初音ミクの新たな始まりの話 謝辞に副えて

 前回エントリに望外の注目を賜りありがとうございます。表現が至らない事もあり、不愉快を被った方もおられるようで、それは本意ではありませんので謝辞に副えて、少々の補足などをしてみたいと思います。
初音ミクという神話のおわり - 未来私考

メルトについて

 コメントで一番多かったお叱りは、メルトに責を負わせすぎ何じゃないかという趣旨のものだったと思います。

初音ミクを用いた自己言及的でないオリジナル曲について

 こちらの増田さんが大変すばらしいまとめをしてくださってるんですが、メルト以前にも自己言及的でない良曲はたくさんありましたし、むしろそうでない曲のほうが圧倒的に多かったと言ってしまってもいいんですよね。特にbaker氏のCelluloidとSound、うたたPのストラトスフィアは初音ミクムーブメントを考える上ではずすことの出来ない名曲でしょう。

 メルトの大ヒットはこういった下地の上に、また自己言及的な歌姫系の楽曲の人気が頭打ちになりつつあり、そして隣接する歌ってみたカテゴリでの状況なども相まって複合的な要素の上に成り立っているのは間違いのないところだと思います。

http://d.hatena.ne.jp/kuroradi/20081208/1228750412

 トラックバックでも手厳しい意見をいただいてしまいましたが、けしてryo氏に対して含むところはない事だけは明言しておきます。ちなみにryo氏の曲で一番のお気に入りは「ワールドイズマイン」ですねー。このミクはかわいすぎる…

初期の初音ミクブームについて

 実のところ、一口にミクブームといってもその源流であるワンカップPの「初音ミクが来ない?来た?」から瞬間的に分岐が分かれて、それぞれ隣接する潮流と影響を与えながら独自の歴史を刻んでいたんじゃないかと思っているんですけれども、どうしても自分がいた立場以外で実際何が起きていたのか、というのはよくわからないんですよね。

 私は、自己言及する歌姫としての初音ミクに魅入られて、そこに隣接する才能豊かなDTMerたちの競演を眺めながら、今に至るまでVocaloidと彼らが歌う歌をずっと聴き続けている。それはあくまでひとつのストーリーであって、他の人から見ればまた他のストーリーがあってしかるべきで、それが今回この記事を書いて明らかになったことは、とても有意義な収穫だったと思っています。

歌姫の死について

 この書き方がどうも一番反発を呼んだようで…あくまで分析ではなく随想としては、詩情があってよいのではかな…とも思うのですが、引用元の記事が分析考察記事であり、読み手がそうゆうものを期待してこれを読まされたらそれはちょっと苦笑してしまうというのもわかります。まあお互い事故だったということで、多目に見ていただければ。

サイハテについて

 これは、一番突っ込まれるだろうなあと覚悟はしておりました。コメント等で指摘されたとおり、恣意的に解釈しすぎてるんですよね。サイハテは、素直に受け止めればミク(歌い手)が送られる側ではなく送る側の立場で誰か親しい人の死を物語る歌なんです。とはいえこの歌は聞き手の想像力をとても刺激する。送られるのは誰で、送るのは誰なのか、それは聞く人の数だけ答えがあり、聞くたびにまたそのイメージは何度も何度も変幻する。とにかくとてつもない名曲なので、これを聞かずに死ぬのは人生の損失なので、未聴の方は是非、出来ればある程度間をおきながら複数回聞いていただけることを強く願うばかりなのですが。

 もともとこの締めは、メルト以降に生まれた自己言及的な歌の多くが別れや死をモチーフにしているという類例のひとつとして上げる予定で、ほかには初音ミクの消失や片想イVOC@LOIDと並べて紹介するつもりだったのですが、記事を書いている間頭の中でサイハテが鳴り止まなくなってしまい、ええいや!と勢いで書いてしまいました。今は反省しております。書き物記事ですので修正はしませんが…。


 補足というよりも言い訳大会といった趣になっておりますが、メルトがひとつの転換点になって、歌姫初音ミクという想像力が急激にリアリティを失っていった、あるいはキャラクターとして固定的になっていったという推察自体は、それほど大きく的ははずしてないのではないかなと自負しています。

 この時期、ほぼ同時にシンPによるうろたんだーが投稿され、KAITOの躍進が始まったことや、ミクのような物語を獲得出来なかった鏡音リンが、トラボルタPのココロと出会うことによって大きく変容していったこと、悪の華ブーム、VOCALOID技術部の変遷、その他音楽しーんとしてのVOCALOIDの動き(私は音楽的素養に乏しいのでこの方面は語るのは難しいです)など、ミクについてはまだまだ語るべきことが語られていないという印象もあったりします。そういったものをきちんと参照可能な形でまとめる時期にそろそろ来ているのかもしれないなーと、今回のこの慮外の注目を受けて思ったりしております。私も、わかる範囲でまた記事を書いていきたいですね。そのときはまたお付き合いのほど、よろしくおねがいします。

追記

 本来自分がやるべき考察を加えていただいたid:north2015さんには厚く御礼申し上げます。

http://d.hatena.ne.jp/north2015/20081209/1228755829