「アムロ脱走」を読む

 ものものしいサブタイトルですが、熱心にガンダムの戦闘シミュレーションを研究している冒頭のアムロには不穏な雰囲気は微塵もありません。ここから何がどうなって脱走することになるのか想像が出来なくて、なかなか上手い掴みです。わりと唐突気味なサービスシーンなんかも、ひょっとしてこれが原因?なんて一瞬思わされそうになったりしなかったり。

 捕虜を捉えたことで、お互いの使用しているメカニックの名称が交換されるというのも面白いですね。お互いに通称で呼び合うリアリティがガンダムの売りでもありますが、連邦の新型、ジオンの新型ではさすがに分かりずら過ぎる中で、上手い解決法ですよね。

 アムロが無断でガンタンクを運用したのはホワイトベースの規律が緩いためなんですが、今までは死線の中でそれぞれが最善を尽くすしかなかったために半ば無視されていた規律の問題に正面から向き合わなくてはならなくて、それが若すぎるブライト(このとき弱冠19歳!)には荷が重い状況なんですよね。規律を守らせるためには例外を作っちゃいけないんだけど、3日間の独房入りを命じられたセイラが緊急事態とはいえブリッジに戻っていたり、そのルーズな運用がアムロの反発心をより強くしてしまったところはあるでしょうね。

 モビルスーツ戦をやりながら、要塞や戦艦からの援護射撃が戦いの要になるような絵作りも上手いですね。ホワイトベースの主砲の爆撃でほんのわずかなダメージを負っただけで撤退するラルの潔さも見所です。奇襲奇策を得意とするシャアに対して、ラルの用兵は生残率を高くすることを旨とした基本に忠実なものなんですよね。その引き際のよさを「敵に力がなかった」と評してしまうブライトもまだまだ甘いところがありますね。