アイマスクエストをまだ知らない人のためにその魅力を全力で書き綴ってみた
ニコニコ動画きっての大長編大河物語「アイマスクエスト」の第二部がいよいよ来週にも始動とのこと*1。大団円を迎えた第一部の感動から1ヶ月。この素晴らしい作品をまだご存知ないという人の為に、その魅力を全力で書き綴ってみました。
そもそもの始まりは、ドラゴンクエストIVのプレイ動画にアイドルマスターのキャラクターのバストショットをかぶせて小芝居させる、そんな素朴な動画だったんです。作者のておくれPも2週間くらいで完結させる予定だったという。それが、回を重ねる事に演出力を増し、あれよあれよとキャラクターが回りだし、気がつけば原作から離陸してまったく新しいオリジナルのストーリーを編み始めるんですね。それがまたべらぼうに面白い。あくまで原作であるドラゴンクエストIVの設定を尊重しつつ、原作とは違う人格をもった主人公=アイドルたちによって、世界を取り巻く状況が大きく変わってしまっている。それがまた非常に納得力の高い見事なストーリーテリングによってなされていて、はっきりいって、今ニコニコ動画を試聴出来る環境にあってこれを見逃すのはあり得ないというくらいの面白さなんですね。
- 驚異的な更新速度
アイマスクエストの魅力を語る上で外せないのは、その驚異的なまでの更新速度の速さです。2007年10月12日に投稿されたプロローグから2008年10月16日のエピローグまで、約1年間で綴られた物語は実に72話。それプラス外伝7話、ファンサービスのキャラクター人気投票も併せると100本近い動画が投稿されている。特に4章完結までの33話は2ヶ月未満…2日に1話以上のペースで投稿されてたんですね。ちゃんと編集された動画がこのペースで投稿されているというだけでも、ておくれPは化け物かという讃辞に足るのですが、それに加えて尻上がりに面白さが増していく様は、原作のキーアイテムに倣ってておくれPは進化の秘宝を使ったと言わしめるほどで。完全にオリジナル展開となった第5章以降もほぼ毎週末に1話のペースでコンスタントに投稿され続けるという、個人制作物とは思えないプロ根性が視聴者の心をガッチリと掴んで離さなかったんですね。
- エンターテイメント性の高さ
そして何よりそのエンターテイメント性の高さ。ニコニコ動画に投稿される動画というのは総じて視聴者の目線を意識したサービス精神の高い動画が多くて、これはコメントによりダイレクトな反応が返ってくるが故にそうなっているのですが、アイマスクエストのエンターテイメント性はそれに留まらない。第2章の半ばくらいまでは視聴者の反応を見つつ試行錯誤している様子が見て取れてそれもまた面白いのですが、一旦フォームが完成した後は、約10分の動画の中に涙あり笑いあり、伏線、小ネタの仕込み、ドラマチックな演出…そんじょそこらの商業作品では太刀打ちできないくらいの一大エンターテイメント動画に仕上がっている。
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- その後定番となる地形破壊。後半になると更にエスカレートして…!?(第二章02話「第一次宿屋対戦」より)
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- 飲むと美声になるさえずりのみつ。アイドル垂涎のアイテムに思わず手をつけてしまう図(第二章05話「本当にもう、この子達は・・・」より)
- キャラクター心理の巧みさ
そして、ただ面白いだけでなく、キャラクターの心理、その変化の描写が卓越している。このアイマスクエストは、元々のアイドルマスターのアイドルの人格に、ドラゴンクエストIVの主人公たちの知識や経験が融合しているという、少しトリッキーな設定を採用している。これは、元々はアイマスキャラ、ドラクエキャラどちらとも違う人格を描いてしまう際の予防線みたいなものだったのかもしれないが、今や作品の根幹をなす設定になってるんですね。内向的な千早が、勝ち気なおてんば姫としての経験に引きずられて、騒動を巻き起こす。明るく前向きなやよいが、一家の大黒柱として家族を守る責任に目覚めていく。平和な現代から戦乱の時代に巻き込まれて…というのは定番の設定ではある。が、それを元のキャラクターの影響を残す事でその変化がより説得力を増しているんですね。これは、二次創作のやり方として、非常に上手い。
- 再構築されたドラクエ4の世界
ドラゴンクエストIVの世界の生かし方もとても上手い。ドラゴンクエストIVは章立てのオムニバス形式を採用している事で有名だが、実はそれぞれの主人公の物語の開始時点は年代が違ったりするんですね。第1章「王宮の戦士ライアン」は第4章「モンバーバラの姉妹」の10年以上前の出来事だったりする。それぞれがこの世界で過ごした年月の長さがキャラクターの心理の違いを描くのにとても有効に機能してるんですね。ライアンが王宮を去ってから勇者と合流するまでの10数年間を描いた完全オリジナルストーリー「孤独な王宮戦士*2」はておくれPの積み上げてきたものの総決算とも言える一大大河ロマンになっています。
そして、ドラゴンクエストIVに登場するサブキャラクターの生かし方がまたとても上手い。第3章「武器屋トルネコ」ではダンジョンを攻略する際にスコットとロレンスというNPCを雇う事が出来るのだが、彼らがまた重要な場面で劇的な活躍を見せるんですね。
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- スコット初登場場面。いきなり雇用料を値切られている(第三章04話「ご褒美大好き!」より)
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- ロレンスは第4章から登場(第四章05話「その力、誰がために」より)
また第6章でライアン真に重大な示唆を与えるアネイルの英雄リバスト。これは原作ではほんの一場面に伝説の人物として登場するのみなのですが、設定を巧みに利用し、重要人物として物語に組み込んでいる。こうゆう設定を随所にちりばめる事で物語世界の厚みがグンと増しているんですね。
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- アネイル攻防戦の一場面。もちろん元のドラクエにはこんな場面はない。(第六章04話「この世界に僕の居る場所は」より)
小道具としてのアイテムの使い方も巧みで、作者であるておくれPによると、ドラクエの副読本である「ドラゴンクエスト アイテム物語」を参考にしていたりするそうですね。このあたりがこの作品がアイマスファンにもドラクエファンにも受け入れられている所以でしょうね。
- 場面を引き締めるアイマス楽曲
各場面で採用されているアイドルマスター公式楽曲の選曲がまた素晴らしい。陽気で前向きなやよいの快進撃を盛り上げるGO MY WAY!!。モンバーバラの姉妹の切ない恋心を表すrelations。魔物と人間との間で揺れ動くライアン真を象徴する迷走マインド。そうゆう各章テーマソングといった使い方に留まらず、アリーナ編クライマックスの千早のGO MY WAY!!、トルネコ編クライマックスで用いられるやよい鳥等、ちょっと意外にも思える選曲が、見事に場面を引き締める。この、音の使い方の確かさが長編動画を飽きさせずに見せる原動力になってるんですね。
- 視聴者との距離の近さ
そして、アイマスクエストの魅力として忘れてはならないのが、第3章以降定番となったキャラ人気投票と、作者による作品解説ですね。その異常なまでの作成スピードとクオリティにに一体どうなってるんだ!という視聴者のツッコミに全力で答えるこのコーナー。その誠実な人柄とぶっちゃけっぷりに、ておくれP自身のファンになる人が続出。ついに第4章の人気投票では堂々の1位を獲得していたりしますw。
そこでておくれPの演出術として語られているのが、理想を追い求めつつ、先の展開を決め打ちしないということですね。どうしても、素人が物語を編むとき、理想の場面に固執して、積み上げが不十分なのに強引に話が展開したり、あるいは無目的に行き当たりばったりになって、いつまでも盛り上がらないということが起きがちです。しかしアイマスクエストにおいては、場面場面は奔放に展開しているようで、クライマックスに向けて計ったようにピタリと伏線がはまり込んでいく。これは、もちろん計っていたわけではなく、柔軟性の高い伏線を多数張り巡らせてクライマックスのポイントを複数用意し、またクライマックスに向けてキャラクターの心情を変化させることに演出を注力する演出術ゆえなんですね。あくまでキャラクターの心情の変化が主であり、伏線は従。キャラクターの心情が変化した瞬間に一斉に伏線を連鎖爆発させるから、否が応でも盛り上がりまくる。これは、プロフェッショナルの演出術としても見事で、また現代的な作劇術なんですね。作者自身は『適当です』などと謙遜していますが、まったくの独学でこの演出術を身につけたとしたら、それこそておくれPは化け物かと言わざるを得ない。
- 長編物語を個人が編むということ
第一部全72話。時間にしてアニメ2クール分にも匹敵する驚異のボリューム。これを聞くと尻込みをしてしまう人も多いかと思いますが、それだけの時間を費やす価値のある物語であると断言してもいい。何より、個人制作の長編物語が、第一部という形で物語として完結する事が出来たという事が素晴らしい。物語は始めるよりも終わらせる方がずっと難しい。幕引きをどうまとめるかに、物語作家としての力量が現れるともいえる。エピソードとしては勇者の元に全員集結したというところで、ドラゴンクエストのストーリーはまだ完結していない。にもかかわらず、誰もが納得する大団円としてそれが描かれているというのは、もはやその才能を認めるしかない。物語を立ち上げ、盛り上げ、見事に完結させる。ておくれPは物語作家として完全に独り立ちしたといってよいと思う。これから始まる第二部も、恐らくは涙と笑いの一大エンターテイメントとなるのはもはや間違いない。
ておくれPのことだから第二部からの視聴者への配慮も配られるとは思う。だから興味を持ってもらったら第二部から見始めるのも悪くないと思う。とはいえ、気がつけば第一部も見返していることは請け合いなのでやはり最初から追ってみるのをお勧めしたいですね。このエントリを読んで、一人でも「見たよ!」と言ってくれる人が現れれば、幸いです。
参考記事:
ニコニコは一般人を芸人にする - 敷居の部屋