「死闘!ホワイトベース」を読む

 ランバ・ラルの強襲が失敗に終わるこのエピソードですが、よくよく見ると結構この作戦というのがよく分からない。ちょうど今月のガンダムエーストニーたけざき先生がこの回の解説漫画を書いていましたが、ラルが何を勝利条件にしていて、どこでしくじったのか考えるとどうもしっくりこないんですよね。いかにもラルの拙攻によって失敗したようにしか見えないんですが、そんな杜撰な計画を立てるものなのかなあと見ていると、微妙な味わいが出てくるというか、情報量が多すぎて演出が追いついてないんじゃないかという気がしてくるんですよね。


 少なくとも「この風、この肌触りこそ戦争よ」と語るラルの横顔には、勝ち目のない作戦に挑む悲壮感のようなものはなく、十分な賞賛あっての作戦なんだという自信が見える。その手応えが違ってくるのはホワイトベースに進入してからで、キッカのような年端のいかない子供も含めて、出てくる兵士がみな少年兵ばかりという異常事態にラル隊が戸惑っているような様子がうかがえます。このあたりははっきり言って情報の絶対量が不足しているのでほとんど妄想に近い憶測なんですが…兵に「しかし、妙だとは思いませんか?少年兵ばかりというのは」と問われて「どこも人手不足だからな」と答えるラルの態度には戸惑いのようなものを感じます。

 セイラ―アルテイシア―との邂逅で「戦いの中で戦いを忘れた」ラルは、それ以前にフラウに対して手心を加える等、既に非常に徹しきれない心境になっていたのではないかという気がしますね。

 考えてみると、メインブリッジを無力化(クランプの仕事)したのちに、サブブリッジのコントロールを奪ってしまえばホワイトベースは航行不能に陥るわけで、前回でグフを捨ててでも生き残る執念を見せたラルであればあの程度の窮地は逃れようと思えば逃れられたのではないかという気もします。ラルの敗因は、ここで逃げ延びて再び少年兵たちと死闘を繰り広げるという気力を失った…まさに戦いの中で戦いを忘れたことにあったのかなとも思います。そう考えるとあの訓示めいたラルの最後の言葉もまた違って聞こえてくる気もします。


 そしてこのエピソードのもう一本の柱であるリュウの動きです。何度も候補として名が上がりつつも、結局一度もガンダムに乗ることのなかったリュウ・ホセイという人物を思う時、やはりこの人はモビルスーツパイロットとしての才能には本当に恵まれなかったのだろうなと思います。その代わりに彼が授かった能力…心の機微を読み取り、人と人の和を取りなす、その人徳というものに改めて気付かされます。独房で悪態をつくアムロにきつい一発をお見舞いしながら、ブリッジでアムロの様子を聞かれれば、ちょっと考えた後に「大丈夫だろう」と言い切る。これはアムロが言葉とは裏腹に本心では既に納得しかかっているのを感じ取ってるんですよね。ただ、男の見栄として、自分から頭を下げるわけにもいかないからアムロは上手く言葉に出来ない。その意図をきちんと汲み取っているんですリュウは。

 台詞だけを追っていくとつかみ所のないところの多い今回ですが、ガンダムという群像劇の持つ奥深さというものについて改めて考えさせられる1話ですね。