ルルーシュのギアスが“絶対遵守”である理由
PCのトラブル等により、少し更新が空いてしまいました。
先日、ルルーシュの根源的な動機、行動原理についての考察記事を書いたのですが。
これ自体は自分でもなかなかよくできた分析だと思っているのですが、一つ、困った点があって。それは、この行動原理にしたがっていると、ルルーシュの獲得したギアスが“絶対遵守”―あらゆる命令を強制する力―であることの説明がつかないんですよね。仮に、ただ命が奪われることを止めたいのであれば、例えば暴力衝動を奪うギアスであればそれでよい。もちろん、それではドラマにならないという作劇上の都合と言ってしまえばそれまでなんですけれども、そこでありとあらゆる命令を遵守させる能力を選び取ってしまうルルーシュの心象はなんなんだろうと考えると、少し違うものが見えてきました。
皇帝シャルルへの強い憧れ
それは、ブリタニア皇帝である父、シャルルへの強い畏怖と憧憬。王宮内で全てを従え、幼き日のルルーシュにとって、皇帝の権力というのは絶対遵守の力そのものだったんですね。言葉ひとつで他人の運命を意のままにできてしまう。1期7話のアバンタイトル、ルルーシュが皇帝の力からの決別を宣言する場面。“あなたにはそれができたはずだ”と詰問するのは、裏返せば皇帝とその力に対して絶大な信頼があったればこそなんですね。
皇帝の力の強大さを思い知っているがゆえに、“手が届く範囲の幸せを求める”という反逆を決意したルルーシュ。それは裏を返せば力さえあれば、守りたいと思うものすべてを守って見せるのにという強い憧れの表れでもあったんですね。
ルルーシュの怒りはどこにあるのか
“さあ時間だけはたっぷりある。答えてもらおうか。母さんを殺したのは誰だ。なぜお前は母さんを守らなかった。”
21話冒頭で、シャルルと対峙しながら自信たっぷりに語りかけるルルーシュ。この場面において、ルルーシュはまったく怒りを表さない。この問いには皇帝はマリアンヌを守ることが可能だったにも関わらずあえてそれをしなかったというルルーシュの見立てが含意されてるんですね。皇帝には、マリアンヌやルルーシュを守るよりも優先すべき信念があって、それに殉じるためにそれらを犠牲にしてきたのではないか。その真偽や正当性を問うことこそが、この時のルルーシュの心境だったんだと思います。
しかし、皇帝の口から語られたのは、守りたいものを守りきれなかった悔恨と、それゆえに力を求めるという、ルルーシュ自身の願いをそのまま映し鏡にしたような願いだった。それを目の当たりにしたルルーシュは、その考え方の醜悪さ、そこから零れ落ちるものへの想像力のなさをまざまざと見せ付けられてしまった。そこにあるのは“間違っているのは俺じゃない。世界のほうだ”と嘯いたかつてのルルーシュの姿。“お前たちは俺とナナリーを棄てたんだよ!”この告発は、それは、何かを求めるときには何かを失うことがあるという、そんなあたりまえのことに気付けなかった自分自身への怒りなんですね。
それでも未来を望むということ
ユフィ…シャーリー…ナナリー…ロロ…。ルルーシュは、己が力さえ手に入れれば全てを幸せに出来ると信じて行動し、そして多くのものを失っていった。しかし行動しなければそれが本当に大切なものだったことに、気付くことすらなかった。目の前の皇帝を肯定することは、全てを手に入れられると信じていた、幼く愚かだった頃の自分を肯定するということ。今ここにある自分を否定するということ。それはルルーシュには許すことが出来なかった。
“だとしても、お前の世界は俺が否定する”
それは、皇帝に憧れていた、過去の自分への決別宣言。そのルルーシュが皇帝を名乗るというのは、確かに皮肉ではあります。
皇帝が提示したのは、ありのままの自分をさらけ出しても傷つかない世界。それを否定してルルーシュが選んだのは、ありのままの自分をさらけ出せば、誰かを傷つけ、傷つけられる世界。それは本当はどちらが良いのか、簡単には判断できない。ただ、直感で、感情に素直にしたがって、あえてルルーシュは選んだんですね。そして選んだ以上はもはや思い出の世界に逃げるという退路は絶たれてしまった。どんな罪を背負っても、どんな傷を負っても、前に進むしかない。それがルルーシュが取るべき責任なんですね。