電子書籍はもっと「自由」になる
まつもとあつしさんの新著「スマート読書入門」を著者献本していただきました。いわゆる「自炊」の入門書であり、自炊した書籍をどう活用するかの実践指南書。私自身はどちらかといえば自炊否定派なのですが、むしろ「どうして自炊なんて面倒くさい事するの?」と疑問に思っている人にお勧めしたいですね。「自由」な電子書籍がもたらす新しい「本とのつきあい方」を見ていると、改めて電子書籍の可能性を感じます。
自由自在な検索の威力
本書で自炊した電子書籍の大きな魅力のひとつとされているのが、複数のファイルを横断した全文検索ですね。一般に販売されている電子書籍では規格乱立のために簡単な串刺し検索もできない、しかし自炊して全てをPDFに統一してしまえば膨大な蔵書の中から記憶だけを頼りに資料を探し当てる苦労から解き放たれるというのは確かに魅力的です。また本文に直接マーカーや注釈をどんどん書き込んでいけるというのも電子書籍ならではの魅力ですね。論文等を書いたことがある人は、付箋を貼ってその上にメモ書きするといった事をしたことがあるとは思いますが、どうしてもメモスペースは限られてしまいますし、たくさん付箋を貼りすぎると結局目的の箇所を探すのに頭から順に調べる羽目になるということも少なくありません。電子書籍ならこれも検索で一発ですからその効率たるや雲泥の差でしょう。こういったメリットはただ趣味で読書をする分にはそれほど大きなものではありませんが、学生や研究者、文筆業など一定の職種の人にとっては今までの本を越えた絶大な付加価値と言って良いでしょう。
自炊の限界と「正規の電子書籍」だからこそ出来る事
思うに、こういった高付加価値の電子書籍は、紙の本と同等あるいはそれ以上の価格で販売してもよいのではないかと思いますね。現状、積極的に自炊を活用している人は書籍代+自炊の初期投資+毎回の手間というコストを支払っているわけです。自炊代行業に頼むにしても送料+手間賃で1冊200円くらいはかかってしまう。だったらあらかじめ定価に200円上乗せした「自由な電子書籍」を売ってしまえば、そこに付加価値を見出している人たちは飛びつかないわけがない。何も全ての電子書籍をそうするべきだと言うわけではなく、「安価で不自由な電子書籍」と「高価で自由な電子書籍」を売れば良いんです。わざわざ高価なものを選んで買う人はリテラシーも高いですから、安易に違法流通に流すようなこともないでしょう。こればかりは、「読み手」を信頼してもらう以外に方法はないのですが。また、今積極的に自炊を活用している人は、自由な電子書籍なら買うよというメッセージを発する必要もあるでしょうね。
また、本書後半ではソーシャルメディアを通じた新しい「本との出会い」についても触れられていますが、これも正規の電子書籍ならばもっと自由に、もっと便利になるに違いないのにという思いを強くしますね。例えば最近流行しつつあるネットを通じた読み合わせ、いわゆるソーシャルリーディングですが、これもフォロワーがその場で本文にアクセス出来るような仕組があれば、本との出会いはもっと自由になる。これも例えばレンタル形式のような「不自由な形式」であったっていい。そこから紙の本なり電子書籍なりを改めて購入する導線があればなお言うことはないですね。Twitterなどを通じて読み手と書き手の距離が劇的に縮まった今だからこそ、もっと新しい書籍との繋がり方があってもいいのではないかという思いを強くします。
なんにせよ、今「電子書籍」を欲している人は、もっと「自由」で「便利」なものが欲しいんですよね。そのためなら高価であっても良いというのはもっと声高に叫ぶべきでしょう。その結果として著者の取り分が増えるのならばなおのこと言うことはないですね。