「○○豚」と「ブヒる」の歴史再考
まず抑えておきたいポイントは、「○○豚」という罵倒表現は2ちゃんねる周辺でジャンルを問わず広く使用されている、ということですね。
「萌え」じゃなくて「ブヒる」!? ネット界隈に広がる新しい視点 - エキサイトニュース(1/4)
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近年アニメ実況関係でよく見かけるようになった「ブヒる」という表現についての興味深い歴史考察なのですが、両記事とも若干の短絡を感じたので自分の観測範囲から見えていたものを改めて調べて見ました。念のため、以下の文章もあくまで私の観測範囲内の情報を元にした推測であることに注意してください。
「○○豚」の歴史
冒頭でも触れましたが、「ブヒる」の前駆である「○○豚」という表現は特に萌えオタに対する蔑称として使用されていた訳ではなく、2ちゃんねる全域で広くカジュアルに使用されている表現なんですね。この語に関してはその出自まで含めて比較的はっきりと歴史を辿ることが出来ます。
2ちゃんねるでこの語が発祥したのは2ちゃんねる球界再編板「プロ野球の視聴率を語るスレ」(通称視スレ)と言われています。古くは2003年頃から使用例が見られますが、当初はサッカーファンによる野球ファンに対する罵倒語として発明されたんですね。
http://ja.uncyclopedia.info/wiki/%E7%84%BC%E3%81%8D%E8%B1%9A
これに反駁する形で野球ファンが「サカ豚」という語を用いだし、そのカジュアルな罵倒表現が他の板でも便利使いされ、2006年ころには2ちゃんねる全般で互いに○○豚と罵り合う光景が日常的な光景になっていたようです。例えば無料ネットゲーム関係のスレであれば「課金豚」「廃豚」、釣り板であれば「海豚」「河豚」と言った具合にとにかく適当に相手を見下したいときに手軽に用いられていたんですね。
それはアニメ関係のスレでも同様で、「萌え豚」以外にも「作豚」「声豚」「百合豚」「自演豚」「売り豚」「評価豚」と言った具合に誰も彼もが豚と化していたというのが2000年代後半の2ちゃんねるの日常だったのではないかと思われます。このあたりはあくまで観測範囲内で確認した限りですので2ちゃんねるを俯瞰的に研究されている方がいらっしゃれば是非意見をお聞きしたいですね。
慣用表現としての「ブヒ」の用法変化
また○○豚を扱き下ろす慣用表現として「豚がブヒブヒ言っている」「豚どもがブヒー鳴いている」といった慣用表現も広く2ちゃんねる一般で用いられていたようです。意味合いとしては、特に深く考えることもせずに同じ事ばかり繰り返しているといったところでしょうか。これに関してはアニメ関連のスレでは特に萌え豚に対してよく用いられていたという歴史はありそうです。2008年〜2009年ころにかけていわゆる萌えアニメという表現に変わって「ブヒアニメ」という表現が見られるようになります。主に対象にされたのは2008年夏に放映された「ストライクウィッチーズ」、そして2009年春に放映された「けいおん!」ですね。ただしまだこの頃は肯定的な用法ではなく、調べた範囲内では2009年6月頃までは否定的ニュアンスを込めて用いられていたようです。
以下、主な資料として2ちゃんねるの主要スレッドのアーカイブをされている2番街さんのキャッシュデータを参考にさせていただきました。
主な調査対象としたのはアニメサロン板の「新番組を評価するスレ」(通称評価スレ)。断片的にログを読む限り、2009年の秋期のアニメについて「今期のブヒれるアニメはどれよ?」といった形で、ブヒれるかどうかを評価の一軸とするコメントが散見されるようになります。有村さんの記事でも取り上げられていた「おはブヒィ」という表現もこのころから見られ、おそらく「とある科学の超電磁砲」の佐天涙子のAAと組み合わせた用法が出典なのではないかと思われます。
この後しばらく何度かの揺り戻しをしながら、2010年初頭には既にすっかり肯定的な表現として「ブヒる」「ブヒィ」が定着していた、というのが調べた限りでの印象ですね。評価スレは年間1000スレ以上を消費する高速スレなため定量的な調査は諦めましたが、どなたか興味のある方がいれば、社会学の研究テーマとして本格的に調査してみるのも面白いかも知れません。
「ブヒる」が急速に広まった理由
2ちゃんねる内では2010年の早い時期から流行していた「ブヒる」ですが、2ちゃんねる外にまで広く知れ渡るようになるのは「IS(インフィニットストラトス)」以降というのは衆目の一致するところでしょう。理由のひとつとしてはいわゆる2ちゃんまとめスレがその様子を面白おかしく伝えた為、というのはあるでしょう。
もう一つ重要な要素として、Twitterでハッシュタグを使って深夜アニメの実況をする文化というのが2010年夏頃から定着し、2ちゃんねるの実況板から移住してきた人が増えたためではないかと想像しています。この辺りは実証的なデータを取る余裕がなく、あくまで憶測ではありますが。
また、「ブヒィ」流行以前から一部アニメクラスタで好んで使われていた「クンカクンカ」や「ぺろぺろ」といった表現に比べて性的なニュアンスが幾分マイルドなため、初めてその表現に触れた人でも乗っかりやすかったというのも一因ではあるでしょうね。
クンカクンカとは (クンカクンカとは) [単語記事] - ニコニコ大百科
ぺろぺろとは (ペロペロとは) [単語記事] - ニコニコ大百科
以上、駆け足ではありますが、「ブヒる」が単純に自虐表現からの開き直りというだけではなく多層的な要因で発生した言葉なのではないかという分析をしてみました。より深い考察、洞察の一助にでもなれば。