「ルナツー脱出作戦」を読む

 さて、つぶらな瞳のアムロくんが何とも言えない味わいを醸し出している第4話「ルナツー脱出作戦」について語っていきましょう。

 まず冒頭がいい。遠くに月、手前に地球を挟んで現在地を見せることで、ルナツーの軌道上での位置を1カットで説明して見せている。ルナツーの説明は第2話で簡単にナレーションされていますが、こうして絵で空間の広がりを見せられるとまた格別のものがありますね。

 堅物のワッケイン司令によって軟禁されてしまうホワイトベースクルー一行。一方的に悪者にされがちなワッケインですが、民間人に対する仕打ち以外は軍規に則った真っ当な判断なんですよね。あそこで食ってかかるブライトの血の気の多さにこそ注目したいですね。後々の彼の性質から鑑みるに実戦をくぐり抜けた興奮で少々舞い上がっていたのかも知れませんね。

 しかし兵は奇道とはいいますが、敵基地に攻め込むのに戦艦もモビルスーツも用いないシャアの用兵は本当に凄い。ガンダムの学習型コンピュータじゃないですが、きっと彼の中には対艦隊戦のケーススタディが蓄積されて、最小戦力で最大戦果を挙げる為の策略がいくらでもあるんでしょうね。それだけに(スポンサーとの契約の関係もあるでしょうが)後半でモビルスーツに乗り込んで戦闘してしまうのはちょっといただけませんね。ガンダムに対して有効な策のないまま挑みかかるのは失策といって良いでしょう。一応、防弾性、耐衝撃性に優れたガンダムの装甲を前に新兵裝としてヒートホークを用意したりしていますが、結果がこれでは目も当てられません。

 本来であればこのときシャアが取るべき戦術は、ノーマルスーツのままホワイトベースに乗り込んでブリッジを占拠することですよね。そして、これに類するエピソードが今後登場するところが、またガンダムの奥深いところでもあります。

 ところでこの第4話の戦闘シーンの作画は、金田伊功さん率いるスタジオZが担当してるんですよね。実際戦闘シーンのアングルの切り方やモビルスーツの立ち回りの面白さには目を見張るものがありますね。ザクとコアファイタードッグファイトするこのシーンとかやたらかっこいい。

 今回もっとも注目すべき点は、やはりパオロ艦長と、ワッケイン司令の交流と、ワッケインの心変わりでしょう。冷徹なワッケインがパオロに向ける優しい眼差しは単純に上官と部下という関係以上のものを感じさせますね。聞くところによると後々士官学校での教官と生徒だったという設定があとづけされているらしいですね。とても納得のいく話だと思います。

 パオロの助言を得て、巨大な障害物となったマゼランを排除する決断をする時のワッケインもいい。しばし沈思黙考したあと、火線上に敵艦ムサイの姿を認めるや否や主砲の発射を決意。その時のなんとも言えず嬉しそうな楽しそうな、吹っ切れた表情が凄く良い。冷徹なだけではない、彼もまた軍人である前にいち人間なんだと感じさせる名シーンだと思います。

 そしてホワイトベースアムロたちをここまで導いてきたパオロ艦長との別れ。ワッケインの手向けの言葉が胸にしみます。言葉数少なく、ほんの数カットで、しかし失ったものの大きさを感じさせる演出。これこそがまさにガンダムなんだと、そう思いますね。