音楽のオンライン販売だけで年収2万ドルを得るために必要なこと
もともとGIGAZINEのいい加減な記事への当てつけだけで書いたので細部は詰めてなかったのですが、いくつかツッコミが入ったので改めて考えてみましょう。
まず前提から。月収いくらというのは楽曲制作の実態に合っていないのでこれを年収で考え直します。最低賃金1160ドルというボーダーも生計を立てるには心許ないので、年収2万ドル(月収1666ドル)を目安にしてみます。
音楽配信の方法はいくつかありますが、やはりCD
babyに委託するのが手間とリスクを考えて現実的な選択ですのでそれ1本で考えましょう。
さて、オンライン配信でアルバムを年に1枚、9.99ドルでリリースすると仮定します。主な販路はiTunesを想定します。前述した通り、CD Babyを通してiTunesで販売した時の利益率は57.33%。1枚あたり5.73ドルの利益ですね。これで目標額に手数料55ドルを足した2万55ドルを割るとジャスト3500になります。アルバムで3500枚売れば晴れて年収2万ドルとなる。これは言い替えれば年に10ドル払ってくれるファンが3500人いれば職業として成り立つということです。
もちろんこれは作詞作曲から音入れまで全部一人でこなす宅録ミュージシャンのような場合の話で、バンドを組んだりした場合はまた条件は大きく異なってきます。とはいえ、ネットを中心に活躍するアマチュアミュージシャンが3500人程度の熱心なファンを集めるというのは決して夢物語ではない十分ありえる話ですね。さらに言えば、例えばまつきあゆむさんのように、より小さなコミュニティであっても直接のやり取りをすることで音楽家として生きていけるということも証明されつつありますね。
もちろん誰しもが職業ミュージシャンになれるわけではないのは当たり前で、趣味として、副業として音楽をやっている人のほうが圧倒的多数なのは今も昔も変わることのない話です。ただし、ネットによって、誰でもが低いリスクで、自分の価値を世に問うことが出来るようになったのは間違いのない事実でしょう。その一点だけもってしても、ネットは音楽家にとって福音であると言い切ってしまってもよいと思いますね。
オンライン販売だけでアーティストは生活できる
これはひどい。
と、とりあえず枕言葉を置いた上で。既にブックマークコメント等で指摘されまくってますが、元データの引用が恣意的すぎて明らかに読者を誤解させるような記述をしていますね。いつものGIGAZINEクオリティとスルーしたいところですが、真に受けている人もいるようなのであえて突っ込んでおこうと思います。
こちらが元データですね。まず基準になっているのが、$9.99でCDアルバムを手売りした場合。プレス費用を$1.9と概算して、143枚売ればアメリカでの最低賃金に届く。ここは問題ないですね。
GIGAZINEの記事ではこの次に商業CD(印税1割の契約)のデータが来るわけですが、元データではこの間にいくつも項目があります。ひとつひとつ見ていきましょう。
- CD Baby アルバムダウンロード 155回
2番目に来るのがこれですね。上記のアルバムと同内容のものを同額で販売代行サービスのCD Babyに委託した場合です。CD Babyは自前の音楽配信サービスの他、iTunesやその他メジャーな音楽配信サービスに自動的に登録してくれる音楽委託販売の定番サービスなのですが、この数字はCD Babyのサイトから直接売れた場合の数字ですね。利益率は実に75%。手売りとほとんど変わりません。とはいえ委託料がアルバム1タイトルにつき$55かかりますので実際はもう少しだけかかります。+7枚で162回でOKですね。
続くのがこの数字。これは一般的な音楽レーベルを通してituneで販売した場合でしょうね。アーティストの取り分はぐっと減って販売価格の9.45%となっています。もちろんレーベルを通して販売すればプロモーションをかけてもらえるわけですから一概には比較できませんが、商業CDとして売る場合と大差のない話ですね。
- 商業CDアルバム(高ロイヤリティ) 1161枚
これがGIGAGINEが2番目に引用しているデータ。印税率1割で契約できるなら、オンライン配信よりもメリットはあるかもしれませんね。
- CD Baby MP3ダウンロード 1562回
ここがポイント。ですね。CD Babyを通して1曲単位で販売した場合、わずか1562回で商業CDアルバムを1161枚売った場合と互角になります。さて、どちらのほうが現実的でしょう。
- CD Babyを通じてiTunesで MP3ダウンロード 2044回
これはCD Babyに委託してiTunesで1曲単位で売れた場合の数字ですね。CD Babyのサイトから販売した場合に比べると若干利益率が落ちますがそれでも57.33%と、レーベルを通して販売するよりもずっと高収益です。
- 商業CDシングル(高ロイヤリティ) 2325枚
- 商業CDアルバム(低ロイヤリティ) 3871枚
- 商業CDシングル(低ロイヤリティ) 7749枚
これは同じように商業CDとしてシングル販売した場合、などですね。日本の最近のオリコンチャートを見るに、はたしてこの数字にどれだけ現実味があるか疑問ですね。ところでここで低ロイヤリティ(3%)という契約が出てくるのですが、この違いが何からくるのかはちょっと把握出来ていないです。低ロイヤリティ契約だと更にハードルは上がりますね。どちらが一般的なのかはちょっと知りたいところ。
GIGAGINEが3番目に引用しているデータ。一般的な音楽レーベルを通してAmazonあるいはiTunesで1曲単位で販売した場合の数字です。レーベルを通すと大変だなあとしみじみと思いますね。
- Rhapsody(個人) ストリーミング 127473回
- Last Fm(オンデマンド) ストリーミング 1546667回
- Rhapsody(レーベル所属)ストリーミング 849817回
- LastFm(購読ラジオ) ストリーミング 2000000回
- Last Fm(無料ラジオ) ストリーミング 2274510回
- Spotify ストリーミング 4549020回
さて、ここも意図的に説明を省いているとしか思えないのですが、これらのストリーミングサービスは基本的に無料で、曲を1曲1曲売る話ではないですね。ストリーミングラジオで、あるいは視聴者のリクエストで呼び出された回数に応じてこれだけのフィーを支払いますよ、という話ですね。「何曲売れば」という話とは根本的にかけ離れています。例えばこれらのサービスに100曲提供しているアーティストがいて、それぞれが1000回くらい流されればそれだけで最低賃金に到達です。もちろん1人のアーティストの曲がそんな回数をかけられる可能性はゼロですが(×視聴者数なので可能性はゼロではないですね。)、多少なりとも収益が上がるなら悪い話ではないですね。ちなみに元データを見ると作詞作曲両方やっていた場合というデータもあるのですが、その場合はLast Fmだとぐっとフィーが上がるのが面白いですね。
ちなみにデータの元になった英語の記事もあるようです。GIGAGINEのデータと読み比べてみると面白いかも知れませんね。