エクスペンダブルズとガンダム00劇場版と物語の彼岸

 ちょっと時間が出来たのでシルベスター・スタローン監督・主演の映画「エクスペンダブルズ」と、水島精二監督黒田洋介脚本のアニメ映画「機動戦士ガンダム00劇場版」を見てきました。ガンダム00劇場版は仲間内でも評判が高く楽しみにしていたのですがなかなか期待に違わず良い出来で楽しめました。エクスペンダブルズも事前に予想していた痛快娯楽アクションではなかったものの、アクションスターとしてのスタローンの自己言及的な演出とシナリオがなかなか興味深い佳作でしたね。

  この2作品をこうして並べて語るというのも無理があるなあと我ながら思わなくもないのですが、この両作品は共通項として「事前にある類型の物語についてある程度の造詣がないと理解出来ない」という点が少し象徴的だなあ、などということを思ったりもします。

 「エクスペンダブルズ」は“惚れた女を助けるために、絶望的な戦力差のある軍隊を敵に回して孤軍奮闘するヒーローアクション”というはいて捨てるほどあるプロットをやや引いた視点からみているところがあって。軍事政権を支配するコテコテの悪役将軍が、黒幕の死の商人に娘を人質に取られてあっさりと改心するも結局蜂の巣にされるというこれまたコテコテの筋立てなのですが、なかなかに凄まじいのが、スタローン率いるエクスペンダブルズ<<消耗品軍団>>はそういった悪役サイドの葛藤をまったく一顧だにしないという点。

 相手が銃を構えたら殺す。潜入の邪魔になる場所にいたら殺す。人質を取られたら人質を殺される前に殺す。相手が戦力を整えてきたら陣地ごと吹き飛ばす。あれよあれよと言う間に築かれる死体の山の前に対話の余地といったものはまるでない。200人からの軍隊を数人のスーパーヒーローが圧倒的パワーで蹂躙しまくる様はむしろ何も知らないで殺されていく兵士に憐れみを感じるほどです。弾丸1発で上半身が消し飛ぶ火力のマシンガン等明らかに過剰な火力を持った味方を抱え、「絶望的な戦力差に挑む」といった悲壮感はかけらもない。チンピラが女を巡って殴りこみをかけるのとまったく同じテンションで、軍事国家に殴り込みをかけて軍隊を殲滅してくるという。もちろんアフターケアは一切なし。それでいて、成り行きで敵側についた元仲間とは、その場では殺し合っても急所は外すし、事が終わった後には一緒に歓談するという緩さ。この楽屋オチ感、「人間が共感できる幅の狭さ」をこうも露骨に見せてくるのはおそらくは意図的なものなんでしょうね。

 対して「劇場版ガンダム00」はその物語を “私たちは分かり合えた”という過去形で締めくくる。確かに物語の理路としては彼らはわかりあうことが出来たし、主人公であり超人類である刹那=F=セイエイが異星から飛来した知性と“分かり合うことが出来たという奇跡”の物理的な証拠をシンボルとして、エンドロール前後の描かれなかった50年間を人類が過ごしてきたのだろうなあと想像を広げることが出来るのは物語り読みとしてなかなか至福の時間ではあったのですが…。

 だけど、ちょっと待って欲しい。本当に私たちは“分かり合うことが出来た”のだろうかと。実際この「劇場版ガンダム00」という物語の骨子すら共有できていないのにいったい私たちは何を分かり合ったというのだろう?と。実はここには、分かり合うことの大切さを謳いながら、「分かる人にだけ分かればいい」という一種の諦観が見え隠れしているのではないかとそんなことを思わずにいられなかったりします。

 「エクスペンダブルズ」と「劇場版ガンダム00」は共に良作で、ある種の良識や教養のある人にとっては大変に満腹感のある作品であるのは間違いないでしょう。だけどこの2作品はどちらもたかがアクション映画、たかがロボットアニメ、なんですよね。観に来る人の大半は、ただカタルシスを得たいがためにやってくるジャンル映画なんですよ。どちらも、各俳優、各キャラクターのファンの満足度を満たすための細かい工夫は充実していて、実際見ていて飽きないし、それなりに楽しい。商業作品としてのノルマは十分に果たしている。だから別にこれでいいといえばこれでいい。だけどもこれは、あまりに広がりがないやり方なんじゃないかなとも同時に思ってしまったりもする。

 何が足りなかったのか。難しいよね。観て満足したんならそれでいいじゃないと言われたらそれで終わってしまう話。だけどやっぱり、これだけの材料が揃っていて、これだけの力量のスタッフが揃っているのならば、最後にもう一押しの「奇跡」が見たかったと思ってしまうんだよね。こんなことが起きるんだ、こんなことがあり得るかもしれないんだという驚きを、文脈を持たない人にも伝えられるような軌跡の瞬間を。

 ちょっと話が逸れたというか、徒然に書いてきて着地点がよくわからなくなってきた気もしますが。「ガンダム00劇場版」面白かったです。ガンダムとかアニメとか観ていろいろと深く考察したりとかしてしまう人ならきっと楽しめるでしょうし、その場で楽しめなくても、オタク仲間で語り合えば腑に落ちることは保証します。だけど、イマイチピンと来なかったなーという人に「視点」を提示するのはかなり難しい…。アレとコレとソレと観て語り合って、もう一度みると面白いよ!としか言えない。そんなもどかしさのある作品でしたね。そのことに作り手自身が自覚的だったのかどうか、少し気になったりもします。