ソーシャルゲームとコンテンツビジネス

 モバゲー「アイドルマスターシンデレラガールズ」の新キャラクターたちがオリジナル曲でCDデビューするということで話題を集めていますね。ソーシャルゲームキャラクターがCDデビューというのは初となるのかな?とはいえこれは今にはじまった動きではなく、昨年、コミック、小説、テレビドラマと展開した「怪盗ロワイヤル」、週刊少年マガジンで連載中の[ドラゴンコレクション」、また今春からTVアニメがスタートする「戦国コレクション」等、ソーシャルゲーム発のコンテンツというのは徐々にその数を増しつつあります。

 ところで、こう言った動きが進んでいる理由は何故なのでしょう?既に会員数1000万人を誇る怪盗ロワイヤルや会員数500万人のドラゴンコレクションといったタイトルがマルチメディア展開をしたところでその効果は軽微です。コンテンツ単体の売上を見ても今のところ大成功と言えるような例は出ていません。しかし、単純に売上につながる効果以上の意味が、これらの展開にはあると、私は考えています。

それは「ソーシャルゲームは後に何も残らないという批判に答えるため」なのではないかと。

 よく批判されているように、ソーシャルゲームはネットワークサービスである以上、サービスが停止してしまえば再び遊ぶことは出来ません。とはいえ、それがソーシャルゲームにとって致命的な欠点かというと、そうは思わないんですね。そもそも、昔遊んだゲームをもう一度という需要はもともと大きくはありません。いったい今昔遊んだファミコンゲームを今も手元に残している人がどれほどいるでしょう?また、ある種のアーケードゲーム等は物理的にもう二度と遊ぶことが出来ないものも多々あります。コンピュータゲームから離れても、例えば膨大な金額を費やしたトレーディングカードゲーム等も、手元にカードこそ残れどもブームが去った後で遊び相手を見つけることは至難でしょう。

 一方で、もう二度と遊ぶことがないようなゲームでも、そのゲームの動画やBGMを見聞きしたり、1枚のカードが手元にあるだけで、その時の思い出というのは鮮明に蘇ります。それをきっかけに思い出話に華が咲くこともあるでしょう。

 つまり、大事なのは「いつまでも遊べること」ではないんです。その時楽しく遊んだという記憶を引き出す「思い出のトリガー」となるものさえあればいい。そういったものさえあれば、たとえサービスが終了しても「何も残らない」ということはない。ソーシャルゲーム発のコンテンツにはそういった意味付けができるのではないかと。

 一方で最近は、既に有名なコンテンツを題材にしたソーシャルゲームも増えており、例えばモバゲー「ワンピースグランドコレクション」はサービス開始から4日間で100万人を集めるなど、集客面で絶大な効果を発揮しています。

 しかしこうした原作付きゲームは、それこそ本当に「後に何も残らない」んですね。思い出のトリガーとしての作品は、それこそ作品そのものの記憶と結びついて、ソーシャルゲームの記憶とは結びつかない。特に版権を得たものの売上が上がらず短期間でサービス終了してしまったものなどは、無駄にお金を使わされてしまったという負の感情だけが残るということも少なくありません。

 これは、作品にとっても、ソーシャルゲーム提供者にとっても、不幸な状況に思えます。キャラクター版権もののゲームがクソゲー化するのは世の常とはいえ、何も好き好んで繰り返していい歴史でもない。そういったことを考えていて思いついたのが、ソーシャルゲームのアイテムにコンテンツをオマケとしてつける」というアイデアです。

ガチャのオマケにマンガを付けるというアイデア

 ソーシャルゲームの課金方法としてもっとも高収益かつ、もっとも悪名の高いものにガチャがあります。ランダムに手に入るカード等のゲーム内アイテムを求めて、1回300円もするガチャを何十、何百回と回す人達がいる。後に何にも残らないデータに大金を投じるなんて…と眉をひそめる声は後を絶ちません。では、このガチャにちゃんと形として残るデジタルコンテンツをオマケとしてつけたらどうでしょう?

 このアイデアを最初に思いついたのはモバゲー「スラムダンク」を遊んでいた時なのですが、例えば1回300円のガチャに20ページのマンガをオマケとしてつける。マンガ1話300円!ですが、何もついてなくても300円で売れるガチャなんですから、支払う人は問題なく支払う。ここから作家の取り分をどうするか、ということですが、従来のコミックの相場通り印税1割でも30円原価が上乗せされるだけですからソーシャルゲーム運営側の視点で見てもそれほど過大な負担がかかるわけではない。ちなみにコミックを1話単位で販売している「集英社マンガカプセル」では1話あたり30円で販売していますので、コンテンツ配信に中間業者を置いても費用はさほど変わらないでしょう。

 マンガに限らず、例えばアイドルマスターのようなタイトルであれば、オマケに楽曲の着うたダウンロード権をつけてもいい。コミックよりは原価が高くなってしまいますが、例えば5回セットガチャに1曲みたいな形にすれば原価率としてはさほど変わらなくなる。

 たったこれだけのことでソーシャルゲームに対する「何も残らない」「焼畑農業ビジネス」といった声はグッと小さくなるのではないかと。少なくとも、今これを実際に実現すれば、それだけで大きな宣伝材料になることは間違いありません。

 そして何より、これは作品を提供する原作者のメリットが非常に大きい。現状ソーシャルゲームの版権は買い切りの形が多いと思われますが、印税形式になればゲームが続く限り継続的な収入を得ることが出来る。また、いままで作品が届かなかった層にまでリーチ出来る可能性も十分にある。

 それだけでなく、恒常的な値下げ圧力がかかっているコンテンツの販売価格を引き上げる効果も狙えるのではないかとも考えます。ガチャ1回とあわせて300円で売っているものが、マンガカプセルで直接買えば30円で買えるとなればグッと割安に感じる。ガチャの持つ「購入の心理抵抗を下げる効果」がコンテンツ販売にも波及すれば「ネット上のものはタダになる」といった馬鹿げた言説に対していいカウンターになる。そういった効果も期待できるんじゃないかと。

 負の側面ばかりが注目されがちなソーシャルゲームソーシャルゲームのガチャですが、この不景気の時代に多くの人達が喜んでお金を使っている仕組みをもっと有効に様々な分野で活用してもらえれば、などと考えながら、今日もケータイをポチポチといじっています。