ペンギン娘のビジネスモデルをメーカーの視点で考えてみる

 先だってのエントリでは皆様から興味深いご意見、情報等をお寄せいただき、何か気の利いたアンサーエントリを書きたいな、と思っていたのですが。ふと、販売元のドワンゴAGエンタテイメントの視点から企画の流れを考えてみたらどうなるだろうと思い立って書いて見ました。なお、数字等に関してはほぼ全て想像による当てずっぽうですのでおかしいところはガンガン指摘していただければ。

はてなブックマーク - アニメビジネスの諸問題:ペンギン娘はぁとの場合 - 未来私考

予算は3000万円?

 まずニコニコ動画でオリジナルアニメを流してそれをDVD化するという企画を通す時、支出と収入(売上)の見積もりをたてて予算を組まなければなりません。まず売上ですが、定価9800円=卸値6000円で5000枚出荷と考えると3000万円という数字が出てきます。1枚のDVDの予算としては、まあ妥当なところでしょう。この3000万円を製作委員会の4社が出資したと考えます(ドワンゴ日本アドシステムズグッドスマイルカンパニー文化放送)。それぞれ出資比率を7:1:1:1くらいで考えます。

 ここからまず代理店であるNASを通じてアニメーション制作会社のピクチャーマジックに実実制作の発注をするわけですが…2000万円くらいでしょうか?厳しい価格ですが、8分以上のアニメを7本(=56分)という形の発注ならまああり得なくはないかな…と。そうそう、ニコニコは放送枠が決まっている訳じゃないので21分なら21分ぴったりにする必要がなくて捨てカットが少ないので予算管理は通常のアニメよりも若干軽減されるんじゃないかという予想もあります。まあ、コンテがしっかりしてれば問題のない話なんですけどね。

 次に限定グッズ等の製造を製作委員会のメンバーであるグッドスマイルカンパニーを通して300万円で、この単価は1枚400円〜600円くらいかなーと個人的には思いますが、コメントでコストがかかっているとの指摘がありましたので、高めに設定して1枚1000円という事にしておきましょう。5000枚なら500万円ですね。残る予算は500万円。パブリシティも日本アドシステムと文化放送にそれぞれ300万円で発注したとします。残り100万円でパッケージ製作をドワンゴの子会社であるドワンゴエージーエンターテイメントに発注。これで予算ぴったり3000万円ですね。
 これがもし予想外にヒットして追加発注が1000枚入ったとすると、600万円の売上。これを相場通りメーカーと製作委員会で折半するとして、グッズなしの再販の費用が20万円程度として、アニメ製作会社インセンティブ*1を200万円払ったとしても、それぞれ300万円の追加収益です。こう考えるとなかなか悪くない商売に思えますね。

2000円モデルで考えてみる

 では前エントリで私が提案した1枚1500円ないし2000円で売るというモデルで考えるとどうなるか。今回は2000円で考えますが、定価2000円の場合卸値は1200円程度。これで3000万円売り上げようと思ったら2万5000枚出荷する必要があります。この時点で若干冷や汗がでますが、分冊形式の場合初巻だけがダントツで売上が高くて2巻目以降は伸びないというのが通例ですので、1巻で2万枚、2巻で5000枚、残りは予算に含めないくらいの考えが妥当な気がしますね。そうすると7分冊という形式自体がいまいちよろしくない?という気もしますが、とりあえず。枚数が多くなると単純に製造費の額も上がりますので、特典等に予算を割くのが難しくなります。グッドスマイルカンパニーが出資するメリットがなくなりますので、その分をドワンゴが持ったとしても1000枚20万円と仮定しても2万5000枚で500万かかってしまいます。なかなか厳しいですね。なにより在庫リスクが半端なくなります
 仮にこの2万5000枚が捌けて、追加発注があったとしても、1000枚で120万円。メーカーと製作委員会それぞれ60万円の追加収益しかありません。上のモデルと比べると、製作会社にとっても、メーカーにとってもあまり魅力的とは言えなさそうです。
 とはいえ、一応、7巻まで累計で4万枚くらい出荷出来ればこちらのほうが収益は大きくなります、が。問題はペンギン娘はまだ続巻するということで…仮にあと7話で同程度の予算を組んだ場合、果たしてペイするかどうかはかなり微妙な気がしますね。

ネギまOADのモデルを考えてみる

 気を取り直してネギまOADのビジネスモデルを検証してみましょう。1巻3500円。単行本400円を外して3100円。書店流通は8掛けが通常ですから、卸値は2500円程。これを仮に3000万円の予算で考えてみると販売数の目標は1万2000枚となります。
 これも1本2000万円で発注したとしましょう。25分のアニメであれば潤沢と言えます。製造費は240万円+α特典はほぼデジタルコンテンツですのでそんなに原資はかからないでしょう。仮に500万円とします。パブリシティもほぼ講談社とのバーターでしょうから、ポスター製作等込み込みでも200万〜程度かなと。なんだかペンギン娘DVDの予算とほとんど同じ計算していますが、実際あまり掛かっている印象ないんですよね。どうなんでしょう。
 さて、恐ろしいのはこれから。これで追加発注1000枚ごとに250万円。製作100万円、製造50万円としても100万円製作委員会とメーカーにそれぞれ125万円の利益になります。これが…さきほど公式ページを覗いたら予約数が4万5千枚を超えていたのですが(笑)そうすると既に6600万円の利益が…製作と販売で折半するとしても3300万円。これが赤松先生の掲げる目標の9万枚まで達したら1億6000万円の利益です。
 ちょっと数字が凄すぎて何か重大な見落としをしているんじゃないかと思ってしまうのですが、ともかくかなりビッグチャンスの見込めるビジネスモデルであることが見て取れます。9万枚はさすがに特別すぎるとしても2万枚以上売れる見込みがあれば、通常のDVDよりも遥かに高収益なんですね。

OADのビジネスモデルから学べること

 このビジネスモデルの秀逸なのは、一見通常のアニメDVDと同程度の相場感に見せていて、流通を工夫する事で利益率を上げている事。そして完全受注生産という形で販売前に利益を確定させている事。この2点がとても大きい。そして現在の予約数を可視化し、またファンを巻き込んで目標を立てる事で(9万本の予約でテレビアニメ化が決まるかも!?と煽っています)無償のエヴァンジェリストが多数発生してるんですね。

OAD「ネギま!白き翼」公式の予約数カウンターは予約締切後に大幅増!? 猫とネギま!と声優さん

 こういったお祭りノリは本来ニコニコ動画がもっとも得意とするところで…もっと、何かなかったのかと残念に思うところです。現在ペンギン娘ニコニコ市場での予約数はわずか4本。芳しくないどころではないですね。それでも、出荷5000本はおそらくクリアするのでしょう。初週の売上が3000〜4000枚ならおおよそ狙い通り、4000枚越えなら大成功、といったところでしょうか。だけど、何かすごくもったいない、そう思ってしまいますね。

*1:DVDヒットで金一封とか聞きますのであると思うのですが、どうなんでしょう?製作委員会に名を連ねている会社だけ?