一方通行の言葉たち 東のエデン第5話

 東のエデン第5話「今そんなこと考えてる場合じゃないのに」を視聴しました。このサブタイトルなかなか面白いですよね。これが誰にとっての今で、そんなこととは何なのかってのが実は作中で明確には示されてないんですよね。強いて言うならば、登場人物それぞれが、置かれている状況に場違いなことを考えて、一方通行な言葉を紡いでいる。

交わらない目線

 咲の想い人・良介さんは咲の気持ちを知ってか知らずか調子よく家族なんだから面倒見るからと声をかけてくる。咲に想いを寄せる大杉くんは、相手の気持ちも汲まずに咲とのハッピーな未来を考えて、一方的にアプローチをかけている。その空疎な言葉を聞く咲は、これから社会人として生きて行かなきゃいけないのに、計画留年をした平沢を羨ましく思っている。咲の内定を取り消す人事担当者は、先のことなんて何にも考えずにその場の憂さ晴らしをしてしまう。交差しない気持ち。噛み合わない目線。咲と滝沢の会話でもお互いの自分語りをするときにけして目線を交わさない一方通行の言葉として語られているんですよね。2人はまだ恋に落ちているわけではなく、この人となら、この子となら今の閉塞した状況を打開できるんじゃないかという都合のいい期待によって寄り添ってるだけなんですね。

交わる2つの物語

 この回は、今までの4話で小出しにしてきた咲と滝沢くんの置かれている状況の答え合わせの回でもありますね。第2話の日の出埠頭の会話から咲の想い人が姉の旦那の良介さんであることを匂わせて、第3話で「好きだった人が好きだった映画」として引用したコールドブルーのポスターを第4話の咲の実家で見せる。この時点でもう確定情報なんですけれども、更に念を押して台詞でも説明している。滝沢くんのほうも、記憶喪失前にニートを集めてドバイに送っていたという情報が明かされましたが、調達されたコンテナや火浦医師の台詞といった情報から、おおまかなところは推測出来ていた人も多いのではないでしょうか。ここまであからさまに説明したのは「咲の物語」だけを追ってきた人、「滝沢君の物語」だけを追ってきた人それぞれにもうひとつの物語の存在を理解してもらうため、ですね。そして同時に新しい謎に観客の興味をひきつけるためでもあるのでしょう。

だからジョニーは…

 横浜港大桟橋で「100億やるからこの国を救えだっていい加減にもほどがあるよ」という台詞に続くぼそっとしたつぶやき、BGMにかき消されて聞き取りにくいですが「だからジョニーは…」と言っているように聞こえますね。あえて聞き取りにくくしたこの台詞。気にしなければ聞き流されてしまうものですが、これが後半の「謎」の芽になっていくんじゃないかな、なんて考えています。恐らくはこのジョニーと滝沢の関係が物語の鍵を握っているんじゃないかな、と。

 新たに登場した2人のセレソン、物語に巻き込まれ始めた咲の友人たち、そしてジョニー。加速的に情報が増えていくエピソードだからこそ、わかりやすくするところは徹底してわかりやすくする。そのバランス感覚はさすがだなと。今回は暗喩的な映画の引用をちょっと発見できなかったのですが、そのあたりもわかりやすさを優先した結果、かもしれませんね。