私的録音録画補償金についてそもそも論で語ってみるよ

補償金制度“そもそも論”を議論する「基本問題小委員会」設置

 なんだか同じところを行ったり来たりを延々と繰り返している気がする私的録音録画補償金問題ですが、補償金制度が本来どのようにあるべきかという“そもそも論”を議論する予定とのことで、そもそも補償金って何なのかということについて思うところを書いてみようと思います。

制定は1992年

 そもそも私的録音録画補償金が制定されたのは今から17年も前の話なんですね。施行が1993年6月からなので、その年に発売されたMDの普及が一因かとも思っていたのですが、直接の因果は薄いのかな。何にせよそれ以前にプロユースで使われていたDATが民生機として普及しつつあり、今後デジタル録音機器が普及するのが時間の問題となった、そんな時代背景の中で策定されたものなんですね。その創設の理由は、私的録音補償金管理協会の文言によると以下のようなものです。

補償金制度創設の背景

 著作権の制限のひとつに私的複製がありますが、近年の録音機器の開発・普及に伴って、音楽などを録音して楽しむ方法が広範に定着し、著作物の有力な利用形態となり、本来著作権者等の受けるべき利益を害しているのではないか、との指摘がされるようになりました。これが私的録音問題です。特に、デジタル機器については、高品質の録音が可能であることから、権利者の利益に及ぼす影響が懸念されました。

 この私的録音問題に関し、国際的には、ドイツをはじめヨーロッパ諸国を中心に、権利者に対する一定の補償措置を講ずる国が増えており、アメリカにおいても、平成4年10月末にデジタル方式による録音について同様の制度が成立しています。

 我が国でも、この問題について、長年にわたり検討がなされてきましたが、平成3年12月、著作権審議会第10小委員会が、補償金制度導入を提言する報告書をまとめ公表しました。

 この報告書を受けて、文化庁において、制度導入のため必要な事項について更に検討を行った上で平成4年の第125回臨時国会著作権法一部改正法案を提出し、全会一致で成立したものです。
私的録音補償金制度について

 ものすごくざっくばらんに解釈すると、無劣化のデジタルコピーが簡単に出来るようになると音楽ソフトの売上が落ちる可能性があるから録音機器メーカーから補償金を徴収しましょう、という話ですね。しかし、そもそも、何故無劣化のコピーが簡単に出来ると音楽ソフトの売上が落ちるのでしょう。そもそも、本当にデジタルコピーによって売上が落ちるなんてことがあるんでしょうか。

 下のグラフは日本レコード協会発表の数字を元に音楽ソフトの生産金額と音楽有料配信(2005年以降)の売上をグラフ化したもの。音楽ソフトは売上ではなく生産数(出荷数)なところに注意が必要ですが、概算の数字としては問題ないでしょう。過去20年としたのは私的録音録画補償金導入前後を比較するためですね。ちなみに元データを見れば一目瞭然ですが、1989年以前に以降の数字を上回る年度はなかったことだけは付記しておきます。

引用元:一般社団法人 日本レコード協会

デジタルコピーで売上が落ちるという嘘

 1992年以降、MDを始めデジタル録音機器は普及の一途だったはずなのですが、1998年にピークを迎えるまで、圧倒的な右肩上がりですね。このころはいわゆる邦楽バブルと言われる時期で、宇多田ヒカルのファーストアルバムが700万枚とかわけのわからない数売れていた時代ですね。このころには音楽好きはみんなMDを持っていたし、パソコンでCD-Rを焼く人間もそんなに珍しい存在ではなくなっていた。にも関わらず、音楽ソフトは1980年代以前と比べて圧倒的に売れている。2000年代以降の減少をもってして、デジタルメディアが普及したせいだという声もあるかもしれませんが、単純に景気の退潮、若年人口の現象、娯楽の多様化等の一般的な要素の影響のほうが大きいでしょう。ここでは詳しくは分析しませんが、特に携帯電話が若年層にも普及し始めたというのが影響として一番大きいんじゃないかと考えますね。何にせよ便利なデジタルコピーツールが普及したから売上が落ちたとするには無理があるように思われます。

選択肢が広がっただけ

 そして2005年以降統計に加わった、有料音楽配信の売上を加味すると、既に売上の減少は下げ止まってるんですよね。2008年こそは微減ですが、ほぼ横ばい、邦楽バブルの始まる1992年ころと同じ水準を保っている。2008年には音楽配信の売上だけで全体の3割を占めるに至っており、今後ますます増加していくのはほぼ確実でしょう。使うお金の量は変わっていない。選択肢が広がってお金の出口が変化していっただけと考えたほうがずっとしっくりくる。

そもそも何を補償していたのか

 私的録音録画補償金導入前と導入後を比較した場合、一貫して導入後のほうが高い売上を誇っている。だとしたらいったいこの制度は何を「補償」していたのか。ぶっちゃけて言えば、この制度というのは、レンタルCDをコピーするケースを想定して作られたと考えています。廉価でレンタルしてきて、元ディスクと同質のコピーを作られたら商売あがったりだというのがレコード会社の主張としては筋が通っている。だけど現実には音楽をデッドコピーして「所有」するユーザーというのはずっと少数で、ほとんどの人はデジタルであろうがアナログであろうが関係なく「自分が好きなスタイルで音楽を受用できる様に私的にコピー」してるだけなんですね。それはカセットテープがMDになりipodになった今でも、本質的には何も変わっていない。
 デッドコピーが簡単に出来てしまうこと、それが違法に流通してしまうことと、ユーザーがデジタルコピーを利用することの間にはほとんどまったく何の因果関係もなくって、これをまるでごっちゃにして取り扱っていることが、私的録音録画補償金問題をややこしくしている最大の要因なんじゃないかと。趣旨を何度読み返しても、これじゃまるでユーザーをデジタル万引きする泥棒扱いしているとしか思えないんですよね。
 私的利用を越えてコピーする=違法流通させるような輩には厳罰を持って当たればいい。一部の不心得者がいるからといってその他の大多数の利便を損なうことを是とするのはどうかと思いますよね。

 そもそも「デジタルコピーがあるから音楽にお金は払わない」なんていうユーザーは元々大勢に影響がない程度の少数しかいなかった。ほとんどの「普通の人たち」は自分が好きな音楽にはレンタルにしろ配信にしろお金は払うし、そうでないものにはお金は払わない。それはこの20年間なんら変わりはないんじゃないだろうか。

 つまり私的録音録画補償金という制度が拠り所にしていた前提自体が間違っていたんじゃないか、そこまで巻き戻して考えたほうがいいんじゃないんですかね。