そろそろsupercellについて語っておくか
話題としては周回遅れな気もしますが、なんだかTwitter上のつぶやきをまとめてくださった方がいらっしゃいますので補足がてら少しsupercellについて語っておこうかと思います。
今回のsupercell feat.初音ミクの初週5.6万本という数字はどうもはてな界隈では凄いとか何でこんなに売れたのかわからないという話になっていて、まあ凄い凄い言ってるのに水を差すのもアレかなと思って沈黙していたんですが、ニコニコ動画上で400万再生目前のメルトを筆頭に、総再生数1000万回を超すニコニコ動画のトップランナーryoのメジャーデビューCDとしては、非常に物足りない、ぶっちゃけていえばソニーミュージックはプロモーションをしくじったなというのが正直な感想だったりします。
誰に向けて売りたいのかハッキリしなかった
CDはお祭りの参加証というと聞こえが悪いというか、ネガティブな意味に捉えられてしまうかもしれませんが、今の時代音楽を聞く手段としてCDプレイヤーというのはもはや主流とは言い難いんですよね。買ってきたCDもさくっとリッピングしてPCやmp3プレイヤーで聞いているという人がほとんどなんじゃないんでしょうか。そんな環境であえてCDを購入するというのは、CDを購入するという体験を共有することでコミュニケーションの触媒にする…もっと言ってしまえば日常の話題作りとしての側面が大きいんです。ただ単に「メルトすげーいいよ!」と言うよりも、「メルトすげーいいよ!CD買っちゃった!」と言ったほうが説得力がある。多くの人がそれを言うためだけに買ったというのは言い過ぎかもしれませんが、CDを購入するという具体的行動を起こす最後の一押しってのはそういった「語りたい欲求」にあるんじゃないかななんて思っています。
そのあたりで今回のsupercellの売り方はちょっと物足りなかったというか、発売前の露出があからさまに足りてなかった。今回のCDはニコニコ動画未発表の新曲が多数収録されているというのが大きな売りの一つだったわけで、それをもっと前面に押し出しても面白かったと思うし、テレビにスポットCMを打つくらいだったら山手線の駅一つを広告ジャックするとかしたほうが話題性は高かったんじゃないかと思いますね。カウントダウンイベント的なものも何もありませんでしたし、お祭り感がないままスッと発売日になっていたというのが正直な印象です。
supercellの音楽の魅力
そもそもCMや店内放送でちょっとフレーズを聴いたくらいでsupercellの音楽の面白さに辿り着けるとも思えないんですよね。初音ミクのキャラクターで売れたんだろうという声もありますが、それはちょっと違うんじゃないかなと。例えば代表曲であるメルトなんかは以前記事にもしましたが、これは初音ミクじゃなくてもいいんじゃないかと投稿当時非常に物議を醸したりしたんですよね。にも関わらず何故今もって名曲としてニコ厨に愛され、親しまれているのかと言えば、それは楽曲のアレンジの幅の広さが一つの大きな魅力になってるんだと思ってるんですね。それが「アルバムだけ聴いててもわからない」と言った点なんですけれども、メルトは無数のアナザーバージョンがあって、歌唱もミクが歌ったオリジナル以外でも数十万再生を誇る人気の歌ってみたバージョンがいくつもあったりする。やっぱり歌和サクラだよ、いやガゼルがいい、青もふ好きだ!いやいやhalyosyが!男声バージョンならのど飴だろJK…etc、歌唱だけでなく演奏やアレンジも数限りなく存在して、それらを一繋ぎに繋げてるのがミクが歌うオリジナルバージョンなんですね。ryoの扱うミクが何色にも染まる透明性があるからこそ、誰もが自由に曲を解釈出来るし、その体験を通してオリジナル曲を聴いたときにも「自分にとってのメルト」を想起することが出来る。決定版のアレンジが一つあるのではなく、無数のアレンジの中の自分の琴線に触れる何かがオリジナルを改めて聴いたときに立体的に浮かび上がる…そんなイメージがあります。だからアレンジを聴けば聴くほど、オリジナルを聴いたときの味わいが深くなっていく…この体験は今までの“音楽”とは決定的に違う何かがあるような気がしないでもありません。
外側にあるものをパッケージする難しさ
そんなこんなでsupercellのCDというのはニコニコで聴き込んでいる人間にとっては記憶の再生装置として非常に強力なベスト盤になっているのですが、一見さんが聴いてどれほどの感銘を受けるかというのはちょっと難しいかなとは思います。そこで思い出されるのがfeat.初音ミクとしては初のメジャー流通を果たしたlivetuneの「re:package」ですね。
全曲試聴可な本気すぎる公式サイトが素敵すぎるのですが、このアルバムがすばらしいのは代表曲であるPackagedのピアノアレンジバージョンを締めくくりに持ってきているんですよね。同じ曲、同じ歌詞でも表現によってまったく違う印象を得ることが出来る、その面白さがアルバムコンセプトとしてしっかりと設計されている。個々の楽曲の好みは別にして、アルバムとしての完成度はsupercellよりも明らかにre:packageに軍配が上がりますね。
そのLivetuneが来週3月25日にニューアルバムをリリースとのことでこちらも非常に楽しみです。タイトルはずばり「Re:MIKUS」。baker、ryoらVocaloidの著名Pだけでなく、RAM RIDERやらっぷびとら、Vocaloid界隈の外からの人材も迎え入れてのRe:pacakageのremixアルバムというコンセプトアルバム。これも公式サイトで全曲試聴可という太っ腹。これはもう買うしかないですな(途中から話が違う方向に行ってる気もするけどまあいいかw。)