コードギアス反逆のルルーシュR2「百万のキセキ」の考察記事に反応

素晴らしい考察

今回思い切ってブログを立ち上げようと思ったのは、コードギアスR2第8話に関しての素晴らしい考察記事を見つけて、これは是非とも反応したい!反応するならやはりブログを持ってトラックバックするべきだな!と思ったというのが実は一番強い動機だったりします。

ルルーシュは如何にしてリアリティを手放して日本人を記号化せしめたか - N.S.S.BranchOffice
http://d.hatena.ne.jp/north2015/20080526/1211743556

コードギアスのリアリティ----超常の力としてのギアス/超常ではない人間模様としてのギアス - シロクマの屑籠(汎適所属)
http://d.hatena.ne.jp/p_shirokuma/20080526/p1

批判と擁護という立場の違いはあれど、どちらもコードギアスの本質に鋭く切り込んだ素晴らしい考察だと思います。

第8話の評価

それを踏まえて私自身の立場を表明すると、この第8話は一貫したテーマの元に緻密にプロットが組まれているものの、演出の不出来によって全体的にちぐはぐな印象を与えてしまっている、というのが私の正直な所感です。
まったくどっちつかずだな!日和りやがって!と思われるかもしれませんが、この素晴らしい作品を愛しているからこそ、まずは素直に第8話の不出来を認めて、その上で作品全体の価値は決して損なわれていない事を説明できたら良いなと考えています。

ここでは具体的な指摘は割愛しますが、2、3のシーンの差し替えおよび追加で、見違えるように良くなるように思います。これはスケジュールがタイトになってきて演出の磨き上げが足りなかった(コードギアスに求められる水準まで達しなかった)という事だと思っています。その意味でもここで1拍休みが入るのは良いタイミングだったななんてことも思っていたり。

ルルーシュの目的意識についての再考

本編の読解に入る前に、現時点でのルルーシュの目的意識について改めて確認しておきましょう。ルルーシュにとって最大限の優先事項、プライオリティ1は、第1期の開始時点からずっと一貫してただ一つナナリーが安心して幸せに暮らせる世界を作る事この1点に集約されています。そしてこの願いが、ルルーシュ自身を必要としない形でほぼ実現されてしまったというのが、前回の「棄てられた仮面」の骨子だったわけですが。生きる目的を失う形になったルルーシュは、そこで今まで顧みてこなかった日常の、周囲の人たちの眼差しの優しさに気付き、“それ”を守る事を新たな目標としてセッティングしたんですね。ここで重要なのは、新たな目標をセッティングしたといっても、ルルーシュにとってのプライオリティ1位は、相も変わらずナナリーの幸福であるという事です。ここを見誤るといろいろと齟齬が生じてくる。

  1. ナナリーが幸せで安心して暮らせる世界を維持する事
  2. 黒の騎士団の頭目として、構成員に信念と矜持を提供し続ける事
  3. アッシュフォード学園の、生徒会での日常を守る事

この3つがルルーシュの達成目標である事を念頭において見ると、今回の100万人大脱出作戦の意味が違って見えてくる。ルルーシュの目標が堅固で不動な以上、その目的に沿ってないように見える行動は、なんらかのミスリードや二重底の意図があると考えるべきなんですね。

100万人大脱出の意味

それではこの100万人大脱出作戦にはどんな戦略的な意味があるのでしょうか。はっきり言ってしまいましょうかね。そんなものはないんですね。

  • 100万人が海氷船に乗って世界各地を転戦し反抗と収奪を繰り返すにしても。
  • 中国やらインドやら中東やらオーストラリアやらに移住して新国家を建設するにしても。
  • あるいはEUや中華の食客となって対ブリタニアの先兵になるにしても。

上記目的のいずれも達成する事が出来ない。かろうじてプライオリティ1位のナナリーの幸せだけは、スザクが担保してくれるかもしれない、けれども自らが関与するチャンスはほぼ皆無になるわけです。それは、ルルーシュの性格からして非常に考えにくい。

そう考えると、実はこの100万人大脱出という状況そのものが、壮大なブラフ、ミスリードであると考えたほうが自然なんですよね。考えても見てください。そもそもコードギアスという作品は、そうゆうどんでん返し、意外性の追求の連続の作品じゃないですか。それが今回に限って字義通りにストーリーが進行すると思うほうが、不自然なんですね。

100万人大脱出の本当の意味

ここで、第8話Bパート、式典開始直前の台詞を引用します。
「…既に大勢のイレブンが集まっています。100万人を越えているため、身元確認等は式典後となります…」

…!身元確認してないとか、無茶苦茶強引だなあと思わず苦笑してしまいますが(笑)。ブリタニア政府は、ここに集った100万人が誰なのかまったく把握してないって事なんですよね。あり得ない(笑)。まあここらへんは演出の不手際。だけれども、演出上成立してないにも関わらずこんな不自然な台詞を入れ込んだという事には重要な意味があります。これはつまり、100万人の国外脱出が実際に為されなくてもよいという事なんですね。

100万人のゼロが1億人のゼロになる

100万人がこっそりとまた日本に戻るといったい何が起きるのか。もし本当に100万人が国外脱出してしまえば、残された日本人に対する迫害はより苛烈なものになります。そして、突然100万人の労働力が失われたら経済は破綻するでしょう。それはナナリー新総督にとって大きな失点になるはずですが、それがまず起こらない。そして100万人の「行動力を伴った」不穏分子が身のうちにあるというのは、それだけで大きな抑止力として働く可能性があります。
ここで統治者が好戦的な…ブリタニア的な人物であった場合、1期1話の新宿ゲットー虐殺事件のような悲劇が再び繰り返される可能性がありますが…それに関しては幸いにもスザクとナナリーというルルーシュにとって「安心して任せられる」人材がトップに座っています。今回の作戦自体がその試金石という形にもなっていますね。
そして、今回の事件に参加した人々が日常に帰っていくという事は、その自決の精神が周囲に広がっていく事も意味しています。いざとなれば、全てを棄てて闘う覚悟を持つ。なぜならば私たちはゼロなのだから、と。全てが匿名の状態で行われたゆえに(テレビカメラ入ってますから顔出ししちゃった人もいる気はしますが…ここらへんも演出の不手際)参加した人としなかった人の区別なく、その精神というのは醸成されるでしょう。100万人のゼロの決起が、日本人全員をゼロにするわけです。

変化していくスザクの立場

今回の一件でスザクのブリタニア軍部での求心力は弱まっていく可能性があります。そして結果として日本人を救ったスザクに対する一般の日本人たちの心象もまた変化していくんじゃないかなと思っています。それまで、自身の出世のために全てを投げ打ってきたかのように見えたスザクが、そうして手に入れた力でようやく本当の願いを叶える事が出来る。8話ラストのゼロとスザクのやりとりからはそういった印象を受けました。しばらくはスザクが再評価される展開になるんじゃないんでしょうか。

忍び寄るルルーシュの誤算の影

ということで割とこの推理には自信があるのですが、こうゆう風に簡単に分析できてしまう事自体が、第8話が不出来であった事の証左でもあるんですね。100万人が本当に脱出して世界を席巻するのでは!?と力尽くで思い込ませてくれてこその、コードギアスですから(笑)。ともあれ、100万人が踵を返すというこの一石三鳥の作戦、仮にこの推理が正しかったとしても、実は大きな落とし穴があるんですね。

それは、ルルーシュが「スザクとナナリーならば全てを上手くやってくれる」と思い込んでいる事。だけれども、実はそれは誰にも何の保証もない、いわば過信なんですよね。そこに、思い込んだら周囲が見えなくなるルルーシュの、相も変わらぬ視野の狭さが見て取れる。もちろん、かつてのルルーシュに比べればそれは大きな前進なのですが…人はそう簡単には変われない。谷口監督にそう言われているような気がしてならなかったりもします。

コードギアス 反逆のルルーシュ R2 volume01 [DVD]

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