「恐怖!機動ビグ・ザム」を読む

 スレッガーは生きて返ってきたらどうするつもりだったのだろう。そんなことを思います。「母の形見の指輪」というのはその言葉を額面通りに受け取るのは難しい。男が母から指輪を預かるというシチュエーションは想像することが出来ないわけではないが、それはやはり指輪を渡すべき特定の相手がいたのではないかという想像力が働く。本来指輪を渡すはずだった語られることのないスレッガーの想い人。それは恐らくもうこの世になく、スレッガーのメンタリティに大きな影となっていたのではないか。

 ブライトはミライのスレッガーへの執着が一時的なものだというのをよく感じ取っていた。それはしかし男としてはあまりに物分かりが良すぎる行動のようにも思える。スレッガーは一人の女性の為だけに生きることは出来ない。それではミライを満足させることは出来ない。それはそうなのだろうが、その計算高さは美徳ではない。スレッガーの死によりブライトとミライはお互いに負い目を負うことになる。結果として2人は良い夫と良い妻を演じて生きながらえていくことになるのだが、それが息子の心に影を落としていくのはずっと先のお話。

 敗戦の将たるドズルは、一人でも多くの兵を生かすために奮迅する。それを己のプライドだと言うドズルにアムロは人の負の感情を感じ取る。意地や尊厳というものを簡単には美化しない、その突き放した視点には圧倒される。

 戦闘が終わり、アムロへと駆け寄るフラウ。そう、先週でアムロとの距離感を直接吐露してもなお、アムロはやはりフラウにとって好意の対象だし、埋めがたい距離感を感じていても、それは自らアムロから離れていくことは意味しないんですよね。ガンダムの人間関係は簡単には説明することが出来ない。一人の人間の中で複数の感情が平行して走っていて、必ずしも一貫した行動を取るわけではない。だけれども、それが人間だろう?ということを、大局を描きながら平行して描写していっている。