「モバゲーアイマス」は壁を越えたのか?
モバゲーで先月からリリースされた「アイドルマスター シンデレラガールズ」の評判がとても良い。特にスマートフォン版がリリースされて以来、Twitter等でかなり大きな盛り上がりを見せており、今までのソーシャルゲームとは違い、アイマスファンを中心としたヘビーなゲーマー層に受け入れられているように感じます。先に行っておくと、このシンデレラガールズ」はゲームシステム的には従来からあるドラゴンコレクション系システムの傍流であり、目立って新しい仕組みがあるわけではありません。では一体なぜ今までと違う手応えが発生しているのでしょう。
コミュニティの可視化
やはり従来のソーシャルゲームとの大きな違いは、アイドルマスターというタイトルが既にネット上に巨大なコミュニティを形成していたことですね。特にニコニコ動画で二次創作を行う、いわゆるニコマスPたちの緩く広い繋がりを通じて、このタイトルの評判が広まっていったというのが大きい。「ガチャで何千円使った」「イベントの回復ドリンクに何千円突っ込んだ」とか明け透けに交わされる会話から、従来のソーシャルゲームに漠然と抱いていた「なんとなく騙されてお金を使わされる」というイメージと違い、はっきりと楽しむためにお金を突っ込んでいる事が見て取れる。そしてその一方で工夫をしながら無料で楽しんでいる人たちが一定数いることも。
これもまた、別にシンデレラガールズが特別なわけではなく、単に従来のタイトルの場合モバゲーやGREEの中だけでコミュニティが完結していてそのイメージが外に出てこなかっただけ、なんです。従来タイトルとコミュニティの性質自体が大きく違うわけではない。にも関わらずただそれが外部から見えるようになっただけで違う状況が発生しているように見えるというのがとても面白い。
ゲームとしてのシンデレラガールズ
もう一つ面白いのが、従来のアイドルマスターファン、特にアーケードゲーム時代からプレイしているいわゆる「アケマス」プレイヤーが、シンデレラガールズをゲームとして評価していることです。先述したとおりシンデレラガールズのシステムは従来のドラゴンコレクションタイプのゲームと大きく違うものではありません。にも関わらず、駆け引きや創意工夫といったゲームとしての要素がちゃんと面白いという人が少なからずいるんですね。それはXBOX360/PS3で発売された「アイドルマスター2」よりもよほどゲームらしいとすら言う人もいます。(私自身もまた、そう思う人間の一人ではあります)。
特に印象的だったのが、シンデレラガールズを始めた直後のプレイヤーが、手に入れた「衣装」を猛烈な勢いで奪われることに対する阿鼻叫喚の声をあちこちで目にしたことですね。これは最近のソーシャルゲームの、出来るだけ新規のプレイヤーにストレスを与えないというトレンドから言うと実はNGなんです。正直これは失敗したんじゃないかな?と思ったのですが、その後の経過を見ていくと、最初に手痛い試練を与えられることで逆にゲーマーの挑戦心をくすぐり、また前述のように事前にコミュニティが出来上がっていたこともありお互いにアドバイスをしながら試行錯誤をしていくという好循環が生まれているように感じます。
これもまたシンデレラガールズ特有の現象では決してないのですが、試行錯誤にまで至るプレイヤーを増やすための戦略が、とにかく間口を広げて一定の確率で上がってくる人を待つといった従来の方向とは違う、ゲーマー寄りのプレイヤーをターゲットにした方向性があるかもしれないというひとつの可能性を示したといえるかもしれません。
隙間を埋める想像力
もう一つシンデレラガールズが盛り上がっている理由をあげるとすれば、アイマスファンが従来型のゲーマーの中でも特に「隙間を埋める想像力」を鍛えられていた人たちだったということは言えるかもしれません。これはおそらく作り手も自覚的だったと思われ、100人を超える膨大な新キャラクターにも関わらず、一人ひとりが少ない情報の中でしっかりとキャラ付けされてるんですね。特にトップページに毎回ランダムで表示される一言コメントがなかなか気が効いていて、一人あたり5、6パターンしかないにも関わらず、ネット上ではそこから膨らませた各キャラの二次創作が早くも展開しつつあります。これもまた従来のソーシャルゲームでは余り見られなかった方向性ですね。
12月28日現在、アイドルマスターシンデレラガールズはモバゲーランキングで18位となかなかの健闘を見せています。これは旧来のアイドルマスターのコアファンだけではおそらく達成できない数字で、ソーシャルゲームコア層の興味もしっかりと掴んでいることの現れだろうと思われます。この躍進は、今まで相容れないものと思われていたソーシャルゲームプレイヤーと従来型ゲーマーを隔てる壁が、実はそれほど分厚いものではなかったことを示す一例となったのではないかなという感触も得ています。
最近はスマートフォンネイティブアプリでリリースされるタイトルも増えており、ブラウザ型ゲームが抱えていたレスポンスの悪さ、BGM等演出の弱さといった弱点も克服されつつあります。多様な入口を持つソーシャルゲームが、従来型ゲームの持ち味を上手く取り込んでいくことで、2012年はソーシャルゲームがもっと面白くなっていくのではないか、そんな期待をしています。