読切漫画の価値

 少し遅れ気味の話題ですが、年末に発売された週刊少年ジャンプ2009年4・5合併号に掲載された古味直志の読切作品「APPLE」が大変面白かった。

 地球の危機を救うために万能の超能力を与えられた少年サトシ。彼はその特異な能力ゆえに孤独を生き、孤独に慣れすぎて一人で愉しく生きるすべを身につけてしまった。誰にも迷惑をかけず生きて、使命を果たして、死んでいく。それでいいと思っていた。そんな彼の生活に強引に割り込んできた闖入者。彼を研究しにきたはずがその人柄に惚れ込んでしまった天才少年グリム。2人で過ごした黄金の時間が、サトシの中に「生きる意味」を与えていく…。

 言葉で説明するには設定がちょっと込み入っていて、突っ込みどころも無きにしも非ず。しかし49ページのストーリーの中で壮大なスケール感と一人の少年の心変わりを鮮やかに描き出したその内容は珠玉の一篇といって差し支えないですね。

 この作者の古味直志さんは、先日までジャンプ誌上で「ダブルアーツ」というタイトルを連載していたのですが、23話であえなく打ち切り。各話のクオリティはけして低くはなかったのですが、連載作品としてのケレン味、キャラクターの押し出しの強さという点では残念ながらジャンプの主要読者の心を掴むことが出来なかった。

 また、今ジャンプで「アスクレピオス」を連載中の内水融さんも、短編の名手として知られ、06年に発表された読切作品「FOREST」はその年のベスト短編との呼び声も高いほどのクオリティの作品なんですね。しかし、連載となると泣かず飛ばずで、おそらく今回のアスクレピオスもまもなく打ち切りとなるのが確定的です。

 世の中には長編に向かない作家、短編を書いたほうがその実力を発揮できる作家というのもいると思うんですね。古味直志内水融という才能は、少年漫画的想像力を確かに持ち合わせている、のだけれども、それをケレン味のあるキャラクターに落とし込んでいくという能力にどうにも欠ける部分がある。それは弱点ではあるけれども、ひとつの個性だと思うんですよね。しかし今の少年漫画には、抜群に短編が上手い作家を評価する方法が何も用意されていない。こうゆうマッチングの失敗というのは、作家にとっても編集部にとっても不幸だと思うんです。

 優れた短編を発表してもそれを単行本にまとめるには長編連載をヒットさせるか、あるいは他の連載の中に紛れ込ませて載せるしかない。あるいは単行本になることもなく、人知れず忘れ去られていった名作短編というのも星の数ほどあるのではないかと思います。

ウェブコミックに短編を!

 雑誌が売れなくなった時代、読切短編はますます人目につきにくい存在へとなっていく。しかし、読切作品には、定期購読者ではない、雑誌をたまたま手に取った読者が読んでも話が分かるというメリットもあるんですよね。雑誌を復権するには質の高い短編作品が載っているというのはとても大きな武器になり得るとも思うんです。問題は、どうやって評価をするか、その1点だと思うんです。

 今、出版各社は生き残りをかけてWeb上で読めるコミックを増やすなど様々な工夫をしています。

http://comic.bitway.ne.jp/cp/kc/top.html
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 こういった試み自体はとてもすばらしいと思うのですが、その中に単行本では読めない読切作品を読ませるような企画がないのが、いつもとても残念に思うんですね。単行本が発売されていて既に評価が定まっている作品よりも、まだ多くの人の目に触れる機会を得られずにいる作品こそが、Webで読まれるべきなんじゃないか。そこで評価を得て単行本や、あるいは別の展開があるようなこともあってもいいんじゃないか、そんなことを考えます。例えば新人賞の受賞作品。大賞となった作品が本誌や別冊に掲載されるというのはよくある話ですが、それをウェブに掲載してもいいのではないか。それこそデビュー作というのは作家が大成しない限り日の目を見ることのない作品ばかりです。

 ウェブの本質は双方向であること。そんなことがよく言われたりしますが、ウェブコミックの現状は、残念ながら一方通行のただのアーカイブでしかないんですよね。それでは残念ながら人を呼ぶことはできない。まだまだ可読性の面でウェブは紙媒体には遠く及びませんしね。そんな現状を変えてくれる出版社が早く現れることを期待してやみません。