時をかける少女 千昭の視点の物語

注:これはあくまで一見解であり、牽強付会な部分があることを予めご了承ください


時をかける少女 千昭の視点の物語 イントロダクション - 未来私考
続きです。
以下ネタバレ

前回のエントリで以下の仮説を提示しました。

  • 仮説1)タイムリープ後の世界は真琴が消失した状態で存続していく
  • 仮説2)千昭は、真琴にタイムリープ能力をわざと与えた
  • 仮説3)千昭は、真琴の死の運命を知っていた
  • 仮説4)未来は歴史の復元力によって1つに収束していく

 この仮説に基づいて、千昭の行動を追っていってみましょう。

時間軸X-物語開始以前

 未来の、時間軸Xからやってきた千昭は一夏のバカンスを楽しんだ後未来に帰るつもりでいた。しかしそこで知り合った少女真琴の死を目の当たりにし、その運命を変えるために時を遡った。しかし、運命の変更は歴史の復元力によって必ず阻まれてしまう。あるいは実際に何度も7月14日を繰り返したのかもしれない。それでも運命を変えられないと悟った千昭がとった最後の手段。それが真琴にタイムリープの能力を与えることだったのではないか。

時間軸A-最初のタイムリープ

 千昭は真琴の死の運命を知っていた。真琴が事故死した時間軸から、物語冒頭の時間軸へとタイムリープしてきた。そう考えると理科準備室の前と後では千昭の表情が少し違っているように見えなくもない。前者の千昭はどこまでも脳天気に振る舞っているように見え、後者の千昭は何かに苛立っているようにも見える。それは、これが真琴との最後の会話と知りつつもそれを口にすることの出来ない苛立ちなのかもしれない。この理科準備室を境に入れ替わった千昭を仮に千昭Aとする。

時間軸A'-真琴が踏切事故を避けた世界

 最初のタイムリープ後、美術館で取り外されている絵の前にいる千昭が映されている。踏切事故の手前から分岐した世界。この千昭は真琴がタイムリープを得たことを知っている。仮に千昭A'と呼ぶ。

 時間軸A時間軸A'とも、ある地点を境に真琴はこの世界から姿を消している。おそらく少女の謎の失踪として事件になるのだろう。しかし、死ぬよりはマシだと。千昭は、それをもって真琴がタイムリープを使って事故死の運命から逃れた事を期待し未来へと帰っていった。この地点において真琴が地上から姿を消したという歴史上の事実は歪められておらず、千昭A千昭A'時間軸Xへと無事帰還していったと考えられる

時間軸B-7月14日をもう一度繰り返す世界

 しかしタイムリープの能力を得た真琴は、千昭の思惑を超えて更に過去へと遡ってしまう。あるいはそれも織り込み済みで、魔女おばさんに真琴のサポートを頼んでいたのかもしれない。それはともかくとして、この時間軸B上の千昭は、真琴がタイムリープ能力を得ていることを知らないんですね。仮に千昭Bとします。

 千昭Bは、自分が知っている真琴とは違う行動をとる真琴に違和感を抱き、その原因を探ることになる。まず第一に考えられるのが、何らかのはずみで真琴が死ぬ運命の時間軸からずれたという可能性。それは同時に千昭が未来の元の時間軸へと帰る事が出来なくなることを意味する。千昭がそれを望んでいたとするならば、それは千昭がこの世界で、未来に帰らずに生きていく覚悟をしていたということになる。
 そう考えると、この映画の最大の不可解ポイントである千昭の告白の意味が、違って見えてくる。未来へ帰る男が思いつきでした告白ではなく、この世界でずっと真琴と一緒に生きていくことを覚悟した上での告白。そう考えることはできないだろうか?

時間軸B'-繰り返される告白

 しかし真琴はその告白を受けた直後に、世界から消えてしまう。繰り返される世界で残された千昭B、千昭B'、千昭B''はその意味を理解する。真琴が、タイムリープをしている、と。であるとするならばこの千昭はいったいどうゆう行動を取り得るだろうか?このまま未来へ帰っても、元の時間軸Xには戻れない。このまま時間軸Bにとどまっても、真琴に二度と会うことも出来ない。であれば、選択はひとつ。千昭自身も過去へと遡って真琴を追うしかない。


 ところで、この時間軸B上では真琴はタイムリープを散々乱用している。このそれぞれの世界においても、真琴は突然行方不明になり、千昭はその意味を理解すると思われます。この多重に存在する千昭Bが過去に戻った時どうなるのか?千昭の数だけ別の時間軸が発生すると考えることも出来るが、どうもあまり美しくない。そこでもうひとつの仮説を導入します

  • 仮説5)別々の時間軸から同じ地点へとタイムリープした場合、人格はひとつに統合される

 これは未来へと戻る時も同様で、千昭A千昭A'は未来の地点Xにおいてひとつの人格として統合されるのではないかと。こう考えると時間軸の混線が最小限に抑えられるように考えます。

時間軸C-再び、7月14日

 真琴が千昭の告白を避けた時間軸B''''での千昭の必死さも、未来へ帰ることを諦めた故、そう考えるとつじつまがあってくる。真琴を諦め、ゆりちゃんへと心変わりすることも含めて。しかし、その世界においても真琴はある日突然姿を消してしまう。世界が変化したのは真琴のタイムリープによるものと理解した千昭もまたその真琴を追って、運命の7月14日へとタイムリープしたのではないか。千昭Bの統合された記憶を持つこの千昭を仮に千昭Cと呼ぶ。千昭Cは、踏切事故の起きるであろう時間の少し前に、真琴にその真偽を確かめる。その質問を最後に消息を絶つ真琴。そしてコースケの踏切事故。あってはならない、歴史改変。ここに至って千昭は己の犯した罪の大きさを思い知ることになる。

時間軸D-停止した世界

 コースケが踏切事故を起こす直前、真琴の時間は停止する。この停止世界は、正確には踏切事故の30分前に遡って停止している。それが真琴の力によるものなのか千昭の力によるものなのかはとりあえず保留して、ここで分かることは、例えカウントゼロになっても時を遡ることが出来るという事なんですね。それは、カウントゼロの千昭が、人混みの中で瞬間移動し、また時間停止解除前に姿を消すことからも推察できます。このシーンのつじつま合わせは、実のところよく分からない。ともかくも真琴は30分過去の時間軸Dへとタイムリープし、千昭Cもまた踏切事故後の世界から時間軸Dへとタイムリープしてきた。そして自転車をかっぱらい、踏切前で泣きじゃくる真琴を目視した時点で時を止めた。そう考えています。

 停止世界において千昭が真琴に語り聞かせた物語。この中にはいくつかの嘘と真実が、入り交じっている。“誰かさんは責任を感じて泣きわめくし”。この千昭のセリフは泣きわめいたのが真琴であるとは言っていないんですね。そもそも、真琴はコースケの踏切事故の後の世界には存在しない。おそらくは、責任を感じて泣きわめいたのは他でもない千昭自身なんですね。“過去の住人にタイムリープの存在を教えてはならない”ルールを犯したから、姿を消す。ここにも嘘がある。ルールを犯したペナルティは、千昭自身が帰るべき未来を失うこと。姿を消すのは千昭自身の自責の念ゆえ、そう考えます。

再び、時間軸Aへ

 そして、真琴の最後のタイムリープ。カウントの復活についてはここでは追求しません。カウント自体に意味はあまりない、あるいは整合させる気がないように思っています。この、最後のタイムリープは、真琴がタイムリープ能力を得たその日その場所その時間にジャスト戻ってきている。おそらくこれは、最初の時間軸A、千昭が真琴にタイムリープ能力をあたえた時間軸に戻ってきてるんですね。タイムリープを始めた時点に戻ってくること、それが胡桃に元々備えられた安全装置なのかもしれません。ともかくも、全ての時間軸での記憶を継承したまま、真琴は時間軸Aに戻ってきた。そして、真琴にタイムリープ能力を与えて未来へ帰還するつもりだった千昭Aはすべてを打ち明けられてしまうんですね。“ずっと実は言おうと思ってたことがあるんだけどさ…お前さ、飛び出して怪我とかすんなよ”最後の最後に言ったこの言葉は千昭の心からの願い。それのみを願って行動し、それが叶ったかどうかわからないまま、未来へと帰る千昭の精一杯だったんではないか。

最後の一言-奇跡は、起こったのか

 未来に戻った千昭には真琴のその後の消息を知る手段も、おそらくないでしょう。しかし仮に未来に戻った千昭が全ての時間軸の記憶を持っているとしたら、そこが本来帰るべき地点Xではない、歴史改変された別の時間軸上の地点X'であることを、知ることになる。それは、真琴が死ななかった世界かもしれない。そうでないかもしれない。ただ、それは真琴が行き続けた世界であると信じたい。だからこそ、あえて最後に戻って一言伝えたのではないか。“未来で待ってる”と。その願いが叶うかどうかは分からない。未来は、誰にもわからないのだから。