ルルーシュを突き動かしてきた行動原理の根本

最近ルルーシュの動機について考えているんですが、…煮詰まった。思考が堂々巡りで、自分の思考がおかしいことに気づけないレベルまできてるので書き出してみます…。誰かルルーシュの動機について解説してくれないかな。
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 名指しされてる気もしたのでコメント代わりに書いてみようかなと(コメントの仕方がわからなかったりもする)。

 ナナリーがルルーシュにとってかけがえのない存在であることは、疑う余地はない。だけれども、ルルーシュブリタニアに反逆を始めた理由、その根本的な動機には、実はナナリーは関係してなかったりしするんですね。

ルルーシュにとってのナナリーとは

ルルーシュの行動原理は

  • 平穏な日常を守ること
  • 手の届く範囲で、弱者を守ること

この2点なんです。ルルーシュが力を持っていなかった時は、これはまったく矛盾せずに整合がとれていた。ナナリーを守ること。目についた強者を挫き、弱者を助けることで満たされていた。しかし、1期7話以降、ルルーシュが軍隊を作り、より大きな力を得ることで、この二つはますます矛盾を大きくしていく。ナナリーを守ること、ブリタニアを打倒することは、その矛盾した2つの望みに整合をつける象徴のような存在になっていくんですね。はじめにナナリーありき、ブリタニア打倒ありき、じゃないんです。
 だから2期7話においてナナリーが日常から離れ、また守られるべき弱者ですらなくなった時点で、ルルーシュは改めて自分自身の本当の望みと向き合うことになったんですね。守るべき日常としてのアッシュフォード学園。手に入れてしまった力である黒の騎士団。この時点ではじめて、その2つが自身の本当の望みであると気付いたんですね。しかしルルーシュの不幸は、その段に至ってもまだその矛盾を見て見ぬふりをしてしまった。どちらかを選べばどちらかを諦めなければならないのに、そのどちらも結局諦めきることができなかった。そして今、象徴としてのナナリーとともに、ルルーシュは必然の結末として、全てを失ったんですね。

 以下、1期1話〜7話を見返しながらルルーシュの心の変遷を追ってみました。

ルルーシュの思考の変遷

 ルルーシュが反逆を開始した理由、ギアスの力を駆使してクロヴィスの旗艦に乗り込み、彼を殺害した理由。それは、強者が弱者を踏みにじることへの純粋な怒り、目の前でかつての親友のスザクを殺され、また身を挺してルルーシュを庇い、ギアスの力を与えた謎の少女の死に報いるため。ただ、それだけだったんですね。第1話第2話を見返していただければわかるんですが、クロヴィス殺害までのストーリーでルルーシュがナナリーについて言及するのは1カ所のみ、親衛隊に囲まれ、ナナリーを残して死ぬことを覚悟した瞬間、ただそれだけなんですね。この時のルルーシュにとっては、ナナリーを守る事だけがただひとつの生き甲斐、そのためなら嘘にまみれた退屈な日常に耐えて生きていくことも覚悟していた。力のない自分には所詮世界を変えるのは無理なのだからと言い訳をしながら。いつかチャンスがあれば、その時が来たらと来るはずのない日を夢想しながら。しかし、その来るはずのない日は来てしまった。ルルーシュは、ギアスという力を手に入れてしまった。

弱者を守るということ

  力を手に入れる前のルルーシュにとっての最優先事項は、自らの、穏やかな日常を守る事。そして自らの力の及ぶ範囲内で、強者に虐げられる弱者に手を差しのべる事。この2つなんですね。ナナリーという存在は、穏やかな日常と虐げられる弱者という2面の象徴でありルルーシュの根源的な願望の裏表の関係にあるんですね。ナナリーを守る事が、イコールルルーシュの心からの望みと合致していた。

 しかし、力を手に入れてしまったルルーシュは、この2者の関係が順逆になってしまった。自らの力で守る事の出来る弱者の範囲が大幅に拡がり、そのために自らの日常が脅かされるという危険性を孕みながらも、ルルーシュは自らの願いに忠実であり続けたんですね。その行動が、どのような結果をもたらすかについて考えることに、目を背けながら。

 ルルーシュという少年は、呆れるほどに優しい。自らが死地に巻き込まれながら、その元凶たる拘束された女を、悪態をつきながらも守ろうとしてしまう。自らが息を潜めるために見殺しにしてしまったイレブンの少女の死に心を痛める。ルルーシュにとってのクロヴィス殺しは、彼ら彼女らの無念、スザクやC.C.、虐殺された名もなきイレブンの人たちの無念を晴らすための報い、なんですね。だから、マリアンヌ殺しという個人の恨みにクロヴィスが関わっていないとしりつつも、彼を殺害した。多くのイレブンや、スザクやC.C.の死の責任は、目の前のクロヴィスにあるのは間違いないのだから。

ルルーシュの誤算

 スザク殺しの元凶たるクロヴィスを殺害した後は、ルルーシュはまた再び日常に回帰するつもりだった。そこで、時間をかけてゆっくりと、自らの日常を壊さない範囲でブリタニア内部を崩壊へと導くつもりだったのかもしれない。3話でナナリーに語りかけるルルーシュには、性急にブリタニアを倒そうという意思はおそらくなかったはずです。しかし、そこでいきなりルルーシュにとって誤算が生じる。殺されたと思っていたスザクが、生きていたんですね。しかも、自らが犯した罪を代わりに被って、今にも処刑されようとしている。スザクの無念を晴らそうとした行為が、逆にスザクを命の危機に追い込んでいる。あるいはこの時本当にスザクが死んでいたら歴史はまったく違っていたかもしれない。しかし、スザクが生きていた以上、ルルーシュとしては、計画を前倒しにしてでもスザクを救わなくてはならない。無実の罪で処刑されようとするスザクはまさに強者によって蹂躙される弱者そのもので…力があるのにそれを救済しないことは、ルルーシュの自分ルールとしては、あり得ない選択肢なんですね。

 繰り返しますが、ルルーシュにとってもっとも優先されるべきは、ナナリーのいる、平穏な学園生活という日常を守ることなんです。あくまでそれが冒されない範囲でしか力を振るえない。ここにルルーシュの決定的な矛盾があるんですね。振るう力が大きくなればなるほど、日常が冒される危険性がどんどん高まってくる。そもそも、もし万が一作戦をしくじって死んだり捕まったりしたら、全てが終わってしまう。

呪いの言葉に屈してしまったルルーシュ

 ましてや、謎の少女C.C.もまた、生きていた。この時点でもうルルーシュが行動を起こした理由の大半が失われちゃってるんですね。いったい自分は何のためにクロヴィスを殺してしまったのか。リスクを冒してスザクを助けたのか。その整合を確保するためにルルーシュは禁断の果実に手を出してしまうんですね。すなわち、今までの自分は本当の自分ではなかった。力を得たのに何もしないなんて、死んでいるのと一緒だと。これは、皇帝がルルーシュに残した呪いの言葉。

死んでおるギアス - 未来私考

 ルルーシュは、この時までずっとこの皇帝の呪いの言葉に逆らい続けていた。退屈な日常に耐えながら自らの手の届く範囲の弱者を助けること。それこそが、ルルーシュの本当の反逆だった。皇帝に否定された退屈な日常を守る事。それこそがルルーシュの生きる意味だと信じていた。その心は、決して嘘ではなかったんです。

 実際、この第7話までのルルーシュの行動は、目の前で起こった虐殺の元凶を断つこと、無実の罪で処刑されようとしているスザクを助けること、ただそれだけであって、ブリタニアの打倒というのは遠大な計画としてはあっても決して性急に事をしかけるつもりはなかった。しかし堆積した矛盾が、ルルーシュをどんどん追い詰めてしまった。手に入れた力が強大だったばかりに、手の届く範囲が拡大してしまった。力がなかったがゆえに均衡が取れていたルルーシュの心の堤防が、決壊してしまったんですね。そしてついには、あれほど忌み嫌っていた皇帝の言葉に乗ってしまった。

 この時点で、相手のルールに乗っかってしまった時点で、実はもうルルーシュの敗北は決定していたのかもしれません。

参考:
http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20080824/p2