シャーリーは何故死ななければならなかったのか

 まず最初に言っておく。シャーリーが死ななければならない理由は存在しない。理由は、あってはならない。コードギアスという作品で命を散らしていった何十何百という名もなき人々。その人たちに死ななければならない理由がないのと同様に、シャーリーの死に理由はない。シャーリーは、“死ぬべき理由”なく、無意味に、無残に殺されたのだ。
 それは、ルルーシュが“撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だ”と言いつつも撃つ覚悟も撃たれる覚悟もない人々の命を奪ってきた事の報いだという事は言えるだろう。しかしそれはルルーシュが報いを受ける理由であって、シャーリーが撃たれる理由では決してない。
今週のコードギアス 反逆のルルーシュR2 ★★★★★ - ナナミの雑記部屋
 この記事に、深く共感してしまうわけだが、本当に、制作者は…谷口監督はつくづく鬼だなと。これは、ルルーシュと、視聴者に対する最後通告なんだろうなと。聖域はない。ルルーシュは報われない。これからもっと辛い展開が続くけど覚悟して見ててね、と。

ルルーシュの唯一の理解者

 このエピソードの初見時、結末に至る前から、シャーリーの一挙手一投足に何故だか涙がこぼれて止まらなかった。それは、この結末を予見していたからではなく…シャーリーが、シャーリーのルルーシュに対する理解があまりにも正鵠を得ていて…それは好き故に、様々な葛藤を乗り越えてルルーシュの心の裡を、ルルーシュ自身すら理解していないレベルで理解に到っているんですね。
 何が嘘で何が本当なのかわからない世界で、周りの全てが信じられない絶望的な孤独感。その孤独に耐えるために自らの周りを造り物で固めて“優しい嘘”で自らの心を必死で守っていたルルーシュ。そのルルーシュを救えるのは、全てをしって、その弱さも罪も含めて全て受け入れる“本当”を手にする事だけなんだと。

ルルーシュを救える唯一の希望

 思えば、シャーリーという少女は、ルルーシュを救う事の出来る唯一の希望だったんだ。ルルーシュという人格を全て認めて受け入れる。その弱さも含めて受け入れるというのは、ナナリーにもカレンにもCCにも出来ない。シャーリーにしか出来なかった事なんですね。ナナリーやカレンはルルーシュに強い存在である事を望み、CCもまた、そのルルーシュの弱さを理解しながら成長することに期待をしていた。ルルーシュが、救われる道があったとするならば、それはルルーシュが自らの過ちを認め、その弱さを認めることしかない。そしてそんなルルーシュのダメな部分を、ヘタレでどうしようもない情けないままのルルーシュを、丸ごと受け止める事ができたのはシャーリーだけだった。ルルーシュは、例え弱さを認めようにも、それを受け止めてくれる存在を永遠に失ってしまったのだ。

それでもルルーシュは前に進むしかない

 もはやルルーシュに希望はない。ここから先には地獄しか待っていない。しかし、それでもルルーシュは前に進まなくてはならない。それは、C.Cとの契約ゆえ。ルルーシュの過去と行動の結果に意味を持たせるために、その全ての発端であるC.Cとの約定を果たす事。本当は、全てを投げ出し、全世界に向かって罪を告白し、ルルーシュが奪ってきた者たちから報いを受ける事のみがルルーシュが贖罪を果たす道なのだが…そこから全力で目を逸らして、魔王として修羅の道を歩む事を選択せざるを得ない、それがC.Cの望みである限りは…。それほど、ルルーシュにとってC.Cとの契約は重い。それ故にルルーシュは更に罪を重ね、あらゆるものを失う事になろうとも…。

パンドラの箱の底に残るもの

 ルルーシュは、この世の全ての災厄の箱を開いてしまった。ありとあらゆる苦難と罪悪を背負い込むのは定められた運命だった。C.Cはそれを知った上で、ルルーシュとの契約を果たした。それを知っているからこそ皇帝はユフィを殺したルルーシュ歓喜し、生かしていた。彼らの思惑の通りにルルーシュは魔王となり、この世の悪徳を全て背負った上で何事かをなすのだろう。その箱の底に、希望は残っているのかもしれない。何ものかが手を差しのべてくれるのかもしれない。でも、だが、しかし、それを救いと呼んでよいのだろうか。成し遂げた事に意味があればその罪は精算されるのだろうか。ルルーシュは、心優しきルルーシュは、それを喜びとして受け取るのだろうか。シャーリーの愛したルルーシュは、その弱さゆえに愛されたルルーシュは、きっとそれを是としないだろう。しかし、だからこそそこに残るものが有り得るのかもしれない。

 それが何なのかは今は言えない。ただ、今は、この修羅の物語を最後まで見届ける覚悟をするのみである。