ストライクウイッチーズ2第6話「空より高く」の脚本を語ってみる

 ストライクウィッチーズ2第6話「空より高く」の具体的な良さについても少し語っておこうかなと。

D

 ストライクウィッチーズシリーズというのは基本的には演出が強いアニメで、それは改めて1期を通してみても変わらない印象だったんですが、1期と2期を比較した場合、2期になって脚本の洗練度がとても高くなっているように感じますね。ほぼ同じスタッフ陣容、脚本は佐伯昭志鈴木貴昭、浦畑達彦の3人のローテーションという体制は変わらないにも関わらず明らかにレベルアップしているというのは注目に値するところです。一つには、世界観設定が本業の鈴木貴昭氏が積極的に脚本に関わることでチーム全体のキャラクターや世界観についての理解が2期になってより深まっているということなのかもしれません。

 第6話は佐伯昭志氏の担当。佐伯氏はGINAXで動画からキャリアを積み上げて来た人物で、来歴を観るに脚本はプロット程度に留めていきなり絵コンテを切るようなスタイルの人なのかな?と推測しているのですが、この第6話に関しては相当に緻密な脚本設計がなされているように感じました。

初見の視聴者への配慮

 何よりこの第6話がまず素晴らしいのは初見の視聴者への配慮が行き届いている点ですね。エピソード自体が独立性が高く、前後の文脈を抑えていなくても十分にストーリーを理解することが出来る設計になっています。まずアバンタイトルで主人公・芳佳と、今回の中心人物エイラのキャラクターをしっかりとアピール。この30秒だけで、エイラの特技が並外れた回避能力にあること、非常にプライドの高い性格であることがきちんと伝わってきます。

糸杉の枝の伏線

 オープニング明け、今回の標的の解説の後に糸杉の枝を手にしてニヤニヤするエイラというシーンが挿入されます。この時の芳佳のちょっとくどいくらいの質問攻めが上手く視聴者の疑問を代弁してるんですね。ただの枝にしか見えないのに大事そうにしてニヤニヤしている。いったいこれはなんなんだろう?という。それはしばらく後で、エイラとサーニャがまだ故郷にいたころの風景にあったものだという答えが明かされます。この一連のシーンでエイラとサーニャが、他の仲間とは一線を画す強い絆で結ばれていることが強調されます。これがのちに効いてくるんですね。

サーニャと芳佳の性能

 サーニャと芳佳の性能についてもさりげなく解説がなされます。サーニャに関しては、肩に抱えた巨大な火器「フリーガーハマー」が何度も繰り返し強調されます。サーニャが特別に強い火力を持っていることを確認し、今回の任務に選任される必然を持たせているんですね。一方で芳佳のほうはといえば、「もっとも強力なシールドが張れる」ということを口頭で述べるのみでその能力は特別強調されません。この作戦に関しては「シールドが張れる」というのが最低限の必須技能というだけで、特別強力なシールドである必然はないんですね。

回をまたぐロケットブースターの伏線

 今回成層圏へと到達するためにロケットブースターというギミックが導入されますが、このギミックは2期3話でウイッチの飛行原理の基礎の解説を、2期4話で新型のジェット式ストライカーユニットの導入というステップを踏んだ上で持ち込まれているため世界観を崩すことなく視聴者が自然に受容れられるようになっていますね。もちろん今話が初見の人には関係のない話ですが、とても丁寧なシリーズ構成がなされているなと感心します。

芳佳とエイラの交代劇

 今回の最大の見どころである多段加速による成層圏(弾道軌道)への打ち上げの一連のシーンの素晴らしさについては言葉で語るよりとにかく観ていただきたいと強く思うわけですが、芳佳がエイラの我が儘を聞き入れて役割を交代するシーンが少し物議を醸していますね。私はこれは芳佳にとってはそうすることが自然だったんだと納得していたのですが(そのように受け止められるように脚本も設計されている)、この後に1期を通して観て、ここでエイラが叫ぶ「諦めたくないんだ!私がサーニャを守るんだ!」という言葉が、芳佳にとっては特別なものでその言葉に反応したんだということに改めて気付いたり。ここが弾道飛行中のエイラのセリフ「あいつの気持ちが少しだけ分かった気がする」に繋がるわけですね。

ウラルの山に手を伸ばす

 何より美しいのは、この弾道飛行中にサーニャが腕を伸ばし「ウラルの山に手が届きそう」と言うシーンですね。手が届きそうなほど近くに見えるのに、それでも帰ることの出来ない遠い故郷への想いが、前半の糸杉のエピソードに補強されてグッと胸に迫ります。この2人にどんな過去があったのだろう?故郷は今どうなってしまっているのだろうという想像力を喚起し物語へと引き込む強い力をもった素晴らしいシーンですね。

 演出の良さについてはkarimikarimiさんのこのエントリ等でも解説される通りなのですが、25分という枠の中で時間的空間的な拡がりを織り込んだ立体的な脚本もまた特筆すべきものがあったと思い改めて語ってみました。