ソーシャルゲームガチャはパチンコよりも射幸性が高いのか?

http://blogos.com/article/33428/
いろいろと突っ込みどころ満載のこちらの記事ですが、とりあえずこの一文について。

ところが、現在のソーシャルゲームはこの数値以上にはるかに高い射幸心の範囲を設定できてしまう。そのため、RMT行為を通じて、換金できる状態は、パチンコ以上の違法状態と認定されてしまう可能性があるのだ。

 あくまで「設定できてしまう」という可能性の指摘ですので、まあ、できてしまうかもなーと言うことはできますが、果たして本当にソーシャルゲームのガチャはそれほどまでに射幸性が高いのか。実例がないのでこの記事だけではなんとも判断のしようがありませんね。そこで人気のソーシャルゲームであるアイドルマスターシンデレラガールズで、特に射幸性が高いとされるコンプガチャ景品となった「SR双葉杏」を例にとってパチンコと比較を行なってみようと思います。

 まずパチンコについて。BLOGOSの記事で引用されているものをそのまま用います。

・大当たり確率の下限は1/400。また、異なる確率を採用する場合、2種類までの確率(低確率と高確率)を採用できる。
・1回の確率変動で獲得できる平均出玉は8000個以下。
・総出玉のうち、役物による出玉(役物比率)が60%以下。
・打ち込み6000個(1時間)の出玉率の上限は300%、打ち込み60000個(10時間)での出玉率の上限が200%、下限が50%。

 出玉率上限200%というのは、10時間で6万発、4円パチンコなら24万円投資すると、最大48万円、最小12万円になる、という意味合いですね。また1回の確率変動で獲得できる平均出玉というのは、運が良ければ1000円くらいで8000発(等価交換なら3万2000円、2.5円なら2万円)程度のリターンが期待できるということです。

 さてSR双葉杏ですが、検索してみたところYahooオークションではおおよそ2万円程度の値が付いているようです。シンデレラガールズのカードとしては最も高価な部類ですね。コンプガチャは指定された6枚のカードを揃える必要がありますから最小の投入金額は6連ガチャの1500円。もっとも幸運なケースなら1500円で2万円相当のカードが手に入るという寸法です。少なくとも最も幸運なケースを比べた場合、パチンコと比べて「はるかに高い」ようには見えません

 次に24万円投入した場合の戻り率を検討してみましょう。これについては以前お遊びで作成したコンプガチャシミュレーターの数字を使ってみます。実際よりも若干甘めと言われていますが、傾向としてはそんなに外していないかと。

http://www.ani-ban.info/aimas/comp_sim/syuukei.php

 あくまで仮想の数字ではありますが、1枚手に入れる為にかかった金額を1000回分取ってあります。これで24万円で48万円=24枚の双葉杏を手に入れるケースがあるかどうか、ですね。ということで生ログから連続した24回でかかった最小値を取得してみたところ…53万1000円。なんと1000回の試行中最も幸運なケースでも、100%を割り込むんですね。ちなみに最も不運なケースを調べたところ、112万3500円となっていました。戻り率42%ですね。実際には2枚目はコンプ対象のダブりカードがあるのでもう少し期待値は高い可能性はありますが、そもそも平均戻り率が56%と、95〜100%程度の戻り率のあるパチンコと違って最初から収支が当てにできるレベルにはなってないんです。これはより射幸性が高いと言われるドリランドのコンプガチャであっても同様でしょう。

RMTとガチャは関係がない

 そもそも、ゲーム内で平均3万円以上かけないと手に入らないものがどうしてオークションで2万円程度で売られているのか。複製品?そういうケースもあるとは思いますが、実はどのゲームでもゲーム内アイテムのRMT市場での相場は、ゲーム内で正規の手段で手に入れる場合と比べて5割〜6割程度の価格が設定されているんですね。この全てが複製品であるとは考え難い。また、こうしたRMTの対象にされるタイトルというのは必ずしもガチャないしそれに準ずるシステムを備えているわけでもないんです。

 例えば誰もが知る有名タイトルである「怪盗ロワイヤル」にはガチャに相当するシステムはありませんがRMTでのアイテム売買は盛んに行われています。古に遡ってFF11ラグナロクオンラインRMTを考えてみても、当時はガチャに相当するような機能はなかったはずです。仮にガチャがRMTを加速させているという論拠があるのならば話は別ですが、そういった論拠のないままその2つを強引に結びつけている時点で元記事はバランスを欠いていると言わざるを得ない。

 これは私見ですが、RMTの源泉はゲーム内で無償配布される有料アイテムと、ゲーム引退者の存在にあると考えています。多くのタイトルでは通常100円程度で売られている回復剤等のアイテムを事あるごとにサービスとしてユーザーに無償で配っています。こうしたアイテムがゲーム内に滞留することで、ゲーム内アイテムの価値は実際のレートに比べて徐々に薄まっていく。これを加速させるのがゲーム引退者の存在です。ゲームの引退を決めたユーザーにとってゲーム内資産の価値はゼロです。そのため無償で知人に配ったり、他のゲームのアイテムと交換したり、あるいはゲーム内レートよりも大幅に安い値段でRMTを試みたりするんですね。特に組織的にRMTをやっている業者等は、そういったダンピングされたアイテムを集約して公式よりも安い値段で売ることで利ざやを抜いて儲けているんです。

 公式の言い値でギャンブル的な気分でガチャを回して儲けを出すというのは不可能とは言わないものの圧倒的に割が合わない。少なくともそういった動機でガチャを回す人というのを私は一人として知りません。

RMT業者とゲーム運営者は敵対関係にある

 記事中、パチンコの3店方式を例に出して、あたかもゲーム運営会社とRMT業者が相補的な関係にあるような印象を抱かせる記述がありますが、これもまったくナンセンスとしかいいようがない。ゲーム運営会社にとってRMT業者は、本来自分たちが受け取るべき対価を抜き取る商売敵、例えて言うなら書店に対する新古書店のような存在なんです。その是非はさておき、RMT業者がいるからユーザーがガチャを回してくれると考えるゲーム運営者は誰もいないでしょう。ユーザー同士のアイテムの交換はゲームを面白くする一要素ですが、こうした業者の介入を嫌ってトレード機能をあえてつけない人気タイトルも少なくありません。ランキングで名前が上がる範囲でも、GREEドラゴンリーグビックリマンというタイトルはアイテムのトレード機能をつけずにしっかりと収益を上げている例と言えますね。

 RMTもガチャも社会的に様々な問題を抱えていることは間違いありません。特に、錯誤や優良誤認を引き起こしやすいコンプガチャのような仕組みは景品表示法上問題になってくる可能性は非常に高いと思っています。

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 しかしそれはあくまで個別の問題であって、一口にガチャと言ってもごく常識的な範囲で運用されているものも多数あるわけです。それはRMTも同様で、それぞれ直接的な因果関係のない、個別に解決すべき問題なんです。それを「賭博に似ている」という印象に基づいた推論で無理やり結びつけ危機感を煽ることに強い違和感を感じざるを得ません。

 繰り返しますが、ガチャもRMTも個別に問題はある。しかしそれは個別に解決すべき問題なんです。

追記

いくつかコメントで意見を頂いたので付記を。

id:tatsunop 換金性や高い金額そのものは射幸性の高さに起因する結果だから、ずれてる感じ。当たりの確率の低さと大金を出させる仕組みそのものが「射幸心を煽る」代物。ギャンブルとしての割りの悪さは無関係。

 ここではコンプガチャに限定しますが、コンプガチャが射幸心を煽る仕組みを持っていることは疑いようのない事実かとは思います。買うたびに少しずつ当たりに近づいていくというのが確率の錯誤を引き起こしやすく、想定されるボリュームゾーンを大きくかけ離れた金額を投入するハメになるのは非常に悪質な仕組みだと言わざるを得ません。しかしそれは仕組みそのものの問題で、パチンコと比較してどうこうという話ではないんですよね。元記事にあわせて、パチンコと同様の規制をした場合何か変わるのかという検証をしたまでで、数値による規制が射幸心を下げる効果は疑わしい(むしろパチンコの場合数値による規制が射幸心を煽っている部分もある)と思っています。

id:grizzly1 RMTが儲からないのは判ったけど、パチンコも全然割りに合わないと思うんだけど。まあ割に合うギャンブルなんて俺は知らない。

ここは重要なポイントなので要点をハッキリ言うと「ガチャはRMTインセンティブにならない」ということです。少なくとも組織的なRMT業者は有料ガチャを回すようなことは決してしないと断言してもいい。個人同士のやり取りであればそれはお互いにコレクションアイテムに価値を見出した上での取引なのでそもそもなんら問題はないんです。RMTの問題は、ゲーム内で価値を持つアイテムを公式が提示する価格よりも廉価に入手する方法があり、その転売によって利ざやが出るために大規模化すればするほど儲けが大きくなるということなんです。これはガチャシステムとはまったく無関係に発生する固有の問題で、元記事ではそれを意図してか意図せずか混同しているんですね。

 もしも有料ガチャをアイテムの仕入先とした場合、大規模化すればするほど確率的に収斂していきますから、RMT市場での販売価格も公式のそれに近づいていき、買い手側の需要も消滅してしまいます。そもそもガチャを含むアイテムの有料販売はRMTに対抗する意味合いが強く、それは一時功を奏していたようにも思いますが、市場がかつてのMMORPGとは比べ物にならないほど巨大化しRMT業者が適応してしまって現在に至っているという印象ですね。