ニコニコ動画ZeroWatchプレイヤーの正しい使い方
5月1日にプレミアム会員限定で公開され、激しい非難を浴びているニコニコ動画の新動画プレイヤー「ZeroWatch」。とりあえずもっとも大きな問題だったコメント入力欄の位置と動画説明文については担当開発者の休暇前に応急処置的な改善がなされてほっと胸を撫で下ろしています。きっと休み明けから本格的な改修に入ってくれることでしょう。
とはいえ、もっとも大きな問題点が解消されたものの、このZeroPlayerは従来のニコニコ動画プレイヤーとはまったく異なる設計思想で作られており、それが多くの困惑を生んでいるように思います。そこでいったいこの新プレイヤーはユーザーのどういった使用を想定しているのか、その想定に基づいた場合どうすれば今よりも使いよくなるのかについて、私論ながら分析してみたいと思います。
http://www.nicovideo.jp/zero
http://blog.nicovideo.jp/2012/05/zerowatch_2.php
ZeroWatchの正しい設定
とりあえず上記記事でも案内が出ていますが、コメント入力欄の位置変更と動画説明文の表示がデフォルトでは問題のあるままになっていますので、設定を変更しましょう。
右下の歯車ボタンをクリックして、「コメント入力」と「その他」タブの該当箇所のチェックを入れればとりあえず使用に耐えるレベルになります。
動画タイトルが上にはみ出して半分かけてしまっているけれども細かいことはキニシナイ
設定が面倒くさい&もうちょっとどうにかならないか、という人は鳥居みゆっきさんが公開しているユーザースクリプトを導入するのも良いですね。こちらなら動画タイトルも見切れなくてイイカンジです。
連続再生に特化したプレイヤー
さて、ここまでした上でこのZeroPlayerとはどう付き合っていくのが好ましいのでしょう。それを考える上でひとつ興味深い記事があります。
まもなく公開「ニコニコ動画(Zero)」、川上・夏野氏が注目ポイント解説 -INTERNET Watch Watch
夏野氏:Zeroで最も大きく変わったのが動画の視聴ページ。現在、ニコ動ユーザーの平均滞在時間は1時間40分と言われているが、その中で最もよく使われているのが視聴ページ。ユーザーの滞在時間をもっと長くして、もっともっとニコ厨にしちゃおうというもの。川上氏:ニコニコ動画のプレーヤーの外形は過去5年間変わっていなかったが、一から作り直した。最大の特徴は、動画を切り替えなくてもどんどん視聴できること。
川上氏:昔のニコ動はリアルタイム性がユーザーに支持されたが、ユーザー数が増えるに従って、負荷分散などの観点からリアルタイム感が減っていった。リアルタイムタグ編集は、それを一気に取り戻そうというもの。ニコ動は動画の「タグ戦争」が有名。タグを編集合戦したり、タグでチャットする人もいるが、それがリアルタイムに反映されるようになる。
ニコニコ超会議を直前に控えた先行発表会でのドワンゴ川上量生会長と夏野剛取締役がそれぞれZeroPlayerについてコメントしています。夏野さんはユーザー滞在時間の延長への期待、川上会長はリアルタイム感の増加を期待しているといったところですね。それを踏まえた上で改めてZeroPlayerの機能を確認していくと、あるひとつの仮説が浮かび上がります。それは、この新プレイヤーは
動画の連続再生機能を徹底強化することで滞在時間を伸ばす事を意図している
のではないかと。実際その観点で連続再生のための機能を確認していくと驚くほど充実しています。次に再生される動画は画面下部にプレイリストとして自動的に表示され、ドラッグ&ドロップで順番を入れ替えたりリストから外したり出来る。動画を追加するのも検索画面に画面遷移することなく動画を再生したまま「次の動画」をどんどん挿入できる。いったん設定してしまえば連続再生で何時間でもずっと動画を流し続けることが出来る。これは、ニコニコ動画ZEROのもう一つの目玉機能であるNsenの方向性とも合致します。
見ているだけではニコ厨にはならない
連続動画再生プレイヤーとしては概ね申し分のないZeroPlayerなのですが、しかしそこには重大な見落としがあるように思えます。それは「ただ動画を見るだけならニコニコ動画である必要がない」ということです。既に存在する膨大なコンテンツを利用して他の動画共有サイトを圧倒するという目的であればそれでも充分事足りるとも言えるのですが、目的が夏野さんの言うとおり「ユーザーをニコ厨にする」ことにあるのであれば、ただ動画を見るだけでなく、動画説明文を読み、コメントをし、タグを付け替え、ニコニコ市場に商品を登録するといった一連の動画への介入をするまでにユーザーを誘導しなければそれは成し得ないだろう、ということです。そしてZeroPlayerはその観点から見た場合、残念ながら以前までのプレイヤーと比較しても非常に劣っていると言わざるを得ない。
とりあえずコメントを書き込む意欲を激しく減退させるコメント入力欄の位置は改修されましたが、それがデフォルトで画面下部に固定されたとしてもまだ問題は山のように残っています。ひとつわかりやすいのは、動画の再生が終了した後の画面。
次の動画に進む関係のリンクと画面上部の評価系のボタン以外がグレーアウトして今まで見ていた動画に対するアクションを取ることを暗に拒絶しています。リンク以外の部分をクリックすれば評価系ボタンが閉じてタグの編集が出来るようになりますが、「次の動画」は常に画面下部に表示されているのになぜそうまでして次に進むことを急かす必要があるのか。ニコ厨を育てる意図があるのならば、次の動画と同じくらいの大きさでもう一度再生ボタンを設置したっていいのではないか。評価系ボタンにしても画面上部の視線の届かない位置ではなく再生終了した画面に直接表示しないのはなぜなのか。実際前バージョンであるニコニコ動画原宿ではそうなっているわけです。そういったほんのちょっとした使い勝手の変化が、目立つ部分に対する不信感を増幅させている面は大きいように思います。
そこに哲学はあるか
私はZeroPlayerの情報の見せ方のいくつかについてはとても興味深いなとは思っていて、例えば動画の再生数やマイリスト数をファーストビューから外したのは数字にこだわりがちなニコ厨の行動に変化をもたらすかもしれないなと思うし、左サイドにニコニコ市場を持ってきたことについても、市場をユーザーの重要な介入要素のひとつとしてみなしているのかな、と好意的だったりもします。そのいっぽうで新機能のコメントを「ニコる」機能が誤爆を誘発するほど簡単に出来るようになっているわりに動画そのものを評価するためのボタンは2クリックを要するなど、チグハグな点も散見されます。またTwitterやFacebookといった外部コミュニティへの接続経路が弱いことも気になるところです。方向性そのものはとても興味深いと思いつつも、どうもそれが徹底されておらず、中途半端になっている部分があまりにも多く見える。
てってってーPも指摘していますが、何がしか明確に目指したい方向があるにも関わらず言われるがままに場当たり的に手直しをしてしまえばどっちとも付かない中途半端なものになってしまう危険性も高い。だからしっかりとひとつひとつの機能の意図を伝えてもらえれば、ユーザーサイドとしても、譲れる部分、譲れない部分というのがはっきりしてくるんじゃないかと。
ぶっちゃけて言ってしまえば、ヘビーなニコ厨はUIが気に入らなかったらユーザースクリプトなりなんなりで勝手に手直しして自分たちの使い良いように勝手に使ってしまいますし、それはそれでいいんだと思います。問題は単純に使い勝手が良い悪いといううことでなく、新しくニコニコ動画に触れるユーザーにどういった行動を取って欲しいか、それを実現するにはどうしたら良いかという確固とした設計の哲学があるか否か、なのではないかなと。それさえハッキリと提示されれば、手厳しい意見だけでなく有益な意見、アイデアというのもどんどん集まってくるんじゃないかなと。他人の作ったものに遠慮会釈なく口なり手なりを出してくるというのが、そもそもニコ厨という存在なのですから。