ゲームの魅力を支える「娯楽の核」

 さて、前回のエントリでゲームとは何かということについて論考をしました。

序論:ゲームとは何か コスティキャンのゲーム論を越えて - 未来私考

 これをもう少しキャッチーな感じで要約すると、次のように言うことが出来るかと思います。

  • ゲームとは、「娯楽の核」を用いて「解決可能な課題」を「持続的に供給」する装置である

 もし娯楽の核となる部分が、十分な魅力を備えていなければ、プレイは苦痛を極めます。いわゆるプレイアビリティの低い、などと形容されるゲームはこの部分が足りてないんですね。

 供給される課題が解決困難であったり解決不能であったりした場合は、激ムズのクソゲーと貶められるし、あるいは一見して課題の解決が自明なゲームは、簡単すぎて退屈だと言われ、すぐ飽きられる。良いゲームというのは、プレイヤーがこれは解決できるかもしれないと思える課題を途切れることなく供給できているんですね。

スーパーマリオブラザーズの場合

 世界で一番有名なゲームのひとつ、スーパーマリオブラザーズを例にとって見ましょう。スーパーマリオの魅力─娯楽の核─は、なんといってもその多彩なジャンプアクションです。手元にゲームのある人は試しに何も無いところでジャンプやダッシュを繰り返して見てほしいのですが、なんら目的を志向しなくても、ただマリオを操作するだけで楽しく感じるのがわかると思います。これは他のゲーム、例えばスペランカーあたりと比べてみるとわかりやすい。マリオを左右に動かしたりジャンプさせたりするのと、スペランカーの主人公を左右に動かしたりジャンプさせるのとでは、爽快感がまったく違う。この、動かすだけで楽しいという感覚が、娯楽の核なんですね。

 そしてマリオはこのジャンプアクションを使って、敵を避ける、踏んづける、ブロックを壊す、障害物を乗り越える、谷を飛び越えるといった小さな課題をこなしていきます。この、小さな課題が少しずつ増えていくというのが、重要なんですね。動かすこと自体が楽しいから、繰り返すうちにプレイヤーはそれぞれの課題の解決法を身につけていく。ある程度習熟したところで次のステージへとステップして、より解決が困難な課題が供給される。全てのステージをクリアするまで常にそれぞれの習熟度合いにあった課題が供給され続ける。これが、スーパーマリオの魅力の本質なんですね。スーパーマリオを楽しむには、クッパにさらわれたピーチ姫を救出するといった、お題目としての目的は実は必要ないんです。だからこそスーパーマリオは国を越え言語を越え、世界中でブームを巻き起こすことが出来たんですね。

スペランカーの「娯楽の核」

 さて、上記でスーパーマリオと比較してアクションに娯楽としての魅力が乏しいと指摘させてもらったスペランカー。しかしこのタイトルも世界中で愛されている魅力的なゲームなんですよね。実はスペランカーの魅力は、キャラクターを動かす楽しさでは、ないんです。もしそこに魅力を見出そうとすると、残念ながらスペランカーは“クソゲー”であるといわざるを得なくなってしまう。実際、そう思っている人も多いのではないでしょうか。

 では、スペランカーの魅力、娯楽の核はいったい何なのか。もしお手元にゲームがあれば是非試して欲しいのですが、ゲームをスタートしておもむろに十字キーの右を押していただきたい。

てぃてぃ、てっててっててっててっててってってー♪

はい。軽快な音楽が流れましたね(笑)。思わず笑みがこぼれてしまったんじゃないでしょうか。実は、これが、スペランカーの「娯楽の核」なんです。そう。スペランカーをプレイしていて一番楽しい瞬間は、主人公が死んだ時なんです。

 納得がいかない人は上の動画を見ていただければ。最初こそ面白がられていますが、もしスペランカーがこんなゲームだったら、一度プレイしただけで飽きられて歴史に埋もれていた事は想像に難くないでしょう。

 スタート直後にエレベーターから飛び降り自殺するスペランカー先生を見るだけで、我々は楽しさを感じる事が出来る。だけれども、それは課題として簡単すぎてそれだけでは飽きてしまうんですね。だから、常に隣り合わせの死という甘露の誘惑に抗い地下へと歩を進める。それがスペランカーのプレイヤーに課せられた課題なんです。超難易度で知られるスペランカーですが、実は攻略のために特別な反射神経やテクニックは要求されないんですよね。ただ、死に繋がる行動以外の退屈さに耐える忍耐力だけが要求される。そして死の瞬間にもっともカタルシスが感じられるが故に、プレイヤーが上達しようという意欲を維持しにくい。それがスペランカーを実際以上に難しく感じさせるんです。

 面白いから死なないように工夫するのではなく、死ぬのが面白いからより深いカタルシスを得る為に安易な死を我慢する。そうゆうゲームもある。一見倒錯的ですが、実はスペランカーはゲームとして理に適った構造をもってるんですね。

 個々のゲームの、魅力の根源「娯楽の核」の部分を掘り当てていくと、今までなぜそれを面白いと感じるのか分からなかったゲームの面白さの構造を解き明かす事が出来るんです。