「翔べ!ガンダム」を読む

 前回で追撃部隊を殲滅したため悠々と空を飛ぶホワイトベースから始まる第9話「翔べ!ガンダム」です。

 戦いの連続の緊張感が解かれ、一気に疲れが噴出するアムロ。いい加減休ませてくれよという気持ちはよく分かります。そんなアムロも子供たちからトマトをプレゼントされただけで、気分が良くなるんですよね。守るべき人たち、自分が守らなければならない子供たちがいるというだけでやる気が出てくる。人間なんてそんな簡単なものなんですよね。

 一方で、食事中にこっそり子供のおかずを盗み食いする大人を目撃してしまって、一気にやる気ゼロの状態まで戻ってしまうのもまた人間らしいところです。僕はこんな人たちを守るために闘ってきたんじゃないんだと思い込んでしまったら、もうテコでも闘いたくないという。言ってしまえば視野狭窄なんですが、ここまで闘ってきたアムロを誰が責められるのかとも思いますね。

 フラウやブライトに叱咤激励されてもまったく動かなかったアムロを動かすきっかけになったのはブライトの「それだけの才能があれば貴様はシャアを越えられる奴だと思っていた。残念だよ」という台詞です。戦いの連続の中で忘れていたその名前が、アムロの中の戦士としての本能を突き動かすという名シーンですね。今、戦いに出ているリュウもカイもハヤトも、もちろんフラウもシャアと対峙したら勝つことは出来ない。それが出来るのは自分だけだというのはアムロ自身がよく分かっている。だからみんなアムロを頼っているんだという当たり前の事実にようやく思い至ったんですよね。

 そのシャアが幕間で見せる腹黒さもいよいよ極まってきました。味方の援護をしない理由を作るために無線に小細工をするという芸の細かさ。ある種小物感が漂っていますが、何故ここまでするのかが皆目分からないあたりがミステリーを演出していて面白いですね。

 そしてマチルダさんの登場。補給を受けられたという安堵感もあってか、ことさらに美化されて描かれています。その落ち着いた物腰は、アムロにとって信用できる大人の理想として映ったのかも知れませんね。