「戦場は荒野」を読む

 傑作エピソードとして名高い「戦場は荒野」です。やはり唸ってしまうくらい面白い。まず避難民を降ろすために休戦協定を結ぶというシチュエーションが素晴らしい。相手が話の通じない怪物ではなく、同じルールの元で戦争をしている人間であることを改めて感じさせます。

 ホワイトベースの置かれている状況の説明も面白いですね。地平すれすれを飛ぶホワイトベースをガルマは「我が軍のレーダー網をかいくぐるため」と推察して即座にシャアに否定されているんですが、実際、丸見えなのになんでそんなリスク負うの?という視聴者の疑問に上手く答えつつ、ガルマの戦術勘のなさを強調する効果もあり、また戦場において誘導兵器の有用性についても軽くフックを仕掛ける形になっていますね。この、誘導兵器をどうにかして戦場に持ち込むというのが今後の物語のキーのひとつでもありますね。

 休戦協定を挟んでの知略戦もとても面白い。ガンペリーに被弾の偽装工作をするシーンがコミカルに描かれていますが、この時点でブライトの策略がまったくわからないのがいいですよね。勘の良いシャアは何かに感づいた風に演出するのが、よくよく考えると若干無理目なこの作戦に説得力を与える効果がでてますね。

 偵察のジオン兵との交流もとても良い。真面目なルッグンの隊長と、フラウに色目を使われてデレるその部下がなんとも良い味を出している。ここで隊長が仏心を出して引き返す場面の緊張感がたまりませんね。ブライトの策略の破綻の可能性と、視聴者が感情移入してしまったこのルッグンの二人の運命の両方に気持ちが振られて、目が離せなくなります。アムロの照準が、一瞬ぶれる演出もとても良い。

 アムロ不在の中で戦端が開かれるわけですが、そこで奮迅の活躍をするカイがものすごくいい。必死で闘っている最中ずっと涙目なんですよね。ある種戦闘を楽しんでいるアムロと違って、カイは徹底的に戦闘を怖いものとして向き合っている。向き合った上で闘うことから逃げない。義務感や使命感があるわけでもなく、ただ純粋に逃げたくないから闘っている。この時のカイは、すごくみっともないんだけど、凄くかっこいい。

 一方のアムロは戦闘の中で鬼気迫る表情で、逃げ惑う敵すら容赦することなく後ろから斬りつける。その活躍はやはり格好良いのですが、同時に怖さも見せている。この2者を同時に描くというのがガンダムの脚本の本当に優れた点ですよね。

 撃墜されたルッグンから脱出し、ペルシア親子の元で手当てを受けるジオンの隊長。誰もが一瞬、この隊長はこのままこの親子のところに留まって一緒に暮らすんじゃないかと思ったんじゃないんでしょうか。しかし隊長は、何の躊躇もなく原隊に戻ることを告げるんですよね。視聴者にしてみれば、ジオン軍という敵役の中にも良い人間がいると思い知らされた上に、その人が当たり前に戻る場所としてそれを認識しているという場面を見せつけられるわけで、どっちが善で、どっちが悪という決めつけを徹底的に否定されてしまうわけですね。それでも戦いは続いていくという無常観。

 遠くに光点として映るホワイトベースの軌跡と、徒歩で原隊へと向かう二人のジオン兵。遠く離れていくホワイトベースはもうこの親子が物語に交わることはないのだなという感慨を呼び、ジオン兵たちはホワイトベースと同じ方向=戦場へと戻っていくということを表現している。頭から尻尾まで、ガンダムという作品の魅力を詰め込んだ屈指の1本ですね。