コンテンツビジネスの縮小は情報流通の問題

http://sankei.jp.msn.com/entertainments/music/100507/msc1005071144001-n1.htm
エロゲの違法コピーにまつわる話 - Togetter

 違法コピーが蔓延して青色吐息ですよ。といういつものお定まりの話。いろいろと怪しい数字もあるものの、統計データを見る限りは全体として頭打ち、あるいは縮小傾向にあるのは事実ととらえていいのかもしれません。それはそれとして、違法コピーの被害があるとして、それはどのように影響を与えていくのかということについてちょっと考えてみたい。

 仮にあなたが、新しいゲームなり音楽なりを無料で手に入れたい。と考えたとする。考えるのもおぞましいとか言わずに考えて見てください。目の前にはP2Pなりなんなりの違法ダウンロードのツールも揃っている。なんらかの理由で法的なリスクもないとしましょう。さて、音楽を/ゲームを探すぞ!となった時点で、ふと気がつきます。

「新しい音楽/ゲームなりの情報がなければ、いったい何をダウンロードして良いのかわからない」

ということに。考えて見れば当たり前の話で、名前も聞かない、誰が作ってるかも分からない、どんな内容なのかも知らないコンテンツをいくら無料だからといってわざわざ手間暇をかけてアクセスするという人は少ない。もちろんP2P等を利用する人は内容いかんに関わらず投網をするように根こそぎダウンロードしたりするのかもしれませんが、ダウンロードしたところでプレイされなければそれは単に電気信号がケーブルを伝わったという以上の意味はなく、コンテンツそのものの価値になんの作用もしない話なんですよね。

 結果どういうことが起きるかといえば、違法なダウンロードといったものの被害に遭うのは常に「既に十分に知名度のある成功したコンテンツ」ばかりになるんですよね。違法ダウンロードの被害は、常に良く名の知られた(=既に十分に商業的な成功をしている)作品が多くなり、逆に名も知られていないような作品の被害は極小になるんです。

 翻って現状はどうでしょう。音楽業界の最大手のひとつであるソニーミュージックは2008年には損失を出していたものの、2009年以降は回復し増収を続けています。エイベックスはずっと営業黒字を続けており、2009年は利益こそ落ち込んでますが売上高は伸ばしてますね。コロムビアレコードは2009年まで赤字状態ですが、今年度は黒字見通しを出しており実際に直近の短信では黒字の報告が上がってますね。

Sony Japan | 決算・業績説明会
エイベックス株式会社
日本コロムビア株式会社 : 【投資家情報 - ニュースリリース】

 違法ダウンロードの被害は知名度の高い大手ほど大きくなると考えれば、これはおかしな話ですよね。業界に影響を与えるほどの被害があるとしたら大手であればあるほど手痛いダメージを受けていなければ釣り合いが取れない。ここから導き出される可能性は、一つは「違法ダウンロードは有為の損害を音楽業界に与えていない」ということと、もう一つは「違法ダウンロード以外に音楽業界に損害を与えているなんらかの要因がある」ということです。

 知られなければ違法ダウンロードもされないけれども、知られなければそもそも売れることもありえないんです。もし業界全体が縮小しているとするならば、それは欲しい人のところに欲しい商品の情報を届けるための情報流通になんらかの異常…異常というのは当事者の立場での見方になりますが…ともかく大きな変化が起きていると考えたほうが良い。

 業界が滅びる、新しいものが何も売れなくなってしまう。そういう声があるのは分かります。そして当事者にとってはそれは事実なんでしょう。しかし一方で同じ状況でありながらちゃんと利益を上げている企業も多い。しかもいわゆる大手が状態を立て直してきているという事実は見逃してはいけないのではないでしょうか。

 被害被害と言ってみたところで今売れていないものが売れるようになるわけではないんです。何か他に方法がある。そう考えて行動したほうがいい。例えばアニメ業界もずっと青色吐息が囁かれていて、数年前にはYoutube等の動画サイトはクソミソにけなされていた。それが最近は随分風向きが変わってきている。公の場で、一般の人がYoutubeでアニメを見るのは仕方がないという言葉も聞かれるようになってきた。これは「違うやり方」を発見出来たからだと思うんですね。

 それが何か、と言う話はまたいずれおいおいしていきたいとは思います。ともかく、今の苦境を誰かのせいにして嘆いてみたところで何も変わらないと言うことだけは肝に銘じて、正しい現状分析に基づいた戦略を取ってくれることを望みたいですね。