ソーシャルゲームのRMT対策を改めて考える

 前回の記事で国内におけるRMTの変遷について軽くまとめてみましたが、それを踏まえてソーシャルゲーム上のRMTの問題点およびその具体的対策について検討してみたいと思います。

 まず改めてRMTの発生のメカニズムについてまとめてみます。

  1. RMTは時間と引き換えに無料で手に入る交換可能なアイテムの存在によって引き起こされる
  2. 運営会社によって無償で配布されるアイテムおよびゲーム引退者が残置するアイテムによってRMTは加速される
  3. 一度RMTが定着すると、より高効率にアイテムを収集するため他のプレイヤーの通常のプレイを阻害する破壊的RMT業者が横行し始める

 以上がネットゲーム上でRMTが問題として表面化するメカニズムであると私は理解しています。それを踏まえたうえでソーシャルゲームで悪質なRMT行為に対抗するにはどうしたらよいか改めて考えて見ましょう。

トレードの禁止

 まずはもっとも根本的かつ消極的なRMT対策です。ユーザー間でのアイテムの取引を禁止してしまえばRMTはそもそも成立しないわけですね。乱暴なと思われるかもしれませんが、実際人気タイトルでも最初からユーザー間のアイテムの取引機能を備えていないものはいくつもあります。代表的なところで言うとモバゲーの「ファイナルファンタジーブリゲイド」、GREEの「ビックリマン」「ドラゴンリーグ」といったタイトルは主要なアイテムをユーザー間で取引することは出来ません。ユーザー間での取引はゲームを面白くする一要素であることは間違いないのですが、今後RMTの問題が今以上に深刻になればこの方向に舵を切るタイトルは増えていくものと思われます。

アイテムの販売価格を下げる

 ではトレードの禁止以外で有効な対策方法はないのか、ということで次に考えられるのは「アイテム販売価格の大幅な値下げ」ですね。極端な話をすればRMT業者が販売する価格と同等かそれ以下で商品を提供してしまえばユーザーはわざわざリスクのあるRMTに手を出す動機はなくなるわけです。RMT業者も仕入れに一定のコストがかかっている以上、ある程度以上の値下げをされてしまえば利益を出すことがかなわず撤退せざるを得ません。

 とはいえこれはRMT業者にダメージを与えるという意味ではもっとも強力な手段ですが諸刃の剣でもあります。仮に全アイテムを半額にしてその時に存在するRMT業者を壊滅に追いやったとしても、新しい価格を前提としたRMT業者が出てきていたちごっこになることは想像に難くなく、この方法がとれるのは売り上げに明らかな影響が出るほどRMT業者が横行し始めたときくらいでしょうか。

 現状でも定期的なアイテムの安売りバーゲンセールを行っているタイトルは数多くありますが、セール後に元の価格に戻ることを考えるとRMT対策としてはむしろ逆効果になっている側面もあり扱いの難しいところですね。

無償アイテムの配布をやめる

 もうひとつの抜本的対策法は「有償アイテムと交換可能な価値のあるアイテムの無償配布をやめる」ことです。これはいわばドラゴンコレクション以前のソーシャルゲームのあり方に立ち戻るやり方と言えますね。基本無料を謳いながら有料アイテムを買わなければゲームの進行がままならないというのは強く批判の対象とされてきましたが、ことRMT対策ということだけを考えればとても有効な手段であると言わざるを得ません。

 とはいえこれも同業他社のサービスとの競争力を考えれば実行に移すのは困難でしょう。今現在のソーシャルゲームは有料アイテムと同等の効力のアイテムを無償で配布して初心者にも快適に遊んでもらい、効力を実感してもらった上で更に有料アイテムを買ってもらうというモデルが主流になっているからです。

ユーザー間の健全なトレードを促進する

 以上はRMT業者を壊滅させるための抜本的な手段を上げてきましたが、ここから先はそれが一定以上の困難を伴うことを前提とした上でもう少し実際的な対策方法について検討していきたいと思います。

 前回の記事でも触れましたが、悪質なRMT業者にとって、主に初心者プレイヤーをターゲットにした詐欺トレードや不当な交換レートによるトレードが大きな収入源となっており、こうしたゲームを破壊する行為の横行がソーシャルゲームユーザーの間で今最も問題視されています。ゲーム運営会社の多くはユーザー間のトラブルには一切関知しないという態度をとっており、ユーザーの不満は日々強くなっているというのが現状です。

 こうしたトラブルについて運営が直接仲裁に入ると言うのは困難が伴いますが、システムの援用と各種の啓蒙活動によってこういったトラブルを未然に防ぎ、ユーザー間の健全な取引を促進することは遠回りではありますが確実にRMT業者にダメージを与える方策のひとつであると考えます。

 例えばモバゲー「神撃のバハムート」で採用されているバザー機能は、他のプレイヤーの出品価格を一覧することが出来、通常のトレードに比べて度をはずして不利なレートで取引する危険性は大きく下げられています。こういった取り組みを更に発展させていき初心者であってもゲーム内での正当なレートを把握しやすく安全性の高い取引が活発になれば外部サイトを利用したトレードと言うのは下火になっていくでしょう。

引退プレイヤーの残置アイテムの価値を保証する

 初心者プレイヤーを狙い撃ちした詐欺トレードと並んでRMT業者の大きな収益源となっているのがゲーム引退者が残置したアイテムの安値での買い取りです。ゲームを完全に引退する決意をしたプレイヤーにとってゲーム内に残されたアイテムと言うのはそれ以前にどれだけ大金を投じていようと価値はゼロとなります。こうしたプレイヤーの「少しでも投じた金銭を取り戻したい」という心理を狙って安値での取引を持ちかける業者というのもまた多く存在します。

 この流通ルートをどう潰すのか、と言うことですが、現状ゲーム引退者といっても、その多くはモバゲーまたはGREEというサービスを完全に断つというよりも、あるゲームに飽きて他のゲームへと移動するケースのほうが多いと理解しています。

 もしそうであれば、アイテムの価値保証をするのに必ずしも現金に戻す必要はなく、他のゲームのアイテムへ安全に交換出来ればそれでよいと言うことになります。実際、ユーザー間およびユーザーと買取業者を介した異種ゲーム間でのアイテム取引というのも盛んに行われており、またこの異種トレードは先述した詐欺トレードの温床ともなっています。この異種ゲーム間トレードを公式にサポートすることが、RMTインセンティブを下げる上で大きな効果があるのではないかと私は考えています。

 異種ゲーム間での取引は収益構造に関わる部分も大きく実現は簡単ではないと思われますが、このままRMT市場が巨大化していけばいずれ外部業者による異種ゲーム間トレードサービスが出現することはほぼ間違いなく、それ以前になんらかの対抗措置を取るのが長期的にみて健全かつ実利的かと考えます。まずは運営会社が同じタイトル同士でのアイテムの交換等が実現することを望みます。

不正プレイヤーの取り締まり強化

 最後にもっとも常識的な対策についても触れておきましょう。RMTが業として成立するようになると先にあげた詐欺トレード等の迷惑行為の他に、自動巡回BOTによるゲーム内リソースの高速回収や仕様上の不備を突いたアイテムの不正取得という、ゲーム全体に影響する破壊的行為を行う業者が横行し始めます。こういった行為に対する毅然とした態度を取ることはRMTの問題を度外視してもユーザー保護の観点からみて強く推し進められるべきなのは言うまでもありません。

 とはいえ、これについては先日の「探検!ドリランド」で発覚したアイテム複製問題を機に言わずとも強化されるものと信じています。RMTはユーザー間でのアイテム取引要素のあるゲームでは必ず発生するものですが、重要なのは現金との取引を完全に撲滅することではなく、それが業として成立してしまうことを防ぐことだと言うことを念頭において、今後の対策が取られることを祈っています。