターがCDデビューというのは初となるのかな?とはいえこれは今にはじまった動きではなく、昨年、コミック、小説、テレビドラマと展開した「怪盗ロワイヤル」、週刊少年マガジンで連載中の[ドラゴンコレクション」、また今春からTVアニメがスタートする「戦国コレクション」等、ソーシャルゲーム発のコンテンツというのは徐々にその数を増しつつあります。

 ところで、こう言った動きが進んでいる理由は何故なのでしょう?既に会員数1000万人を誇る怪盗ロワイヤルや会員数500万人のドラゴンコレクションといったタイトルがマルチメディア展開をしたところでその効果は軽微です。コンテンツ単体の売上を見ても今のところ大成功と言えるような例は出ていません。しかし、単純に売上につながる効果以上の意味が、これらの展開にはあると、私は考えています。

それは「ソーシャルゲームは後に何も残らないという批判に答えるため」なのではないかと。

 よく批判されているように、ソーシャルゲームはネットワークサービスである以上、サービスが停止してしまえば再び遊ぶことは出来ません。とはいえ、それがソーシャルゲームにとって致命的な欠点かというと、そうは思わないんですね。そもそも、昔遊んだゲームをもう一度という需要はもともと大きくはありません。いったい今昔遊んだファミコンゲームを今も手元に残している人がどれほどいるでしょう?また、ある種のアーケードゲーム等は物理的にもう二度と遊ぶことが出来ないものも多々あります。コンピュータゲームから離れても、例えば膨大な金額を費やしたトレーディングカードゲーム等も、手元にカードこそ残れどもブームが去った後で遊び相手を見つけることは至難でしょう。

 一方で、もう二度と遊ぶことがないようなゲームでも、そのゲームの動画やBGMを見聞きしたり、1枚のカードが手元にあるだけで、その時の思い出というのは鮮明に蘇ります。それをきっかけに思い出話に華が咲くこともあるでしょう。

 つまり、大事なのは「いつまでも遊べること」ではないんです。その時楽しく遊んだという記憶を引き出す「思い出のトリガー」となるものさえあればいい。そういったものさえあれば、たとえサービスが終了しても「何も残らない」ということはない。ソーシャルゲーム発のコンテンツにはそういった意味付けができるのではないかと。

 一方で最近は、既に有名なコンテンツを題材にしたソーシャルゲームも増えており、例えばモバゲー「ワンピースグランドコレクション」はサービス開始から4日間で100万人を集めるなど、集客面で絶大な効果を発揮しています。

 しかしこうした原作付きゲームは、それこそ本当に「後に何も残らない」んですね。思い出のトリガーとしての作品は、それこそ作品そのものの記憶と結びついて、ソーシャルゲームの記憶とは結びつかない。特に版権を得たものの売上が上がらず短期間でサービス終了してしまったものなどは、無駄にお金を使わされてしまったという負の感情だけが残るということも少なくありません。

 これは、作品にとっても、ソーシャルゲーム提供者にとっても、不幸な状況に思えます。キャラクター版権もののゲームがクソゲー化するのは世の常とはいえ、何も好き好んで繰り返していい歴史でもない。そういったことを考えていて思いついたのが、ソーシャルゲームのアイテムにコンテンツをオマケとしてつける」というアイデアです。

ガチャのオマケにマンガを付けるというアイデア

 ソーシャルゲームの課金方法としてもっとも高収益かつ、もっとも悪名の高いものにガチャがあります。ランダムに手に入るカード等のゲーム内アイテムを求めて、1回300円もするガチャを何十、何百回と回す人達がいる。後に何にも残らないデータに大金を投じるなんて…と眉をひそめる声は後を絶ちません。では、このガチャにちゃんと形として残るデジタルコンテンツをオマケとしてつけたらどうでしょう?

 このアイデアを最初に思いついたのはモバゲー「スラムダンク」を遊んでいた時なのですが、例えば1回300円のガチャに20ページのマンガをオマケとしてつける。マンガ1話300円!ですが、何もついてなくても300円で売れるガチャなんですから、支払う人は問題なく支払う。ここから作家の取り分をどうするか、ということですが、従来のコミックの相場通り印税1割でも30円原価が上乗せされるだけですからソーシャルゲーム運営側の視点で見てもそれほど過大な負担がかかるわけではない。ちなみにコミックを1話単位で販売している「集英社マンガカプセル」では1話あたり30円で販売していますので、コンテンツ配信に中間業者を置いても費用はさほど変わらないでしょう。

 マンガに限らず、例えばアイドルマスターのようなタイトルであれば、オマケに楽曲の着うたダウンロード権をつけてもいい。コミックよりは原価が高くなってしまいますが、例えば5回セットガチャに1曲みたいな形にすれば原価率としてはさほど変わらなくなる。

 たったこれだけのことでソーシャルゲームに対する「何も残らない」「焼畑農業ビジネス」といった声はグッと小さくなるのではないかと。少なくとも、今これを実際に実現すれば、それだけで大きな宣伝材料になることは間違いありません。

 そして何より、これは作品を提供する原作者のメリットが非常に大きい。現状ソーシャルゲームの版権は買い切りの形が多いと思われますが、印税形式になればゲームが続く限り継続的な収入を得ることが出来る。また、いままで作品が届かなかった層にまでリーチ出来る可能性も十分にある。

 それだけでなく、恒常的な値下げ圧力がかかっているコンテンツの販売価格を引き上げる効果も狙えるのではないかとも考えます。ガチャ1回とあわせて300円で売っているものが、マンガカプセルで直接買えば30円で買えるとなればグッと割安に感じる。ガチャの持つ「購入の心理抵抗を下げる効果」がコンテンツ販売にも波及すれば「ネット上のものはタダになる」といった馬鹿げた言説に対していいカウンターになる。そういった効果も期待できるんじゃないかと。

 負の側面ばかりが注目されがちなソーシャルゲームソーシャルゲームのガチャですが、この不景気の時代に多くの人達が喜んでお金を使っている仕組みをもっと有効に様々な分野で活用してもらえれば、などと考えながら、今日もケータイをポチポチといじっています。

ニコニコ映画上映会に総統閣下がやってくる!

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【97.4%無料放送】総統閣下、遂に降臨!「ヒトラー -最期の12日間-」(字幕版)/ニコニコ映画上映会 - ニコニコ生放送

 ということで、ニコニコ動画でコメント付きで映画を楽しめるサービス、ニコニコ映画上映会に嘘字幕MADで有名な「ヒトラー最期の12日間」が上映されますよ。しかも通常はプレミアム会員100円、一般会員400円のところを

本編151分中、3分59秒以外は無料!

という太っ腹具合。おっぱいぷるんぷるん!この3分59秒というのは言うまでもなく、MADで有名なあの部分ですね。このお馬鹿な企画を提案したニコニコ運営も、OKを出したワーナーの担当さんも素晴らしすぎます。一時一斉削除された総統閣下シリーズですが、このニュースの後も次々と投稿され、それは削除されている様子はない模様。ニコニコ動画で削除されてしまった動画もYouTubeでほとんど見ることが出来るので、予習されていくのをお勧めします。

総統閣下シリーズとは (ソウトウカッカシリーズとは) [単語記事] - ニコニコ大百科


総統閣下シリーズの火付け役の1つとなった「総統閣下がクリスマスについてお怒りのようです」

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【ニコニコ動画】【MMAD】ミク総統がお怒りのようです
MikuMikuDanceによる再現動画

 今までも有料ライブイベントの一部が無料で見られるといったことはありましたが、今回のこれは、本編を楽しむだけなら実質無料、ただしみんなと一体感を味わいたいならお金を払ってねという形になっていて、この結果がどうなるかとても興味深いですね。ここまで踏み込んだ企画はなかなかないかとも思いますが、もしこのイベントが大成功すれば、例えば通常の上映会でも冒頭の10分は無料視聴出来るみたいな形でより人を集めやすい形になっていくかもしれませんね。

 ということで「ヒトラー最期の12日間」は1月27日24時から上映!お見逃しなく!

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