「エルメスのララァ」を読む
…いやあ面白い。何を今さらではあるが、25分間画面に釘付けになってしまった。作画なんて酷いもんだし、中盤〜終盤の群像劇の深みもそれほどあるわけでもないのだけれども、とにかく圧倒的に面白い。映像のリズム、テンポが素晴らしいのだなあ。語られる内容を開いてみても、これが25分間に詰っているというのが驚異的だ。
圧巻はやはりマハルのコロニー疎開からギレンとデギンの刃物のような切れ味の言葉の応酬だろう。優生学を振りかざすギレンに対し、それを「ヒットラーの尻尾」と評するデギン。その言葉を聞いたギレンは、平静を装いながらも声のトーンが一段低くなっている。その行間の空気を読むと鳥肌が立ってくる。能面のような表情のギレンが一瞬うつむく。彼が立ち去ったあとにデギンのこわばった表情は解かれ、父親としての言葉がこぼれる…「ヒットラーは敗北したのだぞ…」と。
BGMをまたがせ、緊張感を維持したままシーン展開。おそらくは歴戦の勇士から死神へと評価を落としているであろうシャアが、部下からの信頼を失っている様子が丁寧に描かれる。艦を任せると言われたマリガンは生返事をし、エルメスのララァの圧倒的な性能を見せつけられたバタシャンは命令を無視して後方へ下がる。それはシャアの、今までの行いが招いた結果だ。
技術者としてモスク博士と打ち解けるアムロ。アムロが軽口を言い合っているというシーンはとても印象的だ。「古いタイプ」と言われたのもこのモスク博士との会話の流れなのだろう。「おセンチ」「翔んでる」は当時の流行語だが、ニュータイプとしての能力を開花させるアムロが、特別な性格や才能の持ち主ではないということは繰り返し強調される。
ガンダムとゲルググの戦闘は「シャアが来る」をBGMに、一切の効果音を排して行われる。宇宙空間の静寂と、緊張感が滲み出る。アムロを「悪い人だ」と断じ、シャアを守るという強い決意をしたララァの険しい表情を、しかしシャアは知ることはない。そして、「光る宇宙」へ。
記事を書くためにリピートしてたんですが、まあしかし鳥肌ものですね。本当に何を今さらなんだけど、この回を含めて終盤4話の完成度というのはやはりとんでもないです。不朽の名作と言われるだけのことはある。
細かいところで、ギレンがソーラーシステムを、キシリアがニュータイプ部隊を、ドズルが機動ビグザムをと、それぞれがめいめいに決戦兵器の開発に血道を上げているあたりが、ジオンの余力を示しているようにも思いますね。ビーム兵器を無効化するビグザムはそれだけでも戦局をひっくり返す可能性を秘めているがその後顧みられることはない。キシリアのニュータイプ構想もギレンは丸投げするだけで戦略に組み込もうという意思は見せない。目の前の戦争よりも戦後の権力闘争ばかりを見ているあたりが「尻尾」たる所以なのかもしれませんね。