「マ・クベ包囲網を破れ!」を読む
あれだけ損耗の激しかったランバ・ラルとの激闘を乗り越え、わりとのんびりと敵の鉱山基地を攻撃したりしているホワイトベース一行。行きがけの駄賃なのかもしれませんが、もうこの時点でブライトさんの判断力が鈍ってたんじゃないかという気もします。過労と緊張感の緩みから倒れてしまったブライトに対してわりと素っ気ないクルーたちの態度もちょっと気になるところですね。このころのブライトさんは本当に信任を失っていたんだなあとしみじみと思います。
なんの悶着もなくミライさんが艦長代理に収まるあたり、みんなミライの能力に期待をしていたということなのかも知れませんが、不慣れな艦長代理のミライさんに対しても容赦のないツッコミをいれるアムロとセイラは厳しいですねえ。もっとも、整備不良のガンダムで必死に応戦するアムロの悪態はいつもの通りではありますね。
ビームライフルの弾切れはいつものことですが、ビームサーベルまで故障したのはなんとも珍しいですねえ。やけになって格闘戦をするガンダムと、そこから逃げ出すグフのパイロットが妙にユーモラスな戦闘シーンだったりします。わりとピンチなのにそんな気がしないのは演出のせいでもあるでしょうね。BGMからしてそんなに悲壮感をだそうという意図はもともとなさそうではありますが。
もはや祈るくらいしか手立てがなくなったミライが、「ブライト…リュウ…助けて」と2回繰り返すシーンがなかなか印象的ですね。これは大事なことなので2回言ったのではなく、独り言でつぶやいた言葉をセイラが聞いていたという演出なのでしょうね。それにしても皆がリュウを頼りにする中でブライトを頼りにする言葉を吐くのはミライだけなんですよねえ。これは惚れた腫れたといった類の話でなく、ミライがちゃんと人を見ているからこそ出る言葉なのだろうとも思います。
オペレーターのマーカーの機転で辛くも難を逃れたあとの、気の抜けた表情と、そのあとのすっくと立ち上がって気を引き締め直すシーンもなかなか興味深いです。不慣れな指揮官業務で疲労困憊しつつも、自分の適材任務であればやはりこの人はとても優秀なんでしょう。それはつまるところ政治力があるんですよね。操艦という現場判断ではなく、もっと高所大所からの判断こそが実はミライの最大の武器として描かれている。非常に地味なシーンですがなかなか味わい深いです。
大局を見た戦略ということで言えばマ・クベの落ち着き払った用兵の見事さですが、ここで後詰めをしなかったのは少し違和感の残るところですね。あくまで無力化が目的であって、接収しようとすると消耗が激しすぎるという判断なのかも知れませんが、ちょっとシナリオのツメの甘さを感じなくもないですね。