ゲームにおけるミミクリの役割

 前回の記事でゲームにおける競争の遊び(アゴン)と偶然の遊び(アレア)の役割について論じたのに引き続き、今回は模倣の遊び(ミミクリ)の役割について考察してみたい。

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「見立て」と「なりきり」

 一口に「模倣の遊び」と言っても、その適用範囲というのはなかなか掴みづらいものがある。そこで模倣の持つ機能を「見立て」と「なりきり」の2種類に分離してみたい。

 ミミクリの代表例といえるままごと遊びを想像してみると分かりやすいのだが、ままごと遊びを行うものはまず目の前の小道具、例えば泥団子や木の葉を料理や皿に「見立て」、また友達をお父さんや子供に「見立て」ることで、演者はお母さんに「なりきる」ことが出来る。まず最初に能動的に2つの事柄を同じものとして見立てることによって、自分自身があたかも何物かになりかわったように感じることが出来る、というのが模倣の遊びのもつ構造と考えられる。

 「見立て」と「なりきり」の遊びはそれぞれ独立して楽しむことが出来る。例えば雲を見て動物や食べ物を連想したり、英単語を語呂合わせで覚えたりする遊びは「なりきり」を伴わないし、モノマネ、猿マネをしておどけるような遊びは特別に「見立て」を行うことはない。その2つを組み合わせた時より面白い遊びとなるという構造は、競争と偶然を組み合わせたゲームと同様のものと言えるでしょう。何故この2つを分けて考える必要があるかと言えば、「模倣」を「競争」「偶然」といった他の遊びと組み合わせる時に「見立て」のみを取り込む場合と「なりきり」だけを取り込む場合、あるいはその両方を取り込む場合があるからですね。この切り分けをしないと、ゲームにおける模倣の役割が茫漠としたものになりやすい。

ゲームにおける「見立て」の役割

 古典的なゲームにおいては「なりきり」よりも「見立て」を取り入れたもののほうが多い。代表的なもので言えば将棋やチェスにおける駒の見立て、スゴロク遊びにおけるマス目の見立て、あるいはサイコロ遊びにおける出目の見立てといった例があり、ゲームにおける「見立て」の機能もこの3つに大別出来ると言ってよいと思う。以下、それぞれにおける役割を説明していく

  1. ルールの理解を助ける<競争+模倣>

 将棋やチェスのコマなどは、しばしば軍隊における兵卒に例えられる。歩であれば一番の雑兵なので前に1歩ずつしか動けない、王様は8方向自在に動ける、飛車角は戦場を縦横無尽に駆け巡る武将、桂馬は障害物をものともしない騎馬兵…等々、その見立てが実際に妥当なものかどうかは別として、こうした例えは複雑なルールをもったゲームを理解する為に大きな手助けとなっている。

  1. ストーリーを連想させる<模倣+偶然>

 古典的遊戯のひとつであるスゴロク遊びはその成立の早い段階から盤の上に絵や地図を書き込み、その止まったマスでの出来事を連想して一喜一憂するという楽しまれ方をしてきた。サイコロの出目による停止マスの変化を冒険に見立てて先の読めない物語を楽しむというのはRPG等に繋がるストーリー性の高いゲームの原型と言える。

  1. 隠された法則を発見する<偶然+模倣>

 特にストーリー性を持たない偶然の遊び、特にギャンブルの類においてはゲームの勝敗というのは基本的に確率に委ねられる。が、人はしばしば確率の揺らぎによる偏りに何らかの法則性を見いだして、隠された意図や決定者を想像することを楽しんだりもする。麻雀や競馬におけるオカルト理論などがこれに相当する。

コンピューターゲームにおける「見立て」

 ゲームにおける見立ての役割はコンピューターゲームの時代になってそれ以前よりもより重要な役割を担うようになってきている。先述した通りスゴロクの構造は和製RPGに多く見られるシナリオ先導型のゲームに受け継がれているし、また単なる乱数による結果の出力をプレイヤーの意思が介在するように見せかける演出もごく普通に採用されている。その極端な例として挙げられるのがナムコが1989年に発売したマインドシーカーだろう。

マインドシーカーとは (マインドシーカーとは) [単語記事] - ニコニコ大百科

 超能力開発ゲームと銘打たれたこのゲームは、言うまでもなく本当に超能力を用いてプレイするわけではなく、全てのステージは完全に運によってしか攻略することが出来ない。運がよければ1発で次のステージに進めるかも知れないし、何度やってもクリア出来ない人もいる。それをプレイヤーの超能力の有無に見立てることで、上手くはまった人は超能力者になりきって楽しむことが出来る。当然だがプレイヤーが超能力者になりきれなければ楽しむことは難しいので、現在ではほとんどの人にクソゲーとして認識されているが、競争の要素がまったくなくてもゲームが成立するひとつの例と言うことは出来るかと思う。

スペースインベーダーから生まれた物語

 ゲームルールの理解の為に見立てを用いた例としてはスペースインベーダーをその嚆矢として挙げることが出来る。1978年から1979年にかけて一大ムーブメントを巻き起こし本格的なシューティングゲームの始祖となったスペースインベーダーはそれ以前のコンピューターゲームに比べて高いゲーム性を持っていたことがヒットの要因とされているが、それ以上に、奇怪なデザインのドットキャラクターを侵略宇宙人に見立てて、砲台を侵略者から地球を守る防衛軍に見立てることで当時としては難易度の高い複雑なゲームルールを誰にでも理解出来るように演出したことが、爆発的なヒットの要因なのではないかと考える。

スペースインベーダー - Wikipedia
スペースインベーダーとは (スペースインベーダーとは) [単語記事] - ニコニコ大百科

 スペースインベーダーの前身とも言えるズンズンブロックを初めとして、当時にも複雑なゲーム性を有するゲームというのはいくつもリリースされており、しかしその中でスペースインベーダーだけが驚異的な大ヒットをしたという点は見逃してはならない。地表に向かって音もなくゆっくりと降り来るインベーダー、善戦むなしく破壊されていく塹壕、時折姿を見せる敵の母船たるUFO、敵の攻撃だけではなく地表まで侵攻されたら残機があってもゲームオーバーになるというシビアなルール、それが宇宙空間に見立てた真っ黒な背景の上で行われているというのは、当時流行していた宇宙戦艦ヤマトスターウォーズの影響もあり、プレイヤーに宇宙戦争のイメージを自然に想起させ、人によってはそこに物語性すら見出すに至った。それがスペースインベーダーというゲームを特別なものにした要因の一つであったのは間違いがない。

 もしスペースインベーダーが当初の企画通り戦車や飛行機の出てくる普通の戦争を模したゲームだったら、コンピューターゲームの歴史は今とまったく違ったものになったかも知れない。そんなことを考えてみるのも一興ですね。