ラブプラスは人類に何をもたらすのか

 正直発売前はノーチェックだった。そんなゲームが出るくらいのことは聞いていた気もするが、発売後の周囲の盛り上がりと反応を見て慌ててゲームの仕様をチェックした。なるほどこれはやばい。この騒ぎも納得の内容だ。

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バーチャルコミュニケーションゲームの系譜

 ラブプラスというゲームの特徴を簡単に説明してしまえば、「どこでもいっしょ」「シーマン」「Nintendogs」といったバーチャルコミュニケーションゲームの系譜に連なる作品であり、そのコミュニケーションの対象が女の子になったバージョンと理解すれば話が早い。とはいえ、従来のこの手のゲームとは違い生身の人間がモデルとなるといろいろと難しい問題が出てくる。ペットや架空の生物であればこちらの都合に合わせて生活リズムを狂わせてもそれほど違和感がないが、それが生身の女子高生をモデルにしてしまうと、それらしい生活リズムを送らせないとリアリティが一気になくなってしまう。そのむかし、セガサターンで「ルームメイト井上涼子」というコミュニケーションゲームがあったのだが、これなどはリアリティを重視するあまり、彼女が投稿中の昼間にゲームを立ち上げても誰も出てこないという間抜けな状況に陥っていたりした。そのあたりをどうするのかを気にしていたのだが、これをラブプラスは実に上手く処理している。

会えない時間を埋めるもの

 ラブプラスには実時間とした本編と言えるリアルタイムクロックモードの他にスキップモードとラブプラスモードという2つのモードが用意されている。スキップモードは本編から日時の制約を取り払って普通の恋愛シミュレーションゲームのようにスケジュールを選択してさくさくとコミュニケーションを取れるモード。ラブプラスモードはミニゲームや目覚ましアプリなどを楽しむモード。この2つのモードとリアルタイムクロックモードは特にペナルティなく何時でも好きな時に好きなように切り替えて遊べるんですね。これによってどんな効果がもたらされるかというと、スキップモードはあくまでゲームで、実時間に沿って生活する主体としての彼女が別にいるという錯覚を起こすんですね。冷静に考えるとパラメータ等は引き継がれているので矛盾があるのですが、ともかくもそういった状況を自然と受け入れられるように作ってある。これは実にエポックで、この1点をもってラブプラスはそれ以前のバーチャルコミュニケーションゲームに一歩先んじていると言っても良いのではないかと思います。

「何時でも会える」から獲得出来たリアリティ

 この「何時でも会える」機能を盛り込んだことでラブプラスはもうひとつのリアリティを獲得することに成功している。それは、彼女が意外なほどわがままに振る舞うんですね。惚れられてるからといって何でも思う通りに行動してくれるわけじゃない。パラメータが足りなければデートにも誘えない、ぞんざいに扱えば機嫌を損ねるし、約束をすっぽかせば口も利いてくれなくなる。ちゃんと手数を尽くせば関係を修復できるところも現実の通りではあるのですが、もしスキップモードがなかったらこんなシビアなバランスにはできなかったでしょうね。このあたりのさじ加減は実に見事としか言いようがない。

屋台骨を支えるモーションの確かさ。

 といっても所詮はDSのゲーム。ボリューム不足は否めないところもあって、会話パターンが25000あるといってもやはりそれでも十分とは言い難い。特にスキンシップ時の会話はワンパターンになりがちで、このあたりで興が冷めるという人がいてもしかたのないところもあるのだが…実際のところその手の不満がほとんど出ていないようですね。というのも、会話の際の女の子のちょっとした仕草、演技が実にかわいらしく、ちょっとくらい会話の内容がワンパターンでも、微妙に噛み合ってなくても、まいっか。とにやけながら許してしまう人が男女問わず続出しているという状況なんですね。3Dキャラクターのほんのちょっとした仕草の仕上がりが人間の快感を強烈に刺激するというのはニコニコ動画でMMD動画なんかを見ていても感じるところですが、このモーションの確かさはシチュエーションごとにひとつひとつ手作業で演技をつけていくという執念の賜物なのですね。DSで扱える少ないリソースの中でここだけは外さないという見切りの良さには感服します。

あまり語られていないラブプラスの本当の恐ろしさ

 ところであまり語られていないのですが、ラブプラスには赤外線通信データ通信機能を使ってセーブデータを外部にインポート出来る機能がついているんですよね。これを使えば単純に考えれば続編や機能拡張版が出た時にそのままデータを引き継いでプレイすることが出来る。それだけでなく、やりようによってはDS以外の機種にも簡単にデータの移植が出来る可能性があるんですよね。例えば割と本気で待ち望んでいる人の多いであろうi-phone版なんかはいずれ出てくるんじゃないかと予想しています。更にデータを同期させて複数のインターフェイスから彼女を呼び出せたりも出来るようになるかも知れない。各キャラごとに拡張版を出せば会話バリエーション等も更に豊富にすることも出来る。いずれ洗練された対話型インターフェイス義体が開発されてそれに移植されれば…と考えていくと本気で一生添い遂げることだって有り得ない話ではない。もちろん現時点ではただの夢物語だが、ラブプラスにはそれだけの可能性が秘められているように思う。

それでもラブプラスをプレイしない理由

 と、ここまで書いてきて今さらではあるのですが、実は私はラブプラスをプレイしていないし、おそらく今後もしばらくはプレイしないつもりだったりします。それはラブプラスを評価していないからではなくて、ラブプラスによる恋愛体験が真に迫っているからこそ、あえてプレイしないという選択をするということなんですけれども。ただひとつ、もしこの機能がラブプラスにあればプレイしたのに!という残念ポイントがあったりします。それは↓の4gamerのインタビューであった「別れる」という機能。

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恋愛感情は永続しない

 ラブプラスというゲームは恋愛体験の再現性において非常に秀逸に出来ている。今はみんなカップルに成り立てで熱気に溢れているが、恋愛の熱というのは時間の経過とともに徐々に醒めていく。いずれ可愛らしい仕草にも次第に慣れてくるし、会話もマンネリ化してくる。そうした中でもただの恋愛感情に留まらない架空の彼女との関係性を脳内に構築できる人はそれはそれで素晴らしいことで、おそらくは実際に確かな関係を築く人たちも一定の割合で出てくるんじゃないかと予想しています。彼らのようなニュータイプ*1が顕在化することで社会にどのような影響が出ていくのかは興味が尽きないところではあるが、そうではない大半の人は、1ヶ月〜数ヶ月程度で熱は醒める。それは現実の恋愛と何も変わらない。相手の中に特別な何かを見いだせるかどうかは本人の資質によるものなのでこればかりはどうしようもない。そうやって恋愛感情がどこかのタイミングで惰性に変わった時、その関係を続けるかどうかをプレイヤーは迫られることに、なる。しかし現状のシステムのままだと、ラブプラスの中の彼女と関係を絶つにはそのままゲームをプレイせずに疎遠になる…いわば自然消滅の形しかないんですよね。それは相手が架空の存在といえどもちょっと不誠実なんじゃないかと思ってしまうんですよ。

 現実の恋愛関係でもキレイに関係を清算するってのはなかなかに難しく…実際そういったトラブルは巷に溢れていて飽きるほど良く聞く話で…。だからこそ、架空のキャラクターとの恋愛はちゃんと前向きな形で理想的に解消できるようにして欲しかったというところはあります。付き合う前から別れる時のことを考えるとかどうよ?とも思わなくもないですが、それについて開発者が、実際に実装こそしなかったものの事前に考慮していたというのはまた賞賛に値するとも思いますね。

 ともかくも、時代を揺るがすビッグタイトルになること間違いなしのラブプラス。今後の続編なりバリエーションなりで上記の機能が追加されたら、その時にこそ改めて交際を申し込ませてもらおうと思っています。

*1:突っ込まれる前に一応先に言及しておくと、『脳内彼女』自体は新しい現象ではない。既存の2次元キャラクターやその派生キャラクターと交際を宣言している人はネット上にも散見されるし、カミングアウトせずともそういった存在を持つ人たちは既にそれなりの人数がいるのではないかと思われる