Jコミは零細漫画家を救うか

 「ラブひな」が開始2日間で100万ダウンロード超という幸先の良い出足となった絶版漫画配信サイトJコミ。

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404 Blog Not Found:Jコミがはじまる前から成功している理由

私もこのサービスは必ず成功すると確信しているのですが、小飼弾さんとはちょっと見解が違うというか、Jコミの素晴らしいところは単に有名漫画家が自作を自分で配信する環境を作ったから、ではなく、漫画家として大成功を収めるところまでいかなくとも面白い漫画を創作されてきた、言い方は失礼かもしれませんが「零細漫画家」をこそ救うシステムになるんじゃないかと期待してるからなんですね。

 そもそも何故まだ読者の需要がある漫画が絶版になるのかといえば、出版社が儲けにならないと判断するからですね。つまり出版してもその費用をペイしない可能性が高いということです。出版業界は基本委託販売のため、刷って出荷しただけでは利益が確定しません。返品リスクも加味して出荷分の3〜5割が戻ってきてもペイできるくらいの需要がなければまず再版することが困難なんですね。

 Jコミがタッチするのは、まさにこの「出版すれば利益になるかもしれないけどリスクが高い作品」ということになります。けして需要がないわけではない。だけれども何万部も売れるわけではないというボーダーライン上の作品にこそ、Jコミのシステムというのはもっともマッチする。

 そもそもの話として、多少リスクがあっても出版社が普通に再版してくれるのなら作家さんにとってそれ以上言うことはないんです。だけれども、現実の話として出版社も台所事情が苦しく、あえてリスクを取らずに確実に売れるモノしか出さないというのが最近の傾向です。
 最近は中程度の人気の作品は極限まで出版費用を切り詰めたコンビニコミックの形で出ることも多いですが、とりあえず契約年限が過ぎて再販の予定がない作家さんは編集者に再販の予定を聞いてみるといいですよ。

 

Jコミとコンビニコミック

ところでコンビニコミックというと2巻をまとめて500円程度が相場ですので、仮に1万部刷ったとしても印税は(2巻分で)わずか50万円です。ここで赤松先生の10万クリックで70万円という試算が効いてくる。10万ダウンロードで70万円という試算は見積が甘すぎるという声もありますが、1ダウンロード7円と考えるとそれほど的を外した数字でもないんじゃないかと思うんですけどね。まあこればっかりは蓋を開けてみないとわからないですが、場合によってはコンビニコミックで再販するよりもJコミに提供したほうが高収益なんてこともあるかもしれませんね。

 もちろん、漫画が人気商売である以上、Jコミに提供してみたものの全然ダウンロードされずに終わってしまう可能性もないではないです。しかしその場合は端から通常ルートでの出版も望み薄なわけですから、納得して諦めるしかない。

出版社にとってのJコミ

 ところで、出版社からみてJコミはどういう存在に映るのでしょう。ライバルと見る向きもあるかもしれませんが、私はむしろ「タダで市場調査をしてくれるありがたい存在」に成り得るんじゃないかと思っています。採算ボーダーだと思っていた作品が、もしJコミでクチコミで広まって何十万ダウンロードという人気を獲得したとき、出版社は手を小招いている必要はないですよね。人気があって売れるのが分かっているなら堂々と作者と出版契約を結べばいい。もし返品リスクが怖いのならばJコミを通じて完全受注生産で出版する手もあるかもしれませんね。試し読みは電子書籍でも、好きな作品は紙の本で持っていたいという層はまだまだ少なからずいますし。

何故広告モデルにこだわるのか

 広告モデルだけでなく各作品を直接購入できるようにしてほしいという意見もありますが。、広告モデルにこだわっているのはこれもおそらくは人気作品に収益が一極集中するのを防ぐため、でしょうね。有料配信となれば事前にその作品の価値を知る人以外はなかなか手を出しづらくなってしまいます。そうすると既に名の知れた作品以外はどうしても埋もれる事になってしまうんですよね。それが無料+広告モデルなら、純粋に面白さだけで勝負出来る。クチコミで広まって意外な掘り出し物が出てくるなんてことも期待できる。このあたりも飛び抜けた人気作を持ってない作家さんにとってはありがたいんじゃないでしょうか。

 Jコミは既に名声を得た人気作家よりも、広く名を知られていない中堅〜マイナー人気作家にこそ恩恵がある。まとめるとそういうことになるでしょうか。そういった人たちがJコミに合流するのを隔てる障壁というのは実際ほとんどないように思えます。赤松先生自身、週刊少年マガジンというメジャー誌に連載しながらラブひなを「特にお願いして絶版扱いにしてもらう」程度には編集部と良好な関係を保っているわけですし。

 テストケースとはいえ2日で100万ダウンロードを越えるほどの注目を集めていて、持続的な作品の供給も見込める。スポンサーもオタク系に限らず幅広く集めてこれる代理店としっかり提携している。こうなるともう失敗する理由を探すほうが難しいというのが正直なところです。あとの課題は利用者自身によるスキャンデータのアップロードというエコシステムがちゃんと機能するかどうかですね。注意深く、しかし期待して今後の動向を見守りたいところです。