囚われのカレンに多重に重ね合わされたもの

 さて、少し間が空いてしまいましたがコードギアスR2第10話「神虎輝く刻」の解析を続けてみたいと思います。今日の夕方には最新話が放映されますので、少し急ピッチになりますが、ご容赦を。

 第10話Bパート、カレン捕縛からの約2分間のシークエンスは、コードギアスをずっと見続けてきたものにとってはこれ以上ないくらいのご馳走のような情報がぎゅぅっと凝縮された2分間でした。

ブラックリベリオンの再話として

 黒の騎士団が総力を賭けての戦闘中に、ルルーシュにとって特別な存在が囚われの身になる、という図は第1期最終話での、VVによるナナリー誘拐をまず連想します。この瞬間、ルルーシュは間髪入れず後先考えずにカレンに向かって「必ず助ける!」と呼びかけるんですね。この時ルルーシュの第一声が、低くドスのきいたゼロの声ではなく軽くうわずったルルーシュの声なんですよね。これは、カレンがルルーシュにとってただのコマではない証。特別な守るべき日常の一部になっていることの強調なんですね。この推論は、後でゼロ=ルルーシュの呼びかけをルルーシュのものであるとカレンが認識するシーンを挟む事で補強されています。
 これは、第7話「棄てられた仮面」において、ルルーシュの守るべき対象がナナリーただ一人から、アッシュフォードの日常、そして黒の騎士団の日常まで広がった事の追確認でもあります。とにかくこの時のルルーシュは、カレンを絶対に救い出さなければならない、そうゆう想いに突き動かされて全くなんの打算も勝算もないままにカレンに呼びかけている。まずそれだけで嬉しくて震えてしまいます。

組織論としての、カレン救出の正しさ

 では、このカレン救出という選択は、ルルーシュの身勝手な個人的な思い込みだけで成立しているのかというと決してそうではなくて。ルルーシュの発声の前に、朝比奈、藤堂、そして他の黒の騎士団メンバーの不安な顔を映し出す事で、カレンが黒の騎士団という組織にとってどれだけかけがえのない大きな存在なのかを強調してるんですね。特に、初手で朝比奈から入るというのが素晴らしい。藤堂の腹心の部下である朝比奈は、カレンとの直接の絡みというのがほとんどないんですよね。藤堂にしてもカレンに勝るとも劣らない黒の騎士団の武闘派ナンバー1であって、もっとも動揺から縁遠いキャラです。その二人ですら不安になるとしたら、他の団員の心境は如何ほどのものかという事になるわけです。感情を顔に出さないラクシャータの苦虫を噛みつぶしたような表情も、よかったですね。

 そんな中ひとり浮いてしまっているディードハルトの進言“中華連邦という国と、ひとりの命。比べるまでもない”について。これは第9話「朱禁城の花嫁」でシンクーが天子救出の為のクーデターを起こすべきかどうかで逡巡するシーン“天子様を守るべきか、平和のための同盟か”という選択の反復になってるんですね。この時シンクーは迷った末に天子救出という選択をとった。そして以前のエントリーで指摘したとおり、シンクーというのは全てにおいて正しい選択を行う事が出来るキャラクターとして設定されてるんですね。

繰り返しの差異によって浮き彫りになる情報 玉城とシンクーに見る繰り返し演出 - 未来私考

 なぜこの選択が正しいのか。それは組織―国体というものを守るためにはその精神的支柱になるシンボルを絶対に死守しなければならないからです。中華にとってはそれは天子。そして黒の騎士団にとってカレンは天子に匹敵するほどの精神的支柱になっているという裏返しでもあります。単純な戦力のプラスマイナスでは計りきれない、組織を守るためにまったく正当な選択なんですね。

直感を信じる力

 ここで面白いのがルルーシュの思考の逡巡です。ルルーシュはしばらく迷った末に、組織論の必然としてではなく“インド軍が裏切っている可能性がある”というまったく明後日の方向の理由付けによって選択を正当化してるんですね。これは、ルルーシュの初動の判断が理屈ではなく反射的な直感によるものだった事に由来していて。第10話Aパートでの天子様との会話の後の“どうも理屈で話すタイプではなさそうだ”“苦手か?”“分析しづらいだけだ”という会話を踏襲してるんですね。ルルーシュ自身が、自分自身の衝動がどこから来たものかを分析出来なかったために、もっともらしい理屈をでっち上げる羽目になってしまっているんです(笑)。このあたりも非常に面白い演出で…直感を信じる力…それはこの作品ではスザクの持つ力として描かれているんですが、それをルルーシュが発揮して見せた記念すべき瞬間だったわけです。ただし、それをルルーシュ自身が理解するのは、もう少し先の話になるでしょうね。

C.C.の表情の複雑さ

 この一連のシーンで分析しきれなかったものがひとつあって、それはC.C.の表情が、慈愛と憂いが入り交じったような、子を見る母のような複雑妙味な表情をしているんですよね。これが、見ようによってはルルーシュの選択を喜ばしく誇らしく思っているように見え、あるいは行く末を心配しているようにも見え、そこに複雑な内心があるという事だけは確かに伝わってくるのですが、その内心の意味は現時点においては解読が不可能であるという結論に達してしまいました。何か決定的な見落としがあって分からないのかもしれませんが…今後このシーンのこの表情の意味が分かる日が来るのではないかと思うと、それもまた楽しみでしかたなかったりします。

 まだまだ書き足りない部分もあるような気はしますが、とりあえずはこんなところで。第11話「想いの力」を見るのは明日の明け方になってしまうかな。それではみなさん、全力で楽しみましょう!