Jコミの衝撃と期待と課題
ここ最近毎日のようにコンテンツビジネスの新しいニュースが飛び込んできますがこれはその中でも飛び切りの最上級の衝撃ですね。赤松健先生が立ち上げた絶版漫画の配信システム「Jコミ」です。
(1) はじめに - (株)Jコミックテラスの中の人
(2) 今ある「電子マンガ」の問題点 - (株)Jコミックテラスの中の人
(3) 「広告入り漫画ファイル」の仕様 - (株)Jコミックテラスの中の人
(4) 絶版マンガが70万円に?! - (株)Jコミックテラスの中の人
(5) 単行本にならなかったマンガを救え!(出口先生登場) - (株)Jコミックテラスの中の人
(6) 無料化「ラブひな」で、どのくらいの効果か調べよう! - (株)Jコミックテラスの中の人
【 FAQ (よくある質問) 】 - (株)Jコミックテラスの中の人
詳しくは上記の赤松先生自身による記事を参照してもらうとして、簡単にかいつまんで説明すると
- 利用者がスキャンした漫画をZIPでまとめてアップロード
- Jコミのスタッフが簡単に校閲した後、著作者の許諾を得て広告入りPDFを作成
- 利用者は広告入りPDFファイルを自由にダウンロード、再配布できる
というサービスです。本当にそんなことが可能なの?と驚いてしまうのですが、法的にも大丈夫とのこと。絶版扱いとなった書籍は著作権が著作者に一元化されるので、著作者自身の許可さえ得られれば全く問題はない*1んですね。
β版オープンが11月26日。実証実験として赤松先生の代表作である「ラブひな」全巻を広告付きで無料配信するとのことで今から待ち遠しいですね。
誰も不幸にならない仕組み作り
とにかく感嘆したのは、このシステムが、可能なかぎり誰も不幸になることなく運用できるように考えぬかれたものだということですね。絶版で入手困難な作品を手にしたい読者にとっても、過去の作品からの収入を得たい著作者にとっても、広告の在り方の変化に直面している企業にとってもとても魅力的に映るのではないかと思います。スポンサーにとっては、企業イメージと作品が食い違っていない限りはマイナスイメージを持たれる心配も少ない。もちろんこのあたりはマッチングの仕組みがどうなるかにかかってきますが、赤松先生の自信のほどを見るに期待して良いのかなと思っています。
既存の出版社や書店にとってはマイナスじゃないの?と思う向きもあるとは思いますがむしろこれはビジネスチャンスになるんじゃないかな。Jコミに並ぶのはそもそも出版社が商品価値がないと判断して絶版にした作品ですから、もしそこで思わぬ人気の出たものがあれば改めて新装版として売り出せば良いわけです。なんとなれば復刊ドットコムのように完全受注生産をJコミで請け負ってしまっても面白いかもしれませんね。
Jコミ最大の課題は運営負荷
ただひとつ心配なのは、利用者と著作者、スポンサーを繋ぐハブとなるJコミスタッフにかかる負荷が大きすぎるんじゃないかという懸念ですね。ITに強い赤松先生の企画なのでシステムの運用にはある程度自信があると思うのですが、作品点数が増えてくれば校閲作業も馬鹿になりませんし、それ以外にも著作者やスポンサーとの交渉に人的リソースを割かなければならないとなると、相応のコストがかかるのではないかと。収益性が十分なら問題ないですが、赤松先生が持ち出しで運営することになると事業の継続性に不安がでますね。当代きっての物語作家でもある赤松先生がJコミの運営が多忙になりすぎて画業に差し障りがでたらそれこそ本末転倒ですし。安定した運用を図るにはこういったコストを利用者側にアウトソースする工夫が必要になってくるのではないかと愚考します。
校正、校閲のアウトソース
記事中で、ポルノ画像等の無関係なファイルが混入していないかをスタッフがチェックした後に著者に回してOKを貰うという手順が示されていますが、不特定多数がアップロードするという仕組み上、落丁乱丁や、悪意のある改竄を防ぐのはなかなか困難を伴うことが予想されます。著者チェックにしても、自著であっても、というよりもむしろ自著だからこそミスに気付かないということも少なくないですしね。これに関しては落丁乱丁情報を利用者が簡単にフィードバック出来て、ダウンロードページにその情報が付記されるような仕組みがあると良いのではないかと思いますね。複数のスキャンファイルがある場合は著者に選んでもらうということですが、決定版が決まるまでは複数のファイルを並べて配信して利用者に選んでもらう形のほうが負荷が少ないのではないかと考えます。
もう一歩推し進めた形を取るなら有料のプレミアム会員を募ってアップロードされたファイルを下読みしてもらうというのもアリかもしれませんね。利用者の立場で見れば一般配信前に優先的に読む事が出来る利があり、運営側の立場で見れば一次チェックをアウトソースした上に運営費も賄える一石二鳥の策ですね。
著作者交渉のアウトソース
著作者の許諾に関しては、今はTwitter等で連絡を取り易い作家さんも多いですし、ネットに親和性の高い作者については恐らくは自己申告でどんどん集まってきてくれるのではないかと淡い期待を抱いているのですが、絶版本を扱うという性質上、既に廃業されて連絡が取れない作家さんも少なくないと予想されます。これも利用者が直接著作者に連絡することを推奨してしまえばよいかと。具体的には、ファイルはあるが著作者の連絡先不明なタイトルを明かして作者から直接連絡を入れてもらえるように要請してしまう。もちろんリクエストの多いものなどは運営サイドから働きかける必要があるかもしれませんが、限られた人員で運用することを考えれば利用者の情報提供を捌くコストは無視できません。何しろ利用者は著作者の何百倍あるいは何千倍もいるわけですからね。
スポンサー交渉のアウトソース
これについてはプロの広告代理店に依頼することを考えているのかもしれませんし、それでコストが見合うなら問題はないかとは思います。それはそれとして、漫画作品のスポンサードというユニークなことに興味を持ってくれる企業が自然に寄って来るような仕組みがあればそれに越したことはないでしょう。例えばアップロードされたそれぞれの作品に合った広告主を利用者に推薦してもらうというのはどうでしょう?「この漫画だったらあの企業に推薦してもらわなきゃ」「あの企業がこの漫画に広告出してたら面白い」みたいな意見を集約して誰でも見れるようにしておけば、ユーモアの分かる広報担当者がアポイントメントをとってくるなんてことも最近の世の中の流れを見ているとない話でもないんじゃないかなと。何よりこの方法で広告が募れれば利用者にとっても広告主にとっても最良の関係を築くことができるんじゃないかなと思うんですがどうでしょう?
ともかくJコミはその理念は素晴らしいのですが、可能な限り運営の取り分ゼロでとなると長く安定して運営するためにはサーバー管理以外は放っておいても勝手に回転する、運営の仕事はたまにトラブルの裁定をするくらいでないと難しいのではないかと。もちろん逆に収益性を高めてスタッフをガンガン拡充するのも悪いことではないとは思うんですけどね。いずれにせよこの新しい試みを全力で応援し、支援していきたい所存です。