暁美ほむらの勝利条件と鹿目まどかが願うべきこと

 いよいよ今晩最終11話12話の放映ですね。読売新聞に一面広告を打つなどちょっとしたお祭りムードになっていますが、せっかくなので滑り込みで最後の考察をしてみたいと思います。10話のネタバレを多分に含むので未視聴の方はご注意を。

 第10話で暁美ほむらの動機が明らかにされましたが、それでは具体的にどうなれば彼女は目的を達成したことになるのかについて順を追って考えて見ます。

 まずは1周目。魔法少女になる前のほむらは、世界を守るために命を落としたまどかを前に「出会いをやり直したい。守られる私でなく、鹿目まどかを守る私になりたい」と願い、キュウべえと契約します。そうして得た能力が、時間の停止及び時間の巻き戻しですね。この巻き戻し能力は小出しにすることが出来ず、巻き戻すと必ずまどかとの出会いの直前に戻されてしまうところがポイントですね。

 2周目。魔法少女となり舞い上がったほむらはまどかに真っ直ぐにそのことを告白し、まどかと巴マミの3人で協力して魔女退治をするという至福の時を得ます。しかしその望んだ世界は、まどかの魔女化という結末をもって幕を閉じます。この段において「キュウべえに騙されていた」という認識に至ったのも興味深いですね。魔女化するまどかを横にキュウべえによるシステムのレクチャーが省略されているのかもしれません。

 3周目のほむらの願いはシンプルです。まどかたち魔法少女キュウべえの企みを伝えること。しかしこの段においては、企みを伝えた後に具体的にどう対処するのかということに考えが至っておらず、場当たりな対応を続けた結果、美樹さやかが魔女化、その事実を受け容れられない巴マミが暴走。そのマミを止めるためにまどかがマミを手にかけるという最悪の展開へと至ります。ここでほむらはまどかを励まし、共にワルプルギスの夜を倒そうと誓います。実はこの時点で「守られる私でなく守る私になりたい」というほむらの最初の願いは達成されていると考えられます。あとはワルプルギスの夜を倒し、静かな絶望に沈み込んでいくだけ…それが本来のキュウべえのシナリオだったのかもしれません。

 しかしここでほむらはまどかと新しい約束をすることでもう一度過去へと旅立つ決意をするんですね。まどかとの約束は二つ。「キュウべえに騙される前のバカな私を助けて」そして「魔女になりたくない」。この二つの約束を胸にほむらは4周目のループに挑みます。

 4周目の目的は「まどかの魔女化=魔法少女化」を阻止すること。そのためにほむらがしたのは、キュウべえ及び全ての魔女の殲滅。そしておそらくは…3周目ラストでまどかにしたように、全ての魔法少女を殲滅している可能性が高いのではないかと。ほむらの時間停止能力を持ってすれば他の魔法少女を出会った瞬間に葬り去ることはたやすく、またいずれ魔女化することが確定している彼女たちをほむらが放置する理由もないんですよね。魔女化するのを待って、その後で始末するのはリスキーですし、更に言えば残酷でしょう。魔女化したくないという願いはまどかだけでなく全ての魔法少女に共通する願いだと考えるのが自然に思います。

 しかしその結果もたらされた結末は、ワルプルギスの夜との戦いに苦戦している隙に、まどかを契約させてしまうというほむらにとっては最悪のものとなります。キュウべえは殺しても何度でも蘇る。この事実はこれだけで心が折れてもおかしくないくらい厳しい話です。なにしろワルプルギスの夜を倒して全ての魔女を殲滅してみたところで、まどかが契約を迫られる危機を避けることが出来ない。守り続けてもいずれ自分自身が魔女化してしまう。しかしそこに考えが至る前にほむらはもう一度過去へ戻ることを選ぶんですね。まどかを助けるまで何度でもやり直すことを誓って。

 5周目のほむらは、だから実は3周目と同じく具体的なプランが何もないまま挑んでるんですね。ワルプルギスの夜を倒すこと、まどかの魔法少女化を阻止することを頭に置きながら、時に他の魔法少女との強力を望み、あるいは彼女たちの力に頼って、迷いながら今を生きている。そこに具体的なゴールがないために、絶望をせずに済む代わりに、状況は悪くなっていく一方というのが、いまほむらがおかれている状況でしょう。

 結論から言えばほむらに勝ち目はない。まどかの魔法少女化を阻止するという当面の目標を固持する限り待っているのは悲劇のみです。そしてそれに気付いてしまえば、ほむらは絶望し魔女化するでしょう。この袋小路を打破する道はひとつしかないのではないかと考えます。それは目標を「魔法少女化の阻止」ではなく「魔女化の阻止」に後退させること。まどかの願いは「魔女になりくない」であって「魔法少女になりたくない」ではないのだからこれでも約束は守られるんですね。しかし魔法少女になったまどかの魔女化を阻止する能力はほむらにはありません。その能力を持ち得るのはまだキュウべえと契約していないまどか自身だけなんですね。

 だからまどかは「魔女になりたくない」と願って契約すべきなんじゃないかなと。もしこの願いが聞き届けられないのならどの道詰みです。救いはどこにもない。キュウべえという悪魔との契約が前提となるこの決断は困難を伴いますが、それを為すだけの材料は十分揃っているようにも思います。

 駆け足になりましたが、最終話放映前の予想として書き留めておきます。さてどうなるか楽しみですね。