ただ一度だけの“ありがとう”

いい機会だから言っておく。さっきは助かった。今までも。それから、ギアスのことも。だから。一度しか言わないぞ。

 第1期第11話「ナリタ攻防戦」コードギアスの魅力が凝縮された屈指のエピソードです。その中でも、上に引用したシーンは特に印象的な名場面ですね。

庇護される存在としてのルルーシュ

 このシーンは、直接的には直前の場面でスザクのランスロットに追い詰められたルルーシュを、身を挺して助けたCCに向けての言葉なんですが、それだけじゃないんですよね。ルルーシュは、この場面も含めて、都合3度CCに命を助けられてるんですね。1度目は、第1話。絶体絶命の状況から訳も分からぬままに超常の力ギアスを得て、一生を得る。2度目は、第7話。コーネリアの策にまんまと引っ掛かり進退窮まったところで、囮となってピンチを救ってもらった。そしてナリタでも。

 ルルーシュとCCは、利用し利用される関係であることを前提として“契約”を結んでいる。それは第7話で語られている通り。だけれども、実際には、少なくともこのナリタまではルルーシュは一方的にCCに助けられる存在だった。せめて怪我の手当でもと思っても、不死身の肉体を持つ少女CCにとっては無意味な事。それをルルーシュは改めて思い知らされるんですね。ルルーシュにとって一方的に借りを作ってしまうこの状況は、耐え難いものなんです。だから、せめてもの精一杯として、目も合わせず、背を向けてのただ1度の“ありがとう”なんですね。

 この1度しか言わないというルルーシュの決意が、もの凄く健気で。このシーンを見るたび目頭が熱くなっちゃうんですが(笑)。これは、ルルーシュがこの時点でCCに一方的に庇護されていたという現実を認めて、その上でもう2度と一方的にありがとうと言わなくちゃならないような関係にはならないぞ、という決意が含まれてるんですね。それが結実するのが、第15話喝采のマオ」です。

ルルーシュとCCの関係の変化

 もう一人のギアス使いマオに連れ去られそうになったCCを策を巡らせ奪還したルルーシュ“慰めか?憐れみか?それとも執着か?”と問うCCに対しルルーシュが放った言葉“契約だ。今度は、俺からお前への”。この瞬間に、CCからルルーシュへ一方的に与えられていた契約が、双方向のものになったんですね。そして。

 そして第1期最終回25話。神の島でCCの過去を幻視したルルーシュ。そこで永遠の孤独の辛さを吐露するCCに対して。“一人じゃないだろう。俺たちは共犯者だ。お前が魔女ならば、俺が魔王になればいいだけだ”ここに至って、CCはルルーシュを、庇護すべき対称ではなく、信じ、頼るべきパートナーとして認めたんですね。だから、CCは、ルルーシュを一人残して離れ離れになることを選択するんですね。その結果は…まあ、なんというか、アレではあったのですが(笑)。

 このあたりを踏まえておくと、R2第1話のCCとルルーシュの再会シーン“契約しただろ、私たちは共犯者”という台詞がめちゃめちゃ効くんですよね−。CCにとって、上に挙げたシーンの意味がどれほどのものだったのかという。ところで、上記の3シーン。ナリタの洞窟、ビルの屋上、神の島での精神世界と2人きりの状況を強調していて、それぞれナリタではCCに背を向けるルルーシュルルーシュに背を向けるCC、そして向かい合う2人という立ち位置の変化を描いてるんですよね。

 一つ一つのシーンだけ切り出すと、芝居がかった思わせぶりな台詞にしか見えないかもしれないんだけど、複数のシーンを重ねることで、キャラクターの心理が立体的に立ち上ってくる。こうゆう演出が随所に仕掛けられているのが、コードギアスの作劇なんですね。