「大西洋、血に染めて」を読む

 少し間が空いてしまいましたが、追いかけていきましょう。

 アバンタイトル、ミハル・ラトキエがスパイを生業とする少女ではない、ということを敢えて強調していますね。このエピソードのテーマを良く表していると思います。

 お約束のドッキング練習シーンでGアーマーの装甲の問題を取り上げていますが、カイとミハルは装甲ペラペラのガンペリーで出撃することになるんですよね。空中で消火まで出来てしまう最新鋭機のGアーマーに対して、貨物船に急造でミサイルをくっつけただけのガンペリーというのがまた泣かせます。

 グラブロに水中戦を挑むことになったガンダムに対し、マーカーが水中戦用の武器がないことをぼやきますが、ブーンがガンダムの水中戦用武器があるはずだと警戒したりするのは面白いですね。お互いの持っている情報の違いを強調するシーンはガンダムには多いです。まあもっとも今回は特にそれが戦いの決め手になるわけでもないのですが。


 それにしても、本当につまらない死に方だ。何かを守るためでも、信念を貫いたわけでもなく、ただただ状況に流されて、無知ゆえの安易さで自分の置かれている状況の危うさに思いを馳せることもなく、それを周りに気をかけてもらうでもなく、気がつけば死んでいる。

 だけどホワイトベースの日常というのは、そんな死がありふれた状況なんですよね。名もなき甲板員たちはジオンの強襲のたびに何人となく死んでいっているし、ブーンたちが乗ってきた漁業組合の飛行機の、本来の持ち主たちもまたどうなったのかというのは想像に難くない。ミハルの死には本当になんの意味もない。何の意味もないからこそ、「何で死んじまったんだ」という言葉の残響が、何年も、何十年もずっと耳について離れないんだと思う。

 カイが回想するミハルの言葉、情景というのは本編では出てきていない、出てくる余地もないもので、言ってみればカイの妄想なんですよね。死ななくてもよかった人間を巻き込んでしまった自責の念が生んだ、せめてそうであってくれたらと言う願い。そう考えるとカイの悲しみの深さが、より染みてきます。