アニメビジネスの諸問題:ペンギン娘はぁとの場合

 ニコニコ動画発のアニメ「ペンギン娘 はぁと」のDVDの価格設定が話題になっています。

ペンギン娘の価格=スポンサーのないアニメの現状 | FANTA-G - 楽天ブログ

『ペンギン娘 はぁと』のDVDの価格が高いのは広告収入がないからではなく、OVAと同じで予想売り上げ枚数が少ないから - ARTIFACT@ハテナ系

高いという前提が間違っている

 まず言っておかなければならないのは、「ペンギン娘 はぁと」の価格設定、80分9800円というのは、決して高くないと言う事です。現在テレビアニメの平均的な価格設定は分単価80円〜150円。超売れ線のコードギアスマクロスFと言った作品で3話75分入りで6300円。ほとんどのテレビアニメは2話50分収録で5250円〜7140円!という価格設定がされています。といってもこれは定価の話でほとんどの作品はこの2割引から3割引の価格で購入できます。それだけ、小売マージンを高く設定してるのですね。およそ3割が製作収入、3割がメーカー収入、残りが流通マージンと考えればよいと思います。

なぜアニメDVDは高いのか

 そもそもなぜアニメ作品のDVDは高いのか。まずそこから確認しないといけないですね。それは制作費がべらぼうに高いからに他なりません。一般のテレビアニメの製作費は最低クラスで1話25分で1000万円。トップクラスの作品だと2000万円を超えます。これは、ほぼ人件費だけでこの値段なんです。話を分かりやすくするため1分あたりの費用で言うと、1分40万〜80万円というお金がかかるんですね。仮にペンギン娘が最低クラスの製作費だったと仮定して、40×80分=3200万円。流通マージンを抜いた版元+制作の取り分が1枚あたり6000円と仮定しても、5000枚以上売らないと元が取れない計算です。これは、昨今のアニメDVDの販売本数を鑑みても常識的な…どちらかといえば高めの目標設定と言えます。

問題は売り方のセンスのなさ

 問題なのは価格ではなくて、その売り方のセンスのなさですね。そもそも今のアニメ作品が2話又は3話入りという形式なのは、バカ正直に4話ないし5話入れて単価が高くなると売上が落ちるという分かりやすいデータがあるからなんですね。だから資源の無駄だとは思いつつもどのメーカーも実売で4000〜6000円くらいで収まる価格設定にしている。11分アニメを7話80分収録という形式にした事自体が疑問符のつくところです。

 特典の内容もいただけない。ステッカーやピンバッジといったグッズは従来のアニメファン向けの商材であって、ニコニコ動画ファンに向けて特化されたペンギン娘のような作品にはまったく向いてないんですね。そうではなく、これがあればニコニコ動画がより楽しくなる、ニコ厨の友人に自慢が出来る、そういった内容の特典をつけたほうが、明らかに食いつきが違うでしょう。

 例えば、ですが、DVD購入者だけがニコニコ動画スペシャルなコメントカラーが使える、特別なコマンドを使用できるであるとか。ニコスクリプトを利用したゲームでDVD版とニコニコ版で作画間違い探しが出来るとか。あるいはMAD素材用にブルーバックで切り抜きしたアニメーション素材や逆にキャラクターを消した背景素材を提供するとか。もっと即物的にニコニコのプレミアム1ヶ月分のチケットを付けるとかだっていい。実現可能か不可能かは置いておいて、考えればいろいろあるでしょう。

ネギまOADに見るアニメビジネスの新展開

 週刊少年マガジンで連載中の魔法先生ネギま!スクールランブルの単行本にオリジナルアニメを付けた特別版が出る事がちょっと話題になっています。

http://negima.kc.kodansha.co.jp/

http://sr.kc.kodansha.co.jp/

1巻3500円程度。恐ろしい事に公式ページを穴が空くほど見ても収録分数が書いてないのですが(笑)、まあ1話25分収録でしょう。完全受注生産で書店流通ですので流通マージンはギリギリまで抑えられていると考えられます。この企画の素晴らしいところは、従来のアニメDVD購入層以外の、原作コミックファンに強くアピールしている事なんですね。収録されるアニメの内容も、原作単行本の流れに沿ったものとし、また他では見れないというプレミアム感を出す事にも成功しています。実際のところこの企画が成功するかどうかはまだ未知数ですが、何よりも今までアニメDVDを購入していなかった層を巻き込んでいこうという気概を評価したいんですね。ネット配信に力を入れるコードギアスやRD潜脳調査室であるとか、意識の高い製作会社はテレビ以外のコンテンツのアクセス経路を構築しようと今様々な工夫をしてるんですね。ニコニコ動画でオリジナルアニメを流すというのも、もちろんその流れの1角であるわけで、それならばアニメファンではなく、ニコニコ動画ファンが思わず手に取ってしまいそうな企画を考えるのが、自然な流れでしょう。

1巻1500円で売るくらいの冒険があってもいい

 もしペンギン娘のDVDを1巻1話で発売した場合、その価格はおおよそ1500円程度になると考えられます。1500円というのはちょっとしたマジックナンバーで、ニコニコ市場を積極的に利用するような層はこの数字にピンと来るんじゃないかと思うのですが、amazonで購入した場合に送料が無料になるラインなんですね。もし1巻1500円で、ニコニコ動画を少し楽しくするような特典を付けて売り出したら、ニコニコ動画ファンの反応は全然違うものになったはずです。DVD一枚に11分てどんだけ資源の無駄遣いだという話ももちろんありますが、その隙間を埋める企画を上手く演出できればそれだって追い風になるかもしれません。例えば特選マイメモリという形でニコニコ動画上で流れたコメントのベストショットを収録する。その収録マイメモリ自体をユーザーから募集する。そうゆう企画を起こせばちょっとした祭になるかもしれません。コメント職人というのはニコニコ動画上で欠かす事の出来ない存在ですが、なかなかブログ等でも具体的に評価される機会が少ない存在ですしね。

 この程度の話はほんの数時間考えただけでも出てきます。要は、やる気があるかないかだけの問題で。少なくとも今回のペンギン娘DVDの販売方法には、アニメファン以外を巻き込んでやろうという気概を感じる事が出来ませんでした。今回は残念な事になってしまうかもしれませんが、しかしそれで終わったわけではありません。次の企画、その次の企画で“何か”が起こる可能性は否定できないわけで。

必勝法はない

 重要なのは、どの作品にも通用する必勝法は存在しない、と言う事です。ペンギン娘のようなネタ性の強い作品の場合は少し度を越えたような悪のりをするべきでしょうし、そうでない作品にはまたそれなりにふさわしいアイデアというのはあるでしょう。常に考えて考え抜いて、限られたパイしかない従来のアニメファン以外を巻き込んでいく方法を考えなければアニメ業界に明日はない。そう思っています。

ペンギン娘はぁと DVD Vol.1

ペンギン娘はぁと DVD Vol.1

ペンギン娘 1 (少年チャンピオン・コミックス)

ペンギン娘 1 (少年チャンピオン・コミックス)