オンライン販売だけでアーティストは生活できる

一体オンラインで何曲売れば、アーティストは生活していくことができるのか?を表す図 - GIGAZINE

 これはひどい

 と、とりあえず枕言葉を置いた上で。既にブックマークコメント等で指摘されまくってますが、元データの引用が恣意的すぎて明らかに読者を誤解させるような記述をしていますね。いつものGIGAZINEクオリティとスルーしたいところですが、真に受けている人もいるようなのであえて突っ込んでおこうと思います。

Musician Digital Royalties PUBLIC 2013 - Google Sheets

 こちらが元データですね。まず基準になっているのが、$9.99でCDアルバムを手売りした場合。プレス費用を$1.9と概算して、143枚売ればアメリカでの最低賃金に届く。ここは問題ないですね。

 GIGAZINEの記事ではこの次に商業CD(印税1割の契約)のデータが来るわけですが、元データではこの間にいくつも項目があります。ひとつひとつ見ていきましょう。

  • CD Baby アルバムダウンロード 155回

 2番目に来るのがこれですね。上記のアルバムと同内容のものを同額で販売代行サービスのCD Babyに委託した場合です。CD Babyは自前の音楽配信サービスの他、iTunesやその他メジャーな音楽配信サービスに自動的に登録してくれる音楽委託販売の定番サービスなのですが、この数字はCD Babyのサイトから直接売れた場合の数字ですね。利益率は実に75%。手売りとほとんど変わりません。とはいえ委託料がアルバム1タイトルにつき$55かかりますので実際はもう少しだけかかります。+7枚で162回でOKですね。

  • Napster アルバムダウンロード 1229回
  • iTunes アルバムダウンロード 1229回

 続くのがこの数字。これは一般的な音楽レーベルを通してituneで販売した場合でしょうね。アーティストの取り分はぐっと減って販売価格の9.45%となっています。もちろんレーベルを通して販売すればプロモーションをかけてもらえるわけですから一概には比較できませんが、商業CDとして売る場合と大差のない話ですね。

  • 商業CDアルバム(高ロイヤリティ) 1161枚

 これがGIGAGINEが2番目に引用しているデータ。印税率1割で契約できるなら、オンライン配信よりもメリットはあるかもしれませんね。

  • CD Baby MP3ダウンロード 1562回

 ここがポイント。ですね。CD Babyを通して1曲単位で販売した場合、わずか1562回で商業CDアルバムを1161枚売った場合と互角になります。さて、どちらのほうが現実的でしょう。

  • CD Babyを通じてiTunesで MP3ダウンロード 2044回

 これはCD Babyに委託してiTunes1曲単位で売れた場合の数字ですね。CD Babyのサイトから販売した場合に比べると若干利益率が落ちますがそれでも57.33%と、レーベルを通して販売するよりもずっと高収益です。

  • 商業CDシングル(高ロイヤリティ) 2325枚
  • 商業CDアルバム(低ロイヤリティ) 3871枚
  • 商業CDシングル(低ロイヤリティ) 7749枚

 これは同じように商業CDとしてシングル販売した場合、などですね。日本の最近のオリコンチャートを見るに、はたしてこの数字にどれだけ現実味があるか疑問ですね。ところでここで低ロイヤリティ(3%)という契約が出てくるのですが、この違いが何からくるのかはちょっと把握出来ていないです。低ロイヤリティ契約だと更にハードルは上がりますね。どちらが一般的なのかはちょっと知りたいところ。

  • Amazon MP3ダウンロード 12399回
  • iTunes MP3ダウンロード 12399回

 GIGAGINEが3番目に引用しているデータ。一般的な音楽レーベルを通してAmazonあるいはiTunes1曲単位で販売した場合の数字です。レーベルを通すと大変だなあとしみじみと思いますね。

  • Rhapsody(個人) ストリーミング 127473回
  • Last Fm(オンデマンド) ストリーミング 1546667回
  • Rhapsody(レーベル所属)ストリーミング 849817回
  • LastFm(購読ラジオ) ストリーミング 2000000回
  • Last Fm(無料ラジオ) ストリーミング 2274510回
  • Spotify ストリーミング 4549020回

 さて、ここも意図的に説明を省いているとしか思えないのですが、これらのストリーミングサービスは基本的に無料で、曲を1曲1曲売る話ではないですね。ストリーミングラジオで、あるいは視聴者のリクエストで呼び出された回数に応じてこれだけのフィーを支払いますよ、という話ですね。「何曲売れば」という話とは根本的にかけ離れています。例えばこれらのサービスに100曲提供しているアーティストがいて、それぞれが1000回くらい流されればそれだけで最低賃金に到達です。もちろん1人のアーティストの曲がそんな回数をかけられる可能性はゼロですが(×視聴者数なので可能性はゼロではないですね。)、多少なりとも収益が上がるなら悪い話ではないですね。ちなみに元データを見ると作詞作曲両方やっていた場合というデータもあるのですが、その場合はLast Fmだとぐっとフィーが上がるのが面白いですね。

 ちなみにデータの元になった英語の記事もあるようです。GIGAGINEのデータと読み比べてみると面白いかも知れませんね。

The Paradise That Should Have Been - The Cynical Musician