音楽CDの売上低下が映像ビジネスに影響を及ぼす可能性
音楽CDの売上低下にいよいよ歯止めがかからなくなってきたようだ。最低記録を更新し続けているオリコンシングルチャートだけでなく、日本レコード協会の統計データを見ても、それは明白だ。
オリコンシングルチャート、30位が初の2000枚割れ…100位は史上最低の530枚 - The Natsu Style
一般社団法人 日本レコード協会
2009年3月末時点で、生産金額は前年比86%。これはもちろん音楽が売れなくなっているわけではなくて、このお金がほとんどそのまま音楽配信に流れていると言うことなのだと思う。そのあたりについては以前記事を書きました。
音楽CD生産金額 | 音楽配信売上高 | 合計 | ||
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2008年累計 | 361,775百万円 | *90,547百万円 | 452,322百万円 | |
2008年1月〜3月 | *74,606百万円 | *22,463百万円 | *97,069百万円 | |
2008年4月〜6月 | *72,345百万円 | *22,502百万円 | *94,847百万円 | |
2008年7月〜9月 | *71,098百万円 | *22,225百万円 | *93,323百万円 | |
2008年10月〜12月 | *78,100百万円 | *23,360百万円 | 101,460百万円 | |
2009年1月〜3月 | *64,358百万円 | **** | **** |
2008年の時点でCD生産金額:音楽配信売上の比率は約8:2。音楽配信の月次データは出ていないのですが、仮に合計の数字が横ばいだとするとこれが2009年3月末時点で約7:3になる計算です。この流れはもう止まることはないでしょう。オリコンも音楽配信チャートを掲載するようになったようですし、年内にもこの比率は逆転する可能性は高いですね。
音楽は滅びないけれど…
さて、音楽はパッケージから解放された。ユーザーは遅くて不便で余計な付属物がついた円盤から解放されて音楽そのものだけにお金を払える。同じ金額で何倍もの音楽にリーチ出来る。万々歳じゃないかとは思うものの、これはパッケージを取り扱っている小売店、街のレコードショップの行き詰まりも同時に意味してるんですよね。CDが売れなくなって、流通量自体が激減してしまっては打つ手がない。もちろん、すぐにパッケージ販売が消えてなくなってしまうことはないとは思いますが、生き残れるのはレンタル店や新古書店との併設やアニメショップ等、他にも収益チャンネルがあるところだけになってくるんでしょうね。そうなると音楽ファンはますます選択肢がなくなってネット配信に流れる。ますますCDが売れなくなる。今はそのスパイラルの入り口なんでしょうね。
映像コンテンツへの影響
街のレコードショップが消えてしまう…そのこと自体はもう避けがたい…勿論、個別のお店が生き残るための戦略というのはきっとあるとは思いますが、全体としてはほとんど淘汰されてしまうというのはもはやどうしようもないでしょう。そうなったとき、その影響は実は音楽CDだけにとどまらないんですよね。音楽CDと併設して売られているDVDの販売にも大きな影を落としていくんじゃないかと考えています。
このあたりでも書いたのですが、DVDの収益というのは、商品を生産した時点、商品を出荷した時点で発生します。商品を発注してくれる店舗の減少はそのままダイレクトにビデオメーカーの収益に影響してくるんですよね。実店舗がなければネットで注文すればいいという話もありますし、実際amazonでの需要は伸びていくでしょう。だけどネットで注文してDVDを買うという手間を考えた場合、それって実はネット配信で映像コンテンツそのものを購入する場合とほとんどユーザーの手間は変わらないんですよね。
映像配信のあるべき形
もちろん、現状のネット配信というのは、ハッキリ言ってまったくユーザーの利便、期待に沿うものにはなっていない。ほぼすべてが1週間なりのレンタル形式のストリーミング配信で、買い切りモデルで自由に取り扱えるタイトルというのは皆無です。現状では価値としてDVD等のパッケージとは比較にならない。だけどこれが買い切りモデルで、購入した直後にすぐ見ることができる、PCで視聴するのもipodやPSPで視聴するのも自由、となった場合にユーザーはどちらを選択するのか、考えるとなかなか興味深いと思うんですね。価格も流通・製造のマージンを抜いてコンテンツのみの価格で考えれば現状のDVDの3分の1くらいになるでしょう。つまるところ音楽配信と全く同じモデルという話なんですが、音楽配信は、10年かけてパッケージは要らない、音楽だけがあればいいというユーザーが半数近くになろうかというところまで来ている。映像でも同じことが起きないとは言えないと思うんですけどね。
ユーザーの落とすお金の総額は変わらない
もちろん、障壁はある。一番大きいのは、DVDタイトルの多くが、実販売数以上の生産・出荷を見込んで成り立っているということ。配信ビジネスでは実際にエンドユーザーが払うお金以上の売上は発生しないわけですから、慎重になるのは当然です。とはいえ、そのビジネスモデルは早晩立ち行かなくなるのは目に見えている。実際、DVDの売上もじわじわ映像配信の売上に食われているというデータもある。
だけど、もしこのデータを信じて、映像配信でも音楽配信と同じことが起きるとしたら、ユーザーの落とすお金の総額は変わらずに消費量は増えるという、むしろ喜ばしい事態が起きる可能性が高いんじゃないかなと思うんですけどね。あとは、どこが最初にそこに踏み込むか…ということだけな気がしています。
映像配信が変わる可能性
そんな中で、ゲームメーカーのレベルファイブがNTTdocomoと組んで始めるコンテンツ配信サービス、ROIDに注目していたりします。ゲームやアニメなど、1つのコンテンツをPCでもケータイでも利用できる。課金モデルとして携帯電話は非常に優れていますし、ちょっと詳しい情報がまだ出ていないので推測なんですが、インターフェイスを見る限り、映像配信も恐らく買い切りモデルになると思うんですね。もしこのモデルが成功すれば映像配信ビジネスをひっくり返す蟻の一穴になる可能性もあるんじゃないかと。価格や、並べてくるコンテンツ、プロモーションの方法等にもよりますが、これが上手くいって映像配信のあり方も変えてしまうことを期待していたりします。
テレビが不自由になる中で
一方で地デジを巡っていまだに補償金やらコピー制限やらと延々とつまらない議論が続いていたりします。個人的には、もうどうぞご勝手にと思っていたりするんですが、どれだけ映像の品質があがろうが、不便なメディアを支持するユーザーはほとんど存在しないでしょうね。逆に考えれば、テレビという一番大きな影響力を持つメディアが不自由になっていくことはネット配信にとっては追い風、福音とも言えます。テレビが不自由になるならネットはユーザーの自由な利用を謳えば、流れが一気に変わる可能性すらある。
音楽が売れない。映像が売れない。そんなまやかしのような言説に惑わされないで、ユーザーが本当に求めるものを求める形で手に入れられる、作り手が安心してものつくりに専念できる、そんな世界が早く到来することを願ってやみません。