私考・RMTの歴史

 前回の記事の続きというわけでもないのですが、ネット上でまとまった記事を見つけられなかったので自分なりに理解している範囲でRMTの歴史について少しまとめてみようかと思います。あくまで私見であり、見落とし、勘違いも多々あるかと思いますので突っ込みよろしくお願いします。

RMT黎明期

 このあたりは通説ありますのでざっくりと行きますが、RMTという行為自体はDiabloUltimaOnlineといったネットワークRPGの黎明期からずっとあるものです。この手のゲームでは効率良くゲーム内リソースを得るために膨大な手間と時間を単純作業に費やさなければならないため、その手間隙をお金で買いたいというユーザーが自然に発生し、当初はゲーム運営会社もそれを特別問題視することなくネットゲームの文化のひとつとして広まっていったように思います。

RMT拡大期

 ただし、このやり取りがユーザー個人間で行われているうちはよかったのですが、お金の流れのあるところには必ずそれを業にする人達が現れます。RMT業者の誕生ですね。個人間の取引では詐欺等のトラブルのリスクも大きく、安全を買う意味でも業者による仲介が規模を増していきます。

 そうした中、アルバイトとして中国人等を安い人件費で雇い、ひたすらゲーム内で高効率でアイテムを回収することで儲けを出す自己生産業者と呼ばれる人達が現れます。2000年代前半にリネージュFF11ラグナロクオンラインといった人気ゲームを遊んだ経験のある人は、中華と呼ばれる他のプレイヤーと一切コミュニケーションせずにひたすら作業に没頭するアカウントを目撃したことは多いのではないでしょうか。

 こうした自己生産業者はやがてより高効率を求め、自動巡回BOTやバグを利用したアイテム増殖、果ては不定アクセスによるアイテムの取得にまで発展しゲームを破壊し始めます。多くのプレイヤーがこうした状況に嫌気を指していた中、ラグナロクオンラインで社員が自社アカウントを使ってアイテムを不正取得、RMT業者に横流しするという事件が発生し、RMTに対する嫌悪感は頂点に達します。

RMT衰退期

 時を前後して各ゲームがRMTの全面禁止を強く打ち出し、不正アカウントの取締りを強化したこともあり、自己生産業者自体は下火になっていったと思われます。といっても、従来からあるユーザーからの買取を基本とした仲介業者は今も細々と生き残っていますね。一時期に比べてMMORPGでのRMTが話題にならなくなったのは各運営会社の努力も大きいとは思いますが、もうひとつ決定的だったのは、ネットゲームの中心が基本無料アイテム販売型に変わっていったということも大きいと考えています。

 基本無料アイテム販売型のゲームというのは、言わば公式によるRMTと言えます。先述のラグナロクオンラインの事件では一社員が不正にアイテムを生産、横流ししていたことで問題になりましたが、これを公にゲーム内の窓口から販売してしまえばもはやRMT業者の出る幕はありません。RMT業者の役割は公式販売で売られていないアイテムの売買に限られ、次第にその規模を小さくしていったことは想像に難くありません。事実として2006年ころを境にネット上でRMTの話題が大きく取り上げられることはほとんどなくなっていきます。

ソーシャルゲームRMT

 さて、ここからが私論です。私は、ソーシャルゲームRMTは上記のMMORPGにおけるRMTとはまったく違う文脈から発展していったものだと考えています。ソーシャルゲームは最初から基本無料アイテム販売型のゲームとして発展したこともあり、従来のRMT業者の介入する余地はほとんどなかったのではないかと考えます。実際ネット上で今もサービスを続けているRMT業者を見ても、MMORPGソーシャルゲームの両方を扱っているサイトは皆無と言っていい。では、いったいどのように発展していったのか。

 ソーシャルゲームにおけるRMTが大きく注目を集め始めたのはやはり怪盗ロワイヤルの出現以降です。怪盗ロワイヤルでは有用なアイテムは公式から販売されているため、個人間で売買するメリットは本来薄い。そうした中、重課金者がゲームを引退する際に不要となったアイテムを廉価で販売し始めたんですね。主な舞台となったのはYahooオークション。これも従来のMMORPGRMTとは文脈を異にします。引退者にとってはゲームを離れてしまえばゲーム内アイテムの価値はゼロです。そのため公式での販売価格の5割以下という非常にお買い得な価格が設定されそれを別のユーザーが買うというサイクルが生まれ始めたんですね。

 お金のやりとりがあるところには必ず業者が誕生するということで、この売り手と買い手を仲介することで利益を出すものが現れてきます。これがソーシャルゲームにおけるRMT業者ですね。ゲームを継続しているプレイヤーからではなく引退するプレイヤーからの買取ですので手間は多いですが、ソーシャルゲームはユーザーの回転が早く、またその市場規模がMMORPGと比べてケタ違いであったため十分業として成立する下地が存在したということもあるとは思います。

カードバトルRPGRMT

 怪盗ロワイヤルの登場によって下地が出来たところに登場したのが、ドラゴンコレクション、探検ドリランドに代表されるカードバトルRPGです。今ソーシャルゲームにおけるRMTの中心舞台となっているのはこのジャンルと言って差し支えないでしょう。カードバトルRPGが怪盗ロワイヤルと文脈を異にするのは、ガチャ等のシステムによって初心者であっても価値の高いアイテムを偶然手に入れることが出来る、ということです。基本的に引退者から買取するしかなかった怪盗ロワイヤルと違い、ゲームを継続して遊んでいるプレイヤーから買取ができる分市場規模が更に大きくなったと言うことでしょう。

 ただし、この業者による買取はMMORPGにおける買取と決定的に違う部分がひとつあります。それは、MMORPGにおいては業者は現金でユーザーから買い付けていたのに対し、ソーシャルゲームにおいては、業者はゲーム内の別のアイテムとの交換という形でアイテムを集約しているという点です。特に異種間ゲームでのアイテムの取引において、各ゲームでのアイテムの需要の差を利用してその差分でアイテムを増やしている人達というのがかなりの数存在します。こうして集積されたアイテムの一部がRMTの商品として提供されているんですね。

 ここまでであれば、まだ比較的穏当な話ではあります。しかしこれも歴史は繰り返すという通り、業者の行為は限りなく違法な方向へ加速していきます。そのひとつは今ソーシャルゲーム中で最大のトラブルになっている詐欺トレードと呼ばれるものです。これはゲーム内でのトレードに慣れていない初心者を狙い打つことで、アイテムを受け取って相手には返さない、あるいはゲーム内での価値がまったく不釣り合いなアイテムと交換させることで一方的に利益を得る行為です。現在横行しているこういった行為の背後にRMT業者が存在することは想像に難くありません。

 そこから更に一歩踏み込んで違法に近づいたのが、先般話題になったアイテムの複製事件ですね。このあたりはまったくMMORPGにおけるRMTの歴史の引き写しと言って良いかと思われます。従来型のネットゲームに比べて元々RMTに強い構造をしていただけに対応が後手後手に回ったということもあるかとは思います。

 おそらく今後はこういった不正行為者の取締は厳しくはなっていくとは思いますが、問題は基本無料故にアカウントの取得が非常に容易であるということですね。特にユーザー保護の観点から、今後どのような対応策が取られていくのか注目していこうと思っています。